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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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ALO編 Running through in Alfheim
Chapter-12 妖精の世界へ
  Story12-3 リーファと共に

第3者side


一応助けたはずのリーファに、キリトは敵視されていた。

「俺は君を斬るつもりはないよ」

「大丈夫だよ。私も助けてくれた人を斬るつもりはないから」

すると、ユイがキリトの服の胸ポケットから顔を出した。

「パパ」

「あ、こら、出てくるなって」

キリトの短衣の胸ポケットから手のひらサイズの妖精、ユイが出てきて、キリトの顔の周りを飛び回る。

リーファはユイの発言に驚いていた。

「ぱ、ぱぱぁ!?」

「あ、いや、これは…………」

「ねぇ、それってプライベートピクシーってやつ?
プレオープンの販促キャンペーンで抽選配布されたっていう…………」

「そ、そう、それだ。俺くじ運いいんだ」

「ふーん…………なんでスプリガンがこんなところをうろついているの?」

「遠出してたら道に迷って…………」

「迷ったのね…………まぁ、お礼を言うわ。助けてくれてありがとね。あたしはリーファ」

「俺はキリトだ。この子はユイ」

「…………ねぇ、君このあとどうするの?」

「とりあえず、近くの街で装備を整えたいな」

「そう。なら、それも兼ねてお礼に一杯おごるわ。

とりあえず移動しましょう。いつまでもフィールドにいるのは好ましくないわ」



リーファがウィンドウを確認すると現実では午後4時になったところだった。

リーファは輝きの戻った翅を軽く震わせた。



「リーファは補助コントローラなしで飛べるの?」

「まあね。君は?」

「ちょっと前にこいつの使い方知ったところだから」

「随意飛行にはコツがあるから…………できる人はすぐできるんだけど……試してみようか。

後ろ、向いてみて」

「あ、ああ」

キリトの背中にリーファは両手の人差し指を伸ばし、肩甲骨の少し上に触れる。

「随意飛行とは言われてるけど、イメージで飛ぶんじゃなくて、今、触ってるところから仮想の骨と筋肉が伸びてると思って、それを動かすの。

最初は、ある程度大きく動かして翅と連動する感覚を掴んでね」

「仮想の骨と筋肉……」

キリトの肩甲骨がピクピクと動き始めるにつれて灰色の翅が小刻みに震え、次第にピッチをあげていく。



そして、十分な推力が生まれたと感じた瞬間、リーファはキリトの背中を押し上げた。

途端、キリトはロケットのように真上に飛びだした。

「うわあああああぁぁぁぁぁーーー…………」

キリトの体はどんどん小さくなり、梢の彼方に消えていった。

リーファはユイと顔を見合わせたあと、一緒に飛び立ち、キリトを探しに樹海を脱した。


ぐるりと見渡すと、月に影を刻みながらふらふら移動する姿を見つけた。

「わあああぁぁぁぁぁ…………止めてくれぇぇぇぇぇ」

リーファはそんなキリトを見て、ホバリングしたままお腹を抱えて笑う。



そして、十分笑って満足したあとに無軌道に飛び回るキリトの襟首を捕まえて停止させ、コツを伝授した。

「これはいいな。


何て言うか…………このままずっと飛んでたい気分だ」

「そう!?やっぱりそうよね!」

嬉しくなったリーファはキリトに近づいて平行飛行に入った。

「慣れてきたら背筋と肩甲骨の動きを極力小さく出来るように練習するといいよ。あんまり大きく動かすと空中戦闘のときに剣振れないから。


じゃ、このままスイルベーンまで飛ぶからついてきて!」

リーファは向きを変えてスイルベーンの方角を向くと飛び始めた。






「もっとスピード出してもいいぜ」


リーファは少しずつ加速していった。

キリトの方はリーファのスピードについていく形で真横に追随していた。















気がつくと、前方で森が切れていた。

その向こうに色とりどりの光点の群が姿を見せる。

中央から一際明るい光のタワーが伸びているそこは、シルフ領の首都スイルベーンとそのシンボルである風の塔だ。

街はぐんぐん近付き、すぐに大きな目抜通りと、そこを行き交う大勢のプレイヤーまでもが見て取れるようになってくる。

「お、見えてきたな!」

風切り音の中、それに負けないように大きな声でキリトがそう叫ぶ。

「真ん中の塔の根元に着陸するわよ!」

「どうやって着地するんだ!?」

すでに、視界の半分以上が巨大な塔に占められている。

「えーと……ゴメン、もう遅いや。幸運を祈るよ」

リーファはにへへと笑うと、1人だけ急減速に入った。

「そ……そんなバカなああぁぁぁーーーー」

キリトが絶叫しながら塔の外壁目掛けて突っ込んでいった。



















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

















数分後、リーファにキリトは恨みがましい顔で言った。

「うっうっ、ひどいよリーファ……飛行恐怖症になるよ……」

「眼がまわりました〜」

ユイもキリトの胸から顔をし、ふらふらしながら肩に移動した。

リーファは両手を腰に当てて笑いを噛み殺しながら答える。

「キミが調子に乗りすぎなんだよ〜。

それにしてもよく生きてたねぇ。絶対死んだと思った」

「うわっ、そりゃあんまりだ」

「お詫びに回復してあげるから」

リーファは右手をキリトに向けて翳すと、回復スペルを唱えた。

青く光る雫が掌から放たれ、キリトに降りかかる。

「お、すごい。これが魔法か」

興味津々にキリトが顔を上げ、自分の体を見回す。

「高位の治癒魔法はウインディーネじゃないと使えないんだけどね。

必須スペルだから、キリト君も覚えた方がいいよ」

「へぇ、種族によって魔法の得手不得手があるのか。

因みにスプリガンてのは何が得意なんだ?」

「トレジャーハント関連と幻惑魔法。

どっちも戦闘には不向きで不人気種族No.1なんだよね」

「うへ、やっぱり下調べは大事だな」


キリトは大きくひとつ伸びをして、周囲にぐるりと視線を向ける。

「おお、ここがシルフの街かぁ。

綺麗な所だなぁ」

「でしょ!」

そしてキリトはリーファのホームタウンを眺めた。


スイルベーン……別名翡翠の都。

華奢な尖塔群が空中回廊で複雑に繋がり合って構成されているその街並みは、色合いの差こそあれ、皆艶やかなジェイドグリーンに輝き、それらが闇夜の中に浮かび上がる様は幻想的だ。

また、風の塔の裏手に広がる領主館はとても壮麗である。



3人が声もなく光の街を行き交う人々に見入っていると、不意に右手からリーファに声が掛かった。






「リーファちゃん!無事だったの!」

手をぶんぶん振りながら駆け寄ってくる黄緑色の髪をした少年のシルフによるものだった。

「あ、レコン。うん、どうにかねー」

リーファの前で立ち止まったレコンと言う少年は眼を輝かせている。

「すごいや、アレだけの人数から逃げ延びるなんて、さすがリーファちゃん……って……」

今更のようにリーファの傍に立つキリトに気づき、彼は口を開けたまま数秒立ち尽くした。

「な……スプリガンじゃないか!?

なんで……!?」

飛退り、腰のダガーに手を掛けようとするレコンをリーファが慌てて制する。

「あ、いいのよレコン。この人たちが助けてくれたの」

「へっ……」

リーファが唖然とするレコンを指差し、キリトに彼が何者なのかを説明した。

「こいつはレコン。

あたしの仲間なんだけど、キリト君に会う前にサラマンダーにやられちゃったんだ」

「俺はキリトだ。よろしく」

「あっ、どもども」

レコンはキリトの手を握り、ぺこりと頭を下げる。と

「いやそうじゃなくて!」

漫才のノリツッコミのように飛び退った。

「だいじょうぶなのリーファちゃん!? スパイとかじゃないの?!」

「私も最初は疑ったんだけどね。

何よりスパイにしては天然ボケ入りすぎてるしね」

「あっ、ひでえ!」

あはははと笑いあうリーファとキリトを、レコンはしばらく疑わしそうな眼で見ていた。

やがて、はっと我に返り、咳払いをしてリーファに声をかけた。

「リーファちゃん、シグルドたちは先に水仙館で席取ってるから、分配はそこでやろうって」

「あ、そっか。う〜ん……」


基本一度死んでしまえば、非装備アイテムの30%がランダムに奪われてしまうが、パーティーを組んでいれば保険枠というものが存在する。


そこに入れているアイテムは死亡しても自動的に生きている仲間に転送されるようになっている。

リーファたちも価値のあるものは保険枠に居れて置いたのだろう。



最終的に生き残ったリーファが襲われていたのはそのためだ。



そのリーファは結論が出たのか、レコンに声をかけた。

「あたし、今日の分配はいいわ。

スキルに合ったアイテムもなかったしね。

あんたに預けるから4人で分けて」

「へ……リーファちゃんは来ないの?」

「うん。お礼にキリト君に1杯おごろうと思うの」

「…………」

「ちょっと、妙な勘繰りしないでよね」


リーファはレコンのつま先をブーツでこつんと蹴り、トレードウインドウを出して稼いだアイテムの全てをレコンに転送した。

「次の狩りの時間とか決まったらメールしといて。

行けそうだったら参加するからさ、じゃあ、おつかれ!」

「あ、リーファちゃん……」

リーファは照れ臭そうに強引に会話を打ち切った。


「で、さっきの子は、リーファの彼氏?」

「コイビトさんなんですか?」

「ハァ!?」

キリトと彼肩口から顔を出したユイに異口同音に訊ねられたリーファが思わず石畳に足を引っ掛けかけた。


「ち、違うわよ!パーティーメンバーよ、単なる」

「それにしては仲が良さそうだったぞ」

「リアルでも知り合いって言うか、学校の同級生なの。
それだけよ」

「へぇ……クラスメイトとVRMMOやってるのか、いいな」

どこかしみじみした口調で言うキリトに、リーファが軽く顔をしかめた。

「うーん、いろいろ弊害もあるよー。

宿題のこと思い出しちゃったりね」

「ははは、なるほどね」


時折すれ違うシルフプレイヤーたちは、キリトを見るなりぎょっとしたり、呆然としたりと様々な反応を見せていたが、隣に歩くリーファに気付くと納得、または不審がりながらも何も言わずに通り過ぎていった。





やがて、前方にすずらん亭という小ぢんまりとした酒場のようなところが見えて来た。

どうやら宿屋もやっているらしい。

リーファがスイングドアを押し開けると、キリトもそれに倣って中に入る。

見渡すとプレイヤーの客はほとんど居なかった。



キリトとリーファは奥まった窓際の席を陣取り、互いに向かい合って腰掛ける。

「さ、ここは私が持つから何でも自由に頼んでね」

「じゃあお言葉に甘えて……」

「でも…………今食べすぎるとログアウトしてから辛いよ」

リーファがメニューにある魅力的なデザートの数々を睨みながら唸るのを微笑ましそうに眺めながら、俺もメニューに目を落とした。



仮想世界で食事をすれば、現実に戻ってからもしばらく満腹感が続く。もうすぐリアルでは夕食時だ。

あまり食べすぎるのは得策とは言えないだろう。


結局注文は……リーファはフルーツのババロア。
キリトは木の実のタルトでユイはチーズクッキー。

飲み物はワインのボトルを1本取ることになった。

NPCのウェイトレスが即座に注文の品々をテーブルに並べて行く。

「それじゃあ、改めて、助けてくれてありがと」

不思議な緑色のワインを注いだグラスを2人でかちんと合わせ、リーファが一気にそれを飲み干すのを見ながら、キリトはそっとグラスに口付けた。

「いやまあ、成り行きだったし……

それにしても、えらい好戦的な連中だったな。ああいう集団PKってよくあるの?」

「うーん、もともとサラマンダーとシルフは仲悪いのは確かなんだけどね。

領地が隣り合ってるから中立域の狩場じゃよく出くわすし、勢力も長い間拮抗してたし。

でもああいう組織的なPKが出るようになったのは最近だよ。

きっと……近いうちに世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな……」

「さて、その世界樹について、教えて欲しいんだ」

「いいけど……どうして、そこまでこだわるの? なにか別の理由があるじゃ?」

「今はまだ、会わなければならない人がいるとだけしか言えない」

キリトが真剣に話したのでリーファも追求をやめた。

「それは、多分全プレイヤーがそう思ってるよきっと。っていうか、それがこのALOっていうゲームのグランド・クエストなのよ」

「と言うと?」

「対空制限があるのは知ってるでしょ?

その他のどんな種族でも、連続で飛べるのはせいぜい10分が限界なの。

でも、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、妖精王オベイロンに謁見した種族は全員、アルフっていう高位種族に生まれ変われる。

そうなれば、対空制限はなくなって、いつまでも自由に空を飛ぶことができるようになる……」

「魅力的な話だな…………」

ユイはテーブルのクッキーを食べている。

「世界樹の上に行く方法っていうのは判ってるのか?」

「世界樹の内側、根元のところが大きなドームになってるの。

その頂上に入り口があって、そこから内部を登るんだけど、そのドームを守ってるNPCのガーディアン軍団が凄い強さなのよ。

今まで色んな種族が何度も挑んでるんだけどみんなあっけなく全滅。

サラマンダーは今最大勢力だからね、なりふり構わずお金貯めて、装備とアイテム整えて、次こそはって思ってるんじゃないかな」

「ガーディアンはそんなに強いのか?」

「もう無茶苦茶よ。

だってALOがオープンして1年経つのに、1年かけてもクリアできないクエストなんてありだと思う?」

「それは確かに……」

「実はね、去年の秋頃、大手のALO情報サイトが署名集めて、レクトプログレスにバランス改善要求だしたんだ。

回答はお決まりの
『当ゲームは適切なバランスのもとに運営されており』なんたらかんたら…………だったわ。

最近じゃあ、今のやり方だと世界樹攻略はできないっていう意見も多いわ」

「……何かキークエスト見落としてる、もしくは……単一の種族だけじゃ絶対に攻略できない?」

ババロアを口に運ぼうとしていた手を止め、リーファはキリトの顔を改めて見た。

「へぇ、いいカンしてるじゃない。

クエスト見落としのほうは、今躍起なって検証してるけどね

後の方だとすると……絶対に無理ね」

「無理?」

「【最初に到達した種族しかクリアできない】クエストを、他の種族と協力して攻略しようというのは無理でしょ?」

「……じゃあ、事実上世界樹を登るのは、不可能ってことなのか?」

「……あたしはそう思う。

そりゃ、クエストは他にもいっぱいあるし、生産スキル上げるとかの楽しみもあるけど……でも、諦めきれないよね、いったん飛ぶことの楽しさを知っちゃうとさ……

たとえ何年かかっても、きっと……」

「それじゃ……遅すぎるんだ……」

キリトはポツリと呟き……世界樹を目指すために店を出ようとした。

「……ありがとうリーファ。色々教えてくれて助かった。ここで最初に会ったのが君でよかったよ」

立ち上がりかけたキリトをリーファが呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。

世界樹に行く気なの?」

「ああ。やらなきゃいけないことがあるからな」

「無茶だよ、そんな……

ものすごく遠いし、途中で強いモンスターもいっぱい出るし、そりゃ、君も強いけど……






じゃあ、あたしが連れていってあげる」

「え……」

キリトの眼が丸くなる。

「いや、でも、会ったばかりの人にそこまで世話になる訳には……」

「いいのよ、もう決めたの!」

時間差で赤くなった頬を隠すようにそっぽを向いた。


顔を赤くしたままリーファが、此方をチラリと見る。

「明日も入るよね?」

「ああ」

「じゃあ午後3時にここでね。

あたし、もう落ちなきゃいけないから、ログアウトには上の宿屋を使って。

じゃあ、また明日!」


リーファは立て続けにそう言うと、左手を振ってウインドウを出した。

「ーーーありがとう」


リーファも笑みを浮かべ、こくりと一回頷くと、OKボタンを押した。


キリトはそれを見送ると、上の宿屋を借りるべく受付へと向かった。













無事部屋を借り、キリトは部屋に入る。

キリトは武装を解除し、ベッドに入った。

「明日から頑張ろうな…………ユイ」

「はい! おやすみなさい、パパ」

キリトはログアウトボタンのOKボタンを押した。















Story12-3 END 
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