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美しき異形達

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第三十七話 川の中での戦いその九

 一つだけではなくだ、二つにも三つにもさせた。怪人の周りに七つの自分自身を出した。
 そしてだ、こう怪人に問うた。
「この中にいる私にね」
「五感では貴様はな」
「わからないわね」
「しかしだ」
 それでもと言う怪人だった。
「貴様の場所はわかる」
「六感を甘く見るな」
 決して、と言う怪人だった。
「獣のそれをな」
「そうね、では」
 菫は身構えた、そして。
 怪人と対峙した、本来の自分と合わせて八人の彼女が全てそうした。そしてその中においてであった。
 怪人はだ、その身体に力を込めてだった。 
 菫のうちの一人、自分から見て真右にいる彼女に襲い掛かった、その菫こそが本来の彼女であると勘で感じ取ったからだ。
 だがその獣はだ、その瞬間に。
 横から一撃が来た、それでだった。
 怪人は着地したが空を切った、そこには何もなかった。
 その代わりにだ、横からのその一撃がだった。
 怪人にかなりのダメージを与えていた、そのダメージが怪人の動きを鈍らせた。そこにさらにであった。
 菫は上から一撃を加えた、それはまた左腹を斬り。
 今度は致命傷になった、怪人の背に北斗の符号、菫の紫のそれが出てだった。
 決着がついた、菫はその符号を見て言った。
「勝負ありね」
「・・・・・・そうだな」
 怪人は菫の方に顔をやって答えた。
「今の二回の攻撃でな」
「決着がついたわね」
「わしの勘が鈍ったか」
「いえ、最初は私はそこにいたわ」
「右にか」
「そうよ、けれどね」
「わしが襲い掛かったその時にか」
 怪人は菫の言葉から先程の攻撃を仕掛けた時のことを思い出しつつ言った。
「貴様は動いてか」
「横から斬ったのよ」
「そういうことだったか」
「貴方は勘もよかったわ」
 菫もそのことを認めた。
「確かにね」
「しかしだな」
「勘だけではね」
「わしを倒せないのか」
「そうよ、勘だけに頼って仕掛けて来たから」
 それで、と言う菫だった。
「攻撃に不安定さ、躊躇が出て動きがこれまでより遅かったのよ」
「無意識のうちにそうなっていたか」
「そう、それで私は攻撃をかわせて」
「逆に一撃を浴びせられたか」
「そうなったのよ」
「成程な、戦いは一つの感覚に頼りものではないな」
「六感全てに頼って」
 そうしてとだ、菫もこれまでの戦いの中でわかってきていた。それが為に今ここで怪人に対しても言えるのだ。
「戦うものね」
「そうだ、わしは勘にも自信があった」
「けれど勘だけなら」
「他の感覚がないだけにな」
「それだけ劣るわ」
 敵を感じ取る、その感覚がだ。
「だから貴方の動きも鈍ってね」
「わしは負けたのだな」
「そうなるわ」
「そうよ、それでなのよ」
 怪人は敗れたというのだ、逆に言えば菫は勝ったのだ。
「そうなるわ」
「そうか、ではな」
「それで、よね」
「わしはこれでだ」
 怪人の身体の端の方が徐々にだが灰になってきていた。それこそが怪人が死に近付いている何よりの証拠だ。
「去らせてもらう」
「そうね、もうね」
「これで終わりだ」
 こう言ってだ、怪人は完全に灰になり消え去った。菫はその灰が風に吹かれ完全に消え去るまで見届けた。
 熊の怪人もだ、その背にだった。 
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