戦国異伝
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第百九十六話 二匹の虎その八
「では御主も」
「それがしもですか」
「茶の席に同席せよ」
こう言うのだった。
「よいな」
「何と、それがしも」
「そうじゃ、御主もじゃ」
是非にというのだ。
「同席せよ、よいな」
「御館様のお言葉なら」
それならというのだ。
「それがしもまた」
「ではな」
こうしてだ、茶の席が設けられてだった。
信長は家康と共に信玄、幸村と茶を飲んだ。その場でだった。
信玄は信長が淹れた茶を飲みつつだ、彼に問うた。
「わしが織田家に入る」
「武田家全てがな」
「わしの首と引き換えか」
「ははは、そんな筈がない」
信長は笑って信玄に返した。
「わしとしてはな」
「わしの首が欲しいのではなくか」
「震源入道自体が欲しいのじゃ」
信玄をというのだ。
「二十四将、そしてそこにおるな」
「幸村もか」
「そうじゃ、欲しいのじゃ」
こう言うのだった。
「是非な」
「何と、我等の全てをか」
信玄は信長のその言葉を聞いて笑って返した。
「これはまた欲が深い」
「ははは、自分でもそう思っておる」
信長も信玄に笑って返す。
「しかし天下の為にはな」
「武田の全ての力がか」
「欲しい、天下泰平の為に働いてくれるか」
「わしは天下を治めるつもりだった」
ここでだ、信玄は信長にこのことを言った。
「そして御主はわしの片腕にするつもりじゃった」
「織田家自体もじゃな」
「天下の才を集めてそうするつもりだったが」
「そうはならなかったな」
「しかし御主ならばな」
信長なら、というのだ。
「天下を一つにし治められる」
「そう見るか」
「人の目を見るのは確かじゃ」
それに故にというのだ。
「武田を天下の為に使うというのならな」
「それならばか」
「受けよう、わしは負けたのじゃ」
このことも踏まえて言うのだった。
「それならばじゃ」
「わしの言うことを聞くというのか」
「負けた者がそうするのが道理じゃからな」
そのこともあり、というのだ。
「武田は織田に降る、そしてじゃ」
「御主もじゃな」
「織田の家臣の末席となろう」
「末席になぞせんわ」
信長は茶を飲みつつその信玄に確かな笑みで告げた。
「御主には柱の一つになってもらう」
「天下の柱にか」
「そうじゃ、御主はそのうちの一本じゃ」
天下を支える柱、それのというのだ。
「頼むぞ」
「さすれば」
信玄はあらたまって手をついた、そして幸村も。
こうしてだった、信玄は信長との戦を終えた後で降り織田の家臣となった。武田家は完全に織田家の下に入ることになった。
その時に色々と決められた、その決められたこととは。
家康は自軍の陣中に戻ってだ、家臣達にそのことを話した。
「では、ですか」
「武田二百四十万石のうち百二十万石が減らされですか」
「その中には遠江の東と駿河もあり」
「そのどちらもですか」
「我等のものとなる」
「徳川家の」
「そうじゃ、百十万石がな」
それだけのものがとだ、家康は己の家臣達に話す。
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