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少女の加護

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8部分:第八章


第八章

 本来ならば今ので部隊は半減している筈だった。しかしそれが二割で済んだのはジャンヌ=ダルクのパイロット達の技量によるところが大きかった。だがそこには運もあったのは確かであろう。
 運がなければ死んでいる。そうした紙一重というものが戦場には確かにあるのだ。そういう意味ではエリザベートは運がいい。しかし彼女は運だけのパイロットではないことは誰もが知っていることであった。
 多くの激戦を潜り抜け敵を倒してきている。その技量もまた相当なものなのだ。だからこそだ。彼女はワルキューレとさえ呼ばれているのだ。
 そのワルキューレが舞う。群れを為して迫る敵軍の前で。今一機のエインヘリャルが敵の中に突っ込んだ。
「あれは」
「アルプ少佐の機か」
 ジャンヌ=ダルクのパイロット達はそれを見て声をあげる。
「そうか、まずは突っ込むってわけかよ」
「面白いことしてくれんじゃねえか」
 エリザベートの同僚達は彼女の突進を見て口々に言う。
「じゃあ俺達も行くか」
「よし」
「死中に活ありってやつだな」
「隊長」
「わかっている」
 口髭の男が部下に応える。
「全機突撃だ」
「よしきた」
「アルプ少佐に続くぞ、いいな」
「了解!」
「じゃあ一気に行くぜ!」
 ジャンヌ=ダルク隊はエリザベートに続く。その前ではもうエリザベートが最初の一機に攻撃を浴びせていた。
「くっ、このエインヘリャル!」
 アラビア語での苦渋の声がコクピットの中に響く。
「何て度胸してやがる!一機で来るなんてよ!」
「おい、大丈夫か!」
 エリザベートの攻撃を何とかかわしたところで同僚から通信が入って来た。
「ああ、何とかな」
「そうか、だったらいいがな」
 返事が返って来ると通信の向こうから安堵の声があがった。
「心配してくれるのか?」
「馬鹿、違うぜ」
 それはすぐに否定された。
「御前には借りがあるからな。野球の」
「チェッ、覚えてやがったのか」
 それを聞いて舌打ちする。
「忘れたらいいのによ」
「生憎だが忘れねえぜ」
「じゃあ俺が死んでもいいのかよ」
「死ぬのなら金返してからにしろ」
 返事は実にシンプルであった。
「いいな」
「有り難いこって」
「それよりもそのエインヘリャルな」
「ああ」
 話は戦場に戻った。
「やばいぞ。ワルキューレだ」
「あいつかよ」
 義勇軍の間でもワルキューレと言えば誰なのか、すぐにわかるようになっていた。
「エリザベート=デア=アルプ中佐だ。今俺達が相手にしているのは空母ジャンヌ=ダルクの部隊だからな」
「不沈の乙女かよ」
「その乙女と共に部隊を守る女神だ」
「有り難いね、そんなのが目の前にいるなんて」
「とりあえずその女の相手は止めておけ」
「そういきたいんだがな」
 エリザベートの攻撃は執拗であった。何度も攻撃を仕掛け激しいドッグファイトを挑んでくる。

 
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