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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第四十話 目覚めの時

 太陽の光は沈み、街を染めるのは人工の光。

 その街の光をビルの上から見下ろす。

「やはり直接確認しないと細かいところまではわからないか」

 ため息を吐きつつ、踵を返す。
 先ほどもまで見ていたのはゲイ・ボルクを使いジュエルシードを破壊した場所。

 霊脈が少し淀んでいるので詳しく確認したいのだが、街のど真ん中。
 人払いの結界を張るにしてもこんな街中じゃ難しい。

「こういうときはユーノが使っていたような結界が便利でいいんだが」

 もっともこの個所の感知能力が若干悪くなっているだけで結界に直接何らかの影響があるわけではない。
 プレシア達が戻ってきたら協力してもらうとしよう。

 あの事件、ジュエルシードの事件も終わりフェイト達が本局に行くという事で別れてから半月程が過ぎた。

 もう事情聴取やら始まっているだろうし、裁判が始まれば俺自身も証言のために短期間ながら向こうにいく事になる。
 正確な日付はわかり次第リンディさんが連絡をしてくれる予定だが、それがいつになるか予想もつかない。
 
 そして、俺はアレから特に急ぎの用事があるわけでも厄介事が起きたわけでもないのでのんびりと霊脈の状態を調べているのだ。
 なにぶん小学生とはいえ学生である上、俺自身バイトやら何やらで色々あるうえに他にも優先事項があるので、なかなか時間が取りにくい。
 その事を考えると翌日、学校が休みである金曜の夜が一番作業がしやすいのだ。

 もっとも作業をするといっても三時ぐらいには家に戻り、バイトに備えて多少眠る。

 毎週金曜日の恒例となったジュエルシードを発見した個所を巡っていき、海鳴公園に辿りつく。
 海からの風が外套を靡かせる。

 その時

「魔力?」

 空気が変わった。
 濃密な魔力反応。
 その場所は

「あんな住宅街で?」

 なのはとユーノが出会って初めてジュエルシードと戦った場所も住宅街だった。
 俺とは出会わなかったがアスファルトなどが破壊されていた場所でニュースにもなっていたので知っている。
 だがそことは位置が異なる。
 ジュエルシードとは関係はなさそうだが、これだけの魔力反応。
 ともかく確認するのが先か。

 一気に跳躍し、魔力を感知した場所に急ぐ。


 そして、魔力の発生場所の付近で見つけた者達。

 まだ夜は少し肌寒く感じる時もあるこの時期に薄着の黒の衣服を纏った二人の女性と一人の少女と耳を生やした大柄な男。
 そして男の腕には意識がないのかぐったりしている少女。

 あの少女の事は知らない。
 そしてあの者達が何者かも知らない。
 だがあの四人は明らかに一般人じゃない。

 意識を周りに向ける仕草、露出した肌からもわかる鍛えられた体。

「む」

 その者達が進もうとする道に降り立つ。
 その距離二十メートル。
 遠距離戦の間合いにしては近すぎるし、近距離戦の間合いにしては一歩では踏み込みきれない位置。
 向こうもこちらを警戒して動かないのでゆっくりと口を開く。

「その子をどうするつもりだ?」
「……」
「答える気はない……か。
 なら質問を変えよう。貴様ら一般人ではないようだが何者だ?」
「……」

 その質問にも答えず、髪をポニーテールにした女性が半歩踏み出す。

「だんまりか。
 人形では無いのだから何とか言ったらどうだ?」
「……答える必要がないと思いますけど」

 さすがに人形という言葉が気に入らなかったのかショートヘアーの金髪の女性が初めて言葉を紡いだ。
 そして、ポニーテールにした女性は首にかかるペンダントを握るとペンダントは一振りの剣になる。

「なに?」

 月の光を反射する業物と思える剣。
 鍔の辺りに妙な機構が付いているようだが、俺が驚いたのはそんなことではない。
 俺はこれと同じような光景を見たことがある。
 彼女が使っていたのは戦斧だったが

「デバイス……貴様ら管理局の人間か。
 ここが魔術師の管理地だと知っての行動だろうな?」

 管理局が海鳴に入る際は必ず連絡をするようにはリンディさんを通して伝えている。
 だがその連絡はない上に意識のない少女を誘拐しているようにしか見えない行動。
 警戒するには十分だ。

 しかし彼女達の返答は意外なものだった。

「我らは管理局の者ではない。
 我らヴォルケンリッター、主を守る騎士だ」
「それに私達は魔術師なんてもんは知らねえ」

 ……また厄介な事になったかもしれん。
 なんかジュエルシードの事件の時も同じセリフを言った覚えがあるぞ。

 まあ、それはともかく管理局でなければ魔術師を知らないのも頷ける。
 それに彼女達の主というのも気になる。

「確認するが君たちはいつからこの街に?
 そして主は誰だ?」
「我らが主はこの方」
「私達が目覚めたのはつい先ほどの事よ」

 ………つまりはアレか。
 あの魔力は彼女達が目覚めた時に漏れた魔力であり、その主は男の腕に抱かれる少女で 誘拐というのは俺の勘違いだと

 ふと元いた世界で
「お主は妙なモノを引き寄せる能力でもあるのかもしれんな」
 とはっちゃけ爺さんが楽しそうに言っていたのを思い出した。
 もっともこれまでを振り返ると案外その通りかもしれないと思ったりしなくもない。

「とりあえず何が目的でどこを目指しているのか教えてくれ。
 少なくとも今現在の状況では俺は君らが戦いを挑んでこなければ戦う気はない」
「信用しろというのか?」

 疑うような視線で剣を構えた女性が睨んでくるがそれも仕方がない。
 正直この状況では俺も彼女達を信用できないし、彼女達も俺を信用できないだろう。
 だが

「信用できないのはわかる。
 そして魔術師について知らないのも無理はない。
 ああ、無論魔術師について説明しても構わない」
「我々が知らないという根拠は何だ?」

 少女を抱いた男が警戒しながら尋ねてくる。
 残念ながら根拠と問われれば明確な根拠はない。
 だが今までの状況から当てはめるなら

「管理局ですら魔術師の存在を知ったのが半月程前の話だからだ。
 そして、この土地は俺が管理しており、管理局も簡単には手が出せない。
 だが個人的な管理局の知り合いはいる。
 デバイスを使っていることから管理局の事も知らないわけじゃないだろう?
 これ以上面倒事を起こすというなら管理局に引き取ってもらうが」

 管理局の人間じゃないとしてもデバイスを持っているなら存在ぐらいは知っているだろう。
 わざわざ管理局に引き渡すなどという面倒はやりはしないが、脅しとしては有効だろう。
 少なくとも無理矢理でも話し合う状況を作る事は出来る。

「だが逆に君達の事を話してくれるなら、敵ではないというなら手を貸そう」

 俺の言葉に四人が何やら頷き合い、女性が剣を収める。
 どうやら念話かなにかで話し合ったらしい。
 俺も使えると便利なのだろうが、こればっかりは才能がないので仕方がないか。

「いいだろう。その言葉信用する。
 だが裏切ったら」
「ああ、斬るなり好きにすればいい。
 で、彼女を連れてなにをする気だ?」

 頷き合い一歩前に出るショートヘアーの女性。

「えっと私達の主なんですけど魔法も何も知らないみたいで気絶してしまって」
「単なる失神なら問題じゃねえけど、何かあったら悪いだろ」

 ショートヘアーの女性に続けるように話す少女。
 つまり話を総合すると

「主の状態を確認するために病院に行こうとしたのか?」
「ああ、主の部屋に薬もあったしな」

 薬があったというなら何らかの持病を持っている可能性もあるか。
 今日出会ったばかりの少女にずいぶんな忠誠心だ。
 だが彼らの恰好はかなり怪しい。
 全員黒のインナーのような服のみに男に限ってはアルフのような耳と尻尾付きだ。

 下手に病院に担ぎ込もうなら通報されかねない。
 いや、身元確認出来るモノを持ってなければ間違いなくされる。

「なら病院に案内する。
 だがその前に其処の男、耳と尻尾を隠せるなら隠せ。
 表向きは魔術、いや魔法の存在は知られていない。
 あまりに目立ち過ぎる」
「む、心得た」

 あと眠る少女の恰好も問題か……
 寝巻一枚の恰好では肌寒いだろう。

「―――投影、開始(トレース・オン)

 投影したのは毛布を一枚と三つのサイズ違いの女性物の上着と男性物の上着が一枚。

「転移?」
「残念ながら違う。俺の専門の魔術だ。
 質問には後で答える。彼女に毛布を、それとそれぞれ上着を着てくれ。
 いくらなんでもこの時期にその格好は目立つ」

 まあ、俺の赤竜布も十分目立つのだが気にしないでおこう。

「彼女の飲んでいる薬はあるか?」
「あ、はい。これです」

 ショートヘアーの女性が薬の袋を渡してくれる。
 その袋には『八神はやて』という彼女の名前と海鳴大学病院の文字。
 海鳴大学病院か。
 あそこならこの時間でも救急病院だから対応できるだろう。
 それに彼女の飲んでる薬も単なる風邪薬ではないようだし、急いだ方がいいか。

 彼女達が服を着たのを確認し

「なら病院に案内する。君らは飛べるか?」
「ああ、問題ない」

 ポニーテールの女性が平然と答える。
 彼女と話しているとかつての相棒である彼女を思い出すな。
 そんな事を思いつつ

「それならついて来てくれ」

 一気に跳躍し近くの家の屋根にのる。
 俺は空こそ飛べないが速度は出せる。
 空を飛ぶのではなく跳ぶ事で案内しようとする俺に彼女達は少し驚いたようだが、彼女達も空にあがる。
 それを確認し、跳躍し横目でちゃんと付いてきているのを確認しながら最短距離で病院を目指す。
 
 そして、病院の近くで大地に降りて、病院の救急外来に駆け込んだ俺達であった。 
 

 
後書き
あけましておめでとうございます。

本話からA's編です。
といってもアニメA's1話に入る前に無印~A's編のような話になりますが。

2013年もどうぞよろしくお願いします。

来週にまたお会いしましょう。

ではでは 
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