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戦国異伝

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第百九十七話 龍の勘その九

「一兵も落伍せず悪さをせぬのなら」
「それで、ですか」
「よき兵じゃ」
 こう言うのだった。
「兵はならず者ではない」
「兵は兵ですな」
 霧隠はこう幸村に返した。
「そして武士ですな」
「そうじゃ、足軽は武士じゃ」
 まさにそれだというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですな」
「武士は悪さをしてはならぬ」
「決して」
「だからこそ織田家はよい」
「兵は落伍せず悪さをせぬからこそ」
「よいわ、ではじゃ」
 それならともいうのだった。
「わしはよくな、織田家を見たい」
「そうも言われますか」
「殿は」
 今度は猿飛と伊佐だった。
「そして信長様もですか」
「御覧になられますか」
「殿だけではない」
 信長以外にもというのだ。
「織田家の家臣の方々もじゃ」
「よくですか」
「御覧になられたいですか」
「前田慶次殿もおられるしな」
 まずは彼だった。
「そしてじゃ」
「その他にもですか」
 海野も主に問う。
「殿はお会いしてお話されたいですか」
「そうした方が実に多い」
「では具体的には」
「羽柴殿もじゃしな」
「その他にもですか」
「石田殿や大谷殿ともお話がしたいな」
 彼等ともというのだ。
「是非な」
「石田殿といえば」
 望月がだ、彼の名を聞いてこう言った。
「頭は非常にいいとのことですな」
「織田家の中でもな」
「しかしその反面」
「平壊者だというのじゃな」
「そうも聞いておりまする」
「確かに。石田殿は」
 筧ここで言う。
「随分と空気を読まれぬといいますか」
「そうした御仁だそうじゃな」
「信長様にもずけずけと言われ」
 主でもだ、彼は臆することなく強く言うのだ。それは周囲から見ても驚くまでに厳しい言葉であることが多い。
「怯える様子もないとか」
「それはまた凄いのう」
 穴山もだ、筧の言葉を聞いて唸る。
「殿にもか」
「らしいのう、しかしじゃ」
「それでもですか」
「そうした御仁なら余計にじゃ」
 幸村は穴山にも言うのだった。
「是非な」
「お会いになられてですか」
「どうした御仁か見たい」
「嫌な御仁だったならどうされますか」
 由利はその場合について問うた。
「石田殿は」
「その時はその時じゃ」
「それだけですか」
「若し石田殿がそうした方ならな」
「それで終わりですか」
「うむ、しかしそうでないのなら」
 石田がだ、只の嫌なだけの者でないのならというのだ。
「是非親しくなりたいのう。大谷殿とも」
「そういえば石田殿と大谷殿は」
 また猿飛が言って来た。
「無二の親友同士とか」
「うむ、まさに肝胆相照らすな」
「そこまでの間柄ですな」
「大谷殿とは縁談の話も進んでおる」
 この話もする幸村だった。 
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