戦国異伝
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第百九十七話 龍の勘その三
「ですからここはです」
「春日山に戻り」
「そのうえで」
「越後に入る前にです」
その織田軍がというのだ。
「迎え撃ちます、いいですね」
「殿の仰ることなら」
上杉家の誰もが謙信の人間離れした直感を知ってた、彼はその直感により信じられぬ勝ちを幾度も果たしてきたからだ。人はこれを毘沙門天の力と言っている。
だからだ、彼等も主の言葉に頷いて言うのだ。
「只今よりです」
「越後に戻りましょう」
「そうして一気にですな」
「春日山から」
「信濃にこちらから入り」
そして、というのだ。
「尾張の蛟龍と戦います」
「そして勝ち」
「そうしてですな」
「あの者も甲斐の虎も」
敗れた信玄もというのだ、謙信は彼が生きていることも察している。
「わたくしの両腕として」
「そして、ですね」
「遂にですね」
「天下を在るべき姿に戻します」
即ち幕府が治める天下にするというのだ。
「宜しいですね」
「では今より」
「越後に戻りましょうぞ」
二十五将、それに兼続も応えだった、そのうえで。
上杉軍は金沢攻めを切り上げ越後に戻った、それはまさに水が引く様であった。
黒い軍勢が忽ちのうちに城を去っていく、それを見て。
浅井の者達は唸ってだ、こう言った。
「何と見事な去り際か」
「一兵も残っておらぬ」
「それに何も残してはおらぬ」
「まさに水が引いた様じゃ」
「実に整っておる」
こう言って讃えるのだった、上杉のその去り際を。
「これが上杉謙信か」
「ここまで見事に兵を動かすとは」
「やはり強いわ」
「そうじゃな」
「全くじゃ」
長政も言うのだった、その彼等を見て。
そのうえでだ、己の家臣達に言うのだった。
「わかったな、ああした者じゃからな」
「はい、下手に追わずにですな」
「ここは加賀を収め、ですな」
「この国おいて備える」
「そうあるべきですな」
「そういうことじゃ」
まさにそうだというのだ。
「相手は別格じゃ、迂闊に追ってもやられるのはこちらじゃ」
「逆にやられ」
「そのうえで」
「そういうことじゃ」
まさにというのだ。
「だからな」
「ではここは」
「そうしましょうぞ」
「義兄上は勝たれる」
信長への信頼も口にする。
「あの方ならな」
「上杉謙信にもですな」
「殿は勝たれますか」
「そのうえで天下を手中にされる」
「そうなりますか」
「間違いなくな」
信長なら、というのだ。
「そうされる、天下は間も無くじゃ」
「ですか、天下は一つになり」
「そうして」
「泰平が来る」
信長のその手でというのだ。
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