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Holly Night

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第1章・一年前
  ―10―

「課長、帰らないの?」
木島の問い掛けに課長は睨むだけで、泣きそうな顔で木島は自分の席に戻った。
こんな調子の課長を前に、誰が如何やって帰れようか。
「亜由美と真由美は異父姉妹か。ふぅん。」
木島の取って来た如月亜由美の戸籍謄本には母親の名前と父親の名前があり、其の母親の戸籍謄本には長女に亜由美、次女に真由美の名前があった。真由美に父親の名前…町田サトシの名は無かった。其の代わり、亜由美の父親の名前が“自動的”に付けられていた。
此の母親、法律上では亜由美の父親と未だ婚姻関係があるのだ。
「頭痛い。」
呟いた課長に井上が無言で頭痛薬を置き、課長帰って良いよ、と云った。
「もう直ぐ帰るよ。」
「そ、なら良いです。」
拓也は笑い、自分の席に座った。
「此奴等って、本当何処から来たんだろう。」
如月姉妹以外の六人である。
人一人、其れも我が子が居なくなったのだから簡単に親が見付かりそうなものだが、余程暢気な親なのか何なのか、残りの出処が判らず、課長の頭痛を加速させていった。
最初、養子の線も考えたが、何処の行政が犬猫みたく六人もの子供を渡すというのか。犬猫ですら保健所から引き取る場合厳しい審査があるのに。其れに、普通だろうが特別だろうが養子となったら戸籍に載る、其れも無いので、本当に出処が判らないのだ。
何処から子供を、売春目的で拾って来たかは知らないが、実子に迄其れをさすとは、鬼畜以外の何物でもなかろう。
「暗中模索。」
課長は呟き、電話を耳に当てた。
三回のコール音で相手は不機嫌な声で出た。
「晩早好。」
「仕事中だ、馬鹿。」
「イヴだから掻き入れ時だな。」
課長はくつくつ笑い、電話から聞こえる賑やかさと其れに絡むハスキーな声にタイを緩めた。
「そうだよ!なんか用か?」
「俺が御前に電話するなんて一つしか無いだろう。」
「断る!」
ハスキーな声が電話から響いた。
「報酬一人十万、合計六人。如何だ?悪い話じゃないだろう?」
「もう一声。」
「ほう。俺に集るか。」
「渋ちん!」
「じゃ他当たる。」
「オッケ、明白了!其れで良いよ…」
んっふふ、と課長は電話を切り、出処不明の六人のデータを全て電話相手のパソコンに送った。
「課長…?」
木島や拓也、本郷達からの視線に、こっち見るな、特に木島、馬鹿が移る、とあしらった。
「移らないよ!」
「いいや移るな。」
「何を根拠にそんな事云うの!?」
「じゃ、移らんと云う根拠も無いな。木島の馬鹿は移る。良し、解散。井上は明日来たいなら来て良いぞ。」
深く聞かれたくない課長は上手く話を逸らし、パソコンを閉じ、あっさり帰った。然し、数歩歩いた所で又戻り、
「木島、亜由美の父親とコンタクト取っとけ」
と矢張り仕事を押し付けた。
課長はそうあっさり云ったが、父親の現住所を調べるにも役所は閉まっている、もう帰る、と木島もパソコンを持ち帰宅した。
町田の事は少年課が調べると云ってくれた。
一人一人帰宅し、残ったのは当直と拓也と本郷であった。溜まった灰皿の中身を捨てた本郷は、帰るぞ、と拓也の肩を叩いた。
帰る積もりはなかったが、課長も帰ってしまい、誰も仕事する気無さそうなので、そうだな、とパソコンをスリープにした。車が無い今、課長や木島の様にパソコンを持って帰るのが重たく、面倒なのだ。本郷は元から持ち歩く習慣が無い。
「明日如何する?来るのか?」
マンション前で拓也を下ろした本郷は其れと無く聞いた。
「いいや。明日はサンタしなきゃ。」
「御前、車無いだろう。」
「あ、そうだよ。しくった。」
毎年拓也はクリスマスの日、支援する養護施設の子供達全員にプレゼントを送る。他には三月にランドセルを人数分送る。
「町田ぁ、ぜってぇ許さねぇ…」
「付き合ってやろうか?」
「あんら、龍太郎様ってば、やっさすぅい。」
「…気持ち悪い。」
「良いよ、ヘンリー使うから。」
ヘンリーも拓也以上に子供が好きで、そういう活動をしてると拓也が云ったので手伝っている。なので毎年、トナカイ二匹で施設に行っていたのだが、全部入るだろうか、と其処は考えた。
出処不明の六人、其の一人が馬鹿でかい兎の縫いぐるみを希望したのだから。
「柳生さん使えば。」
「頭良いな御前。」
柳生なら喜んで車を出してくれそうだ。
挨拶済ました拓也は静かなエントランスに靴音を響かせ、エレベーターに乗り込んだ。
「節子。俺。」
エレベーターの鏡に映る自分を見た拓也は、其の目を見たくないが為目を閉じた。 
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