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少女の加護

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6部分:第六章


第六章

「目標、上方の敵」
「目標、上方の敵」
 命令が復唱される。
「いいな、一撃だぞ」
 その言葉をくどいまでに繰り返す。
「それで決める。いいな」
「はい」
「一撃で敵を止める」
「中々スリルがある戦いですね」
 部下達の中には不敵な笑みを浮かべる者までいた。どうやらクレールの豪胆というか向こう見ずさが移ってしまったようである。影響を受けたのかはたまた感化されて眠っていたものが目覚めたのかそれはわからない。だが彼等はもう決めていたのであった。
 第一七五艦隊は全速力で義勇軍に突き進む。その中にはジャンヌ=ダルクもいた。
 エウロパ軍の空母は連合軍のそれとは違い対艦攻撃能力も高いものを持っている。その為ジャンヌ=ダルクも戦闘態勢に入っていたのである。
「バリアーを前面に集中させて下さい」
 クレスパンは艦橋にいた。そこで前を見据えながら指示を下す。
「そして砲門を」
「了解、砲門開け」
 指示が伝えられる。それと共に攻撃用意が行われる。
「パイロット達も戦闘配置に」
「はい」
 航空長がそれに頷く。それにより待機していたパイロット達が次々にエインヘリャルに乗り込む。戦いの準備は整おうとしていた。
「今度ばかりは正気じゃねえな、おい」
 あの灰色の目の男が自身のエインヘリャルに乗り込みながら同僚達に話をしていた。
「義勇軍に自分から突っ込むなんてよ。尋常じゃないぜ」
「戦争らしくていいじゃないか」
 その言葉に口髭の男が返す。彼もまた出撃準備に取り掛かっていた。
「無茶は承知のうえだろ?命のやり取りだ」
「まあね」
 灰色の男はその言葉に不敵な笑みで返した。実はこうしたことが嫌いではないようである。
「だからここにいるのさ」
「けれど生きて変えれますかね」
「安心しろ、俺達がいる船は何だ?」
 若い男に尋ねる。彼はパイロットスーツを着て少しオドオドした様子であった。
「ジャンヌ=ダルクです」
 その声のまま答える。
「そうだ、ジャンヌ=ダルクだ」
 灰色の男はニヤリと笑ってこう言った。
「それが答えだ、いいな」
「それがって」
「戦争ってのはな、結局運なんだよ」
 昔からよく言われている言葉を口にした。周りではその運に全てを預けるしかない男達が次々とある時は愛機、そしてある時は棺桶になる銀のボディに乗り込んでいた。
「運がいい奴が生き残って運の悪い奴が死ぬ」
「それ、よく聞きます」
「そうだろう。俺達にはその運がある」
「不沈艦ジャンヌ=ダルク」
「オルレアンの少女だ。ここはそれの加護に頼ろうぜ」
「フランス人はそれでいいですよね」
「どうした?」
「イギリス人はどうしたら」
「おめえイギリス人か?」
「いえ、アイルランドですけれど」
「だったら大丈夫じゃねえか」 
 アイルランドはイギリスと古くから因縁がある。仇敵同士と言っても過言ではない。
「イングランドじゃねえんだったらよ」
「まあそうですけれど」
「イギリス人はイギリス人の女神に運を任せるんだな」
 灰色の男はこの中にイギリス人もいることを承知のうえであえてこう言葉を出した。
「クイーン=エリザベスなりクイーン=ビクトリアなりな」
「両方共戦場には出ていませんけれど」
「そうか、じゃあ女装したネルソンだな」
「気持ち悪いだけですよ、それ」
「じゃあチアガールで我慢しておくんだな」
 灰色の男の言葉は冗談にしてはやけに下手なものであった。正直誰も笑ってはいない。
「俺達はジャンヌ=ダルクだ」
「いや、もう一人いるぞ」
「いたか!?」
 口髭の男の言葉に声と顔を向けさせた。
「ワルキューレがな」
「ああ、そうだったな」
 灰色の男はそれを聞いてまた不敵な笑みを浮かべた。
「いたな、とびっきりの女神様が」
「彼女がいるなら恐れることはない」
「ああ」
 彼等だけでなく他のパイロット達もその言葉に励まされる様に応えた。
「来たぜ、その女神が」
「ああ」
「彼女がいればな」
 エリザベートがやって来た。パイロット達は彼女の姿を認めてそれぞれ言う。
「生き残れる」
「そして戦い抜ける」
「行くぜ、こっちには勝利の女神がついているんだ」
 灰色の男がここで言った。今度は上手い言葉だった。
「絶対生きて帰るぜ」
「よし」
「総員出撃」
 いいところで放送が入った。

 
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