少女の加護
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12部分:第十二章
第十二章
「下がるか!?」
それは義勇軍からも確認されていた。
「まだ戦いはこれからだというのに」
「おそらく作戦目的を達したからでしょう」
いぶかしる艦隊司令に対して艦隊の参謀長が答える。
「作戦目的」
「それは時間稼ぎかと」
「退く友軍への援護か」
「はい、今あのトリトン星系には三個の艦隊がいる筈ですが」
「一個は離脱、そして一個は」
「今まで友軍に追われてかなりのダメージを受けております」
「つまり戦えるのはあの艦隊だけだったということか」
「はい」
参謀長は答えた。
「だからこそ彼等は戦い、そして今」
「退いているというわけだな」
「それには丁度いい頃だったと思われます」
「時期だったか」
「そういうことです」
「一戦交えてか」
「それも派手に」
さらに言葉を続ける。
「我等が驚き、足を止めている間に」
「敵ながら見事と言うべきか」
その心意気に感心しているのはこの司令の武人の心故であろうか。だとすれば中々の男である。
「では追撃に」
「といっても間に合うかな」
既にエウロパ軍は撤退にかかっていた。もう砲艦やミサイル艦の攻撃も届かない範囲にまで去ってしまっている。今攻撃を仕掛けても照準が定まらず効果は期待できそうにもなかった。
「だが一応は追うか」
「既に正規軍四個艦隊は動きはじめています」
「今更か?」
それを聞いて思わず苦笑いを浮かべた。
「今まで彼等は何をしていたのだ」
「どうやら敵の後方に回ろうとしていたようです」
別の参謀が述べた。どうやら航宙担当のようである。
「後ろにか」
「敵の動きを分析し、それから動きはじめたので遅れたようです」
「悠長なことだな、全く」
「それで今追撃にかかっていますが」
「ではここは彼等に任せよう」
苦笑いを続けて述べる。
「追いつけるとは思わないがな」
「わかりました。それでは」
「だが。正規軍は何でもマニュアルなのだな」
「全ては的確だそうです」
「的確なのか?」
「はい、システムで戦争しているからだと。この場合でも間違いはないと」
「システムか」
また苦笑いの材料ができた。
「システムで戦争をするというのか」
「そうらしいです」
サハラの者にとってはいささかわからない話ではあった。彼等はサハラの人間であり連合の人間ではないという事実がここでも浮き出ていた。
「人で戦争をするのではないのだな」
「人が生き残る為のシステムだそうです」
「さらにわからないな」
彼等にとってはそうであった。
「戦争をシステムでするのか」
「そして勝つのだと」
「確かにそれで損害は極めて軽微だがな」
これは事実であった。
「だが。人をあまり無視するとな」
「連合軍は無視しているとは思えませんが」
「何も人命だけではないのだ」
司令は言う。
「人で戦う。それを忘れては」
「本末転倒ですか」
「まあいい。彼等はとにかく死なないことが目標なのだろう?」
「ええ」
これもまた事実である。連合軍は犠牲を出さないことを重要視している軍隊なのである。かなり政治的な事情があるにしろだ。実はこれは正規軍の将兵にとっては実にいいことなのだ。命を捨てずに済むならそれに越したことはない。その為のシステムでもあるのだ。
「ならそれでいいのか」
「我々を楯にしてでも」
「何、元々そういう軍隊だ、我々は」
それはもう割り切っていた。
「難民で居候だからな。その程度のことはしないとな」
「ですね。今後の為にも」
「ではとりあえずはその今後の為に動こう」
彼は命じた。
「追撃だ。いいな」
「了解」
皆それに頷く。義勇軍もまた正規軍に続く形で追撃にかかる。だがその頃にはもうエウロパ軍第一七五艦隊は悠々と戦場を離脱していたのであった。
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