美しき異形達
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第三十八話 もう一つの古都その一
美しき異形達
第三十八話 もう一つの古都
薊達は京都の観光を楽しんだ後八条鉄道を利用して京都から奈良に向かった。そして奈良市に出てすぐにだった。
裕香がだ、こんなことを言った。
「奈良市に来るとね」
「嬉しいのかい?」
「ええ、凄くね」
その奈良市の、近鉄奈良駅からすぐの商店街を歩きながらだ。薊にも応える。
「憧れだったのよ」
「裕香ちゃんの住んでるところが辺鄙っていうか田舎だからか」
「そう、私から見たらね」
それこそという言葉だった。
「奈良市は大都会だったのよ」
「そうだったんだな」
「大人になったら奈良市に住みたいって」
その子供の頃を思い出しつつの言葉だった。
「そうも思ってたわ」
「それ位だったんだな」
「そう、奈良市に憧れてたの」
「それで今来てか」
「久しぶりに奈良市に来たけれど」
その奈良市の商店街の左右を目で見回しつつだ、裕香は言った。
「あまり変わってないわね」
「というか裕香ちゃんが前にここに来たの何時だよ」
「ええと、高校に入る直前にね」
八条学園高等部入試の合格発表が出た後でだ。
「来たのよ」
「お祝いで?」
「そう、合格お祝いでね。二泊三日で」
「二泊って」
その二泊三日の旅行と聞いてだ、菊が首を傾げさせた。
「同じ奈良県でも日帰りじゃないのね」
「日帰り?無理だったのよ」
裕香は菊のその疑問に即答で答えた。
「だって私の家から奈良市まで二時間かかるのよ」
「そこまで田舎だから」
「行けないこともないけれど」
それでもだというのだ。
「合格、入試祝いでゆっくりと楽しみたかったから」
「だからだったのね」
「二泊三日だったの。春休みの」
「卒業してから」
「楽しかったわ、それで神戸に入ったのよ」
八条学園のあるその街にというのだ。
「いや、神戸もいいわよね」
「人口百万以上の都会だからね」
向日葵もこう裕香に言う。
「政令指定都市よ」
「そうでしょ、こう言ったら何だけれど奈良市より大きいから」
「満足してるのね」
「都会好きなの」
裕香は自分の好みもはっきり言った。
「憧れてたし憧れてるから」
「だからもう実家には戻らないのね」
「見渡す限り山が連なってて何とかガスや水道、電気が通ってて。街まで車がないととても行けないのよ」
最寄りの駅までもかなり離れている、そうした場所だからだというのだ。
「歩いてすぐに何処でも行ける、コンビニもあるとか」
「凄いっていうのね」
「そう、だからね」
それで、というのだ。
「実家には帰らない。奈良市もね」
「大好きなのね」
「ここは何でもあるし」
この奈良市には、というのだ。
「久しぶりに来ても変わってなくて嬉しいわ」
「そうですか。それにしても」
桜も商店街の左右、並ぶ店達を見つつ言う。
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