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戦国異伝

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第百九十八話 石田三成という男その七

「鉄砲は使うがな」
「それでもですか」
「そのうえで勝つ」
 信長は林に対して答える。
「よいな」
「では、ですな」
「策はその時に話す」
 上杉との戦、その時にというのだ。
「見ておれ、今度も勝つわ」
「そのお言葉を聞いて安心しました」
「ははは、わしが言ったからか」
「殿が仰ることで間違いがあったことはありませぬ」
 林は笑ってこうも言うのだった。
「これまで一度も」
「それでか」
「はい、では次も勝ちましょうぞ」
「そうじゃな、しかしここまで兵糧も武具もよく届いておる」
 ここでこのことについても言う信長だった。
「爺も勘十郎も働いてくれておるわ」
「確かに。兵糧も鉄砲の弾もどれも」
「不足しておらぬな」
「どれも充分です」
 それだけのものが届けられているというのだ。
「まことに」
「助かるわ、やはりこうしたことがしっかりしておるとな」
「安心して戦えるな」
「何時でも」
「だからじゃ、大きい」
 このこともというのだ。
「大返しの時は佐吉や桂松がやってくれたしのう」
「ですな、あの二人がいなければ」
「御主達がおるから出来たがな」
「あそこまで手際よくはですな」
「出来なかったやもな」
 石田や大谷がいなければというのだ。
「やはりな」
「左様ですな、あの二人の働きは大きかったです」
 林も言う。
「大返しの時は」
「若し戻るのが遅れていれば」
「織田家の領地に武田が入らずとも」
「上杉も猿夜叉が止めてくれたがな」
「それでもですな」
「竹千代は危うかった」 
 家康は、というのだ。
「かなりやられておったわ」
「ですな、それが我等の戦の枷にもなっていました」
「それが助かった」
「大返しが見事に進み」
「佐吉と桂松がいてこそじゃ、特にな」
「佐吉ですな」
 あえてだった、林は彼の名を出したのである。
「あの者ですな」
「うむ、自分で手柄は言わぬがな」
「あの者はそうしたことはしませぬな」
「わしにもきついことをずけずけと言うがな」
 信長にも臆しない、それは信長自身から見てもそうなのだ。
「わしへの忠義故にな」
「厳しい忠義ですな」
「覚悟を決めてのことじゃからな」
「殿に厳しく」
「何よりも己に厳しい」
「そうした忠義ですな」
「それがあ奴を狭めてもおるが」
 それでもだというのだ。
「あ奴のよきところでもある」
「その厳しさこそが」
「わしはあ奴も好きじゃ」
 石田、彼もだというのだ。
「天下の奉行の一人となれる」
「天下のですな」
「そうじゃ、あ奴もまた天下に必要なのじゃ」
 石田、彼もだというのだ。
「是非な」
「それではですな」
「この度の戦の論功の際はあ奴に領地と茶器もやろう」
「天下の茶器の一つをですな」
「うむ、授ける」
 信長が多く持っている名器のうちの一つをというのだ。 
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