提督がワンピースの世界に着任しました
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プロローグ1
「あー、っと。ココは何処だ?」
目の前には、染みる程に真っ青な海。振り返って海とは反対方向を見ると、自然の緑豊かでかなり大きな山。目線を更に上げると、吸い込まれるように青く高い空。
(マジで何処だ、ココ?)
気がついたら、砂浜にボーっと立っていた俺は現状把握のため周りを見回したが、何一つ今の状態を理解できなかった。
(そもそも、自分の名前がわからん)
何故俺がこんな所に居るのかという経緯を思い出そうとするが、困ったことに自分に関する記憶すら無かった。自分が誰で、どんな性格で、どんな人生を送ってきたのか……。
「司令官、鎮守府着任おめでとうございます!」
暫くの間、あーでもないこーでもないと自分に関する記憶を深く思い出そうと顎に手を当て、ウンウン唸っていた俺に向けて誰かが声を掛けた。人が居たのかとびっくりしながら、俺は声が聞こえた方へ目線を向ける。目線の先には、黒髪のセーラー服を着た少女が俺に向かって敬礼をしていた。
「君は……?」
幼さを残ししながらも、整った顔立ちをしている美少女と言えるであろう彼女の顔を凝視。何処かで見覚えがあるような容姿をした彼女を呆然としながら見ていた俺は、思わず口からそんなセリフが漏れた。
「はじめまして、吹雪です。よろしくお願いします!」
彼女の言葉にああ、そうだと思い出す。ビシッとキレイに敬礼しながら発せられた“吹雪”という言葉。彼女は“艦隊これくしょん”というブラウザゲームに登場する、艦娘の一人である吹雪にそっくりであり、自身をその吹雪だと名乗った。
最初はコスプレか?という思いが浮かんだが、直ぐに彼女は本物の吹雪であると直感で感じさせられた。
自分に関する記憶のないのに何故“艦隊これくしょん”や“艦娘”についてを知っているのか? 創作世界の住人である彼女が何故目の前の現実に存在しているのか? 訳がわからない。
夢? それとも、俺の脳が創りだした空想の世界? そもそも、記憶喪失って……などなど、混乱状態に陥った俺に吹雪は不安そうな声を俺に向ける。
「司令官?」
彼女の声にハッと意識を戻す。
「司令官とは俺のことか?」
間違いなく、彼女は俺に向かって“司令官”と言っていたが、確認せずには居られなかった。自分が司令官と呼ばれる人物であるのか記憶がなかったし、そもそも自分が誰なのか分からない。先ずは、一つ一つ確認していくことにした。
「えっと? 司令官ではないのですか?」
どうやら彼女も、状況を正確に把握しているのではないようだった。俺を間違いなく司令官であると断定できないようだ。情報をすり合わせるために、先ずは俺の状況を彼女に説明し始めた。
「すまないが、俺は自分が司令官かどうか分からないんだ。気がついたら、この浜辺に立っていて、以前の記憶が無い」
「えっ? それって記憶喪失……?って、大丈夫なんですか?」
俺の言葉を聞いて、慌てて俺に詰め寄る彼女。自分のことだがあまり実感が無いので、そこまで慌てる必要はないのだが、心配してくれた彼女にありがとう、大丈夫だと伝え、話を続ける。
「君は、どうしてここに?」
「私は、先ほど建造が完了してこちらの鎮守府に配属されたのですが……。えっと、鎮守府内に司令官の姿が見当たらなかったので探しに来た所、あなたが浜辺に立っているのが見えて声を掛けました」
“鎮守府”だったり、“建造が完了”と言う言葉。“艦隊これくしょん”を思わせる単語を聞く。
「何故俺が、司令官だと?」
「軍服を着用していらっしゃったので、司令官だと思ったのですが…」
不安そうに、答える彼女。俺はそう言われて初めて自分の服装に気がついた。確かに、今俺が身にまとっている服装は真っ白な上下に、5つの金のボタン。俺の知識にあるような、大日本帝国海軍の軍服みたいだった。
さて、本当に困った。記憶無し、手がかりなしでどうした物か。俺は軍服を身にまとっているが、記憶が無いので自分の身分が分からない。本当に、彼女の言う司令官なのだろうか。そもそも、本当に俺は軍に所属する人間なのかも怪しい。とにかく彼女の言う“鎮守府”に行けば、何かしら俺に関する情報が記されたものが手に入るかもしれない。
「とりあえず、鎮守府に案内してもらえるかい?」
「あっ、ハイ! どうぞ、こちらです」
とりあえず行動することに決めた俺の言葉を聞いて、彼女は嬉しそうに返事をして鎮守府に向けて出した。俺は、すぐさま彼女の後について行った。
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吹雪と名乗る美少女に連れられて、彼女が鎮守府と呼んでいる建物へと到着した。
赤レンガ造りの立派な建物は幾つかの棟に分かれていて、かなりデカイ。しかも、運動場だろうと思われる結構な広さがある場所が近くにあり、その鎮守府を見た俺は大学を思い浮かべた。
建物の中へと案内され、木造の廊下をずんずん進んでいく。
驚いたことに、今鎮守府には人間1人(俺)、艦娘1人(吹雪)そして妖精さん1人の計3人しか居ないということを道中で教えてもらっていた。鎮守府に行けば軍人が居るだろうと考え上官なら指示を仰ごうと思っていたのだが、人すら居ないらしく仕方なく司令官と思われる俺を司令室へ案内してもらっている途中だった。
「ところで吹雪さんは、もう鎮守府の構造は把握しているのか?」
迷いなくズンズンと進む彼女の後を歩きながら、先ほど建造完了したばかりと聞いていたけれどと、疑問に思ったことを聞いてみる。
「吹雪と呼び捨てにして下さって結構です。それで鎮守府についてですが、建造されて直に司令官を探した時にある程度の構造は把握しました」
そうだった、彼女は司令官を探していたんだったっけか。俺がここの司令官かどうかは分からないが、探してくれた事については、お礼を言っておくべきだろう。
「手間をかけさせて、すまなかった吹雪。それと、迎えに来てくれてありがとう」
「あ、いえ! 司令官も記憶がなくなって、大変な時にお手を煩わせてスミマセン。…っと、ここですね」
吹雪は俺がお礼を言うと、アワアワと慌てては居たが俺を慮るように言葉を返してくれた。そして、ある扉へ入ると俺を中へと案内してくれた。
「今、ここの鎮守府の管理をしている妖精さんを呼んできますね! 座って待っていてください」
「ん? 妖精さん? ……って、行ってしまったか」
吹雪は俺の返事も聞かずに、頭を一回下げると素早く部屋を出て行ってしまった。しかし、妖精か……。やはり居るのか妖精さん。
とりあえず、彼女の言ったとおり部屋の中央にある立派な机へと近づき椅子へと座る。かなり座り心地が良い椅子である。彼女は俺を司令官と呼ぶが、本当かどうかわからない。なので、今は座るだけで部屋の物は、触らないようにしようと思う。
椅子に座って部屋を見回すが大きな本棚が一つあるだけで、他には特に目につくもモノはない。
さて、落ち着いたところで吹雪を待ちながら自分について分かっていることを整理しよう。
名前は? 不明。
年齢は? 不明。先ほど、鎮守府の廊下を歩いている時にガラスに反射した俺の顔から推測して、成人は過ぎていると思うのだが……。
性別は? 男だ。
生まれ、住所は? 不明。日本人だと思う。
ここへ来た経緯は? 不明。気づいたら、浜辺で立っていた。軍服を着用しているのも不明。
不明ばかりだ。足がかりさえない。本格的に困ったなぁと思っては居るが、何故か俺は焦燥や不安を感じていなかった。
それよりも気になったのが“吹雪”の存在や、この鎮守府という場所について。俺の知識によれば、彼女は間違いなく2次元の創作物の世界の人間である。そんな彼女が、実在している現実。俺は、どうやら“艦隊これくしょん”の世界に転移、あるいは転生。もしかしたら、憑依かもしれないが……したのだろうと予想を立てた。
これからどうするべきだろうかアレコレ考えていると、扉がノックされた。俺が返事をすると、吹雪が部屋へと戻ってきた。
「司令官、こちらの鎮守府に居らっしゃった妖精さんに来ていただきました」
部屋へ入ってきた吹雪の右肩の上に10センチぐらいの小さな人型の何かが立っていた。銀髪の上にちょこんと水兵帽を乗っけて敬礼をしてくれている。どうやら、あの人型が妖精さんらしい。俺は椅子から、立ち上がり出迎える。
「連れてきてくれてありがとう、吹雪。それと来てくれて感謝する、妖精さん。早速、話を……」
しようとしたのだが、司令官室には司令官用の机と椅子、それに本棚のみで、応接用の椅子がない。しまったな、吹雪や妖精さんを立たせたまま話をするわけにはいかないだろう。
「質問なんだが、この鎮守府に応接用の部屋か会議用の部屋は用意されているか? そちらに移動して、座りながら話をしよう」
俺は吹雪から一番近くの応接室へと案内してもらい、吹雪、妖精さん、俺の3人で話を始めた。
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