戦国異伝
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第百九十七話 龍の勘その六
「天下は目指さぬ、しかしな」
「それでもですか」
「あの器は大きい」
幸村のそれはというのだ。
「驚くまでにな」
「殿から見てもですか」
「まさに天下一の武士じゃ」
それが幸村だというのだ。
「わしは天下を治める、しかしな」
「幸村殿はですか」
「また別のものを目指しておるな」
「では」
「うむ、道じゃ」
それが幸村が目指しているものだというのだ。
「この世の天下でなくな」
「道ですか」
「武士の道じゃ」
「幸村殿はその道を進まれ」
「そしてな」
「そのうえで、ですか」
「武士として己をさらに高めようとしておる」
それが幸村だというのだ。
「だからこそあれだけ強くその心もな」
「澄んでいますか」
「あの目はそうした目じゃ」
信長は幸村のその目も見た、一点の曇りもなく星の瞬きの様に眩しく済んでいるその見事な目をである。
「天下一の武士からな」
「さらにですか」
「これまで以上の武士になる」
こうも言う信長だった。
「わしはそれも見たくなった」
「真田殿のその道を」
「うむ、だからな」
それで、というのだ。
「あの者は大きい、よく天下に来てくれた」
「その真田殿なら」
幸村ならとだ、黒田も言った。
「殿のお蕎に置かれれば」
「わしを守ってくれるというのか」
「必ずや」
「いや、わしにはこの者達がおる」
信長は池田と森を見た、軍を率いて戦う彼等をだ。
そしてだ、さらにだった。
毛利と服部も見てだ、こうも言ったのである。
「だからあの者はな」
「お傍にはですか」
「置かぬ」
「ではどうされますか」
「わしには傍の者がおるが奇妙にはおらぬ」
嫡男である彼にはというのだ。
「だからな」
「奇妙丸様のお傍にですか」
「あの者の傍に置きたい」
これが信長の考えだった。
「さすれば奇妙は安泰じゃからな」
「左様ですか、それでは」
「うむ、ではな」
それではと話してだ、そしてだった。
幸村を自軍に入れてそのうえでさらに北に進む、その途中で次々に報が入って来た。上杉の軍勢のその動きがだ。
それを聞いてだ、信長は言うのだった。
「速いのう」
「ですな」
「相当な速さです」
「あっという間ですな」
「加賀から越後に」
「戻っていますな」
「やはり我等はじゃ」
こう家臣達に言うのだった。
「越後には入ることが出来ぬ」
「信濃で、ですな」
「川中島で」
「そこで戦うことになりますな」
「やはり」
「あそこしかないわ」
川中島、そこでの戦になるというのだ。
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