美しき異形達
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第三十八話 もう一つの古都その十一
「いいよな」
「そうよね、確かに」
「じゃあこのまま観るよ」
あっさりとした感じでの言葉だった。
「この連中は」
「わかったわ、けれど気をつけてね」
「食いものねだったり狙ったりしてくるからか」
「そう、とにかく食べることには凄い執着があるから」
幾ら食べてもだ、奈良の鹿達はとかく食欲旺盛だ。春日大社からの餌や鹿煎餅で餓えてはいないがそれでもさらに食べるのだ。
「だからね」
「そこは気をつけてか」
「目の前で食べないことがね」
それが、というのだ。
「第一よ」
「最初からか」
「そう、最初からね」
そうすればいいとだ、裕香は薊だけでなく他の面々にも話した。
「そうすればいいのよ」
「それじゃあ今の私はアウトね」
向日葵はクッキーを自分の鞄から出して食べている、それで言うのだ。
「お菓子は」
「お菓子も食べるから」
「じゃあ駄目ね」
「実際に観てるでしょ、皆」
「そういえばね」
鹿が向日葵を観ていた、向日葵の方もこのことに気付いた。
「視線感じるわ」
「そうでしょ、だからね」
それでというのだ。
「気をつけてね」
「わかったわ、もうこれで止めるわ」
食べるのと言う向日葵だった、実際にクッキーは収めてだった。
そのうえでだ、こう仲間達に言った。
「じゃあこれからね」
「他の場所行きましょう」
「阿修羅像とか観にね」
こう話してだ、そしてだった。
実際にその阿修羅像を観た、菊がその阿修羅像を観て言ったことはというと。
「お顔が三つ、腕が六本」
「噂に聞く阿修羅ね」
菫がその菊に応える。
「三面六臂の姿の」
「三つのお顔で周りを観て、よね」
「六本の腕で戦うのね」
「これは確かに強そうね」
「それもかなりね」
「若し阿修羅と戦うことになったら」
その場合を想定してだ、菊は言った。
「かなり強いわね」
「強いなんてものじゃないわね」
菫は菊に真剣な顔で答えた。
「戦い仏様だから」
「元々そうよね」
「ここにいる八部衆はね」
阿修羅以外にも像がある、菫はその八体の像全てを見回してそのうえで菊に対してこう言ったのである。
「皆そうよ」
「それじゃあ東大寺の四天王と同じね」
「仏教を守る為に戦っているから」
「そうよね」
「四天王も強いわ」
菫も彼等のことをこう言った。
「それもかなりね」
「それで八部衆もよね」
「ええ、かなり強いわ」
そうだというのだ。
「この阿修羅にしても」
「無茶苦茶強いわよね」
「元々は仏教に敵対していたらしいけれど」
「降参して?」
「八部衆になったらしいわ」
「そうなの、八部衆は皆そうよ」
ここでも寺の娘である向日葵が説明した。
「阿修羅も。インドで言うアスラで」
「そのアスラはなのね」
「魔族で。仏教とは敵対していたの」
「それが仏様に降参して」
「自分も仏様になったのよ。そう考えていいわ」
「そうなのね」
「とにかく物凄く強くて」
向日葵もその阿修羅像を観つつ菊に話す。
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