戦国異伝

「武田の兵も将帥も死なずにな」
「攻め続けておるということか」
「本来ならとっくの昔に勝っておるわ」
　織田がというのだ。
「武田を打ち負かしてな」
「そうなっておるな、確かに」
　福島も加藤のその言葉に頷く。
「武田信玄、そして真田幸村がおらねば」
「あの二人はやはり強い」
　それも相当にだ。
「だからな」
「それでじゃな」
「あの者達が強いからな」
「武田はまだ戦えるか」
「ううむ、この戦勝つにしても」
　それでもというのだ。
「武田は強いのう」
「そう思うのう」
「いや、それでも勝てばよいのじゃ」
　ここで二人に言って来たのは蜂須賀だった、彼が言うことはというと。
「我等がな」
「そうなりますか」
「我等が勝てばですか」
「それでよい」
「このまま凌げれば」
「そうじゃ、とにかく勝つことじゃ」
「小六殿の言われる通りじゃ」
　ここでだ、二人のところに黒田も出て来て言って来た。
「武田に勝てぬということを知らしめることがじゃ」
「この戦では、ですか」
「大事なのですか」
「そうじゃ、織田にな」
「そして武田にそう教え」
「そのうえで、ですか」
「勝つことが大事なのじゃ」　
　この戦ではというのだ。
「だからよいな」
「このまま、ですな」
「戦い、そして」
「武田が我等に勝てぬことを教える」
「その為にも」
「勝つぞ」
　こう言ってだ、そしてだった。
　織田軍も戦う、そして必死にだった。懸命に戦いだ。
　夕刻になった、それでも戦いは続いてだ、信玄も信長も自ら采配を振るいお互いを見ていた。そうしてその果てに。
　夜になっても戦は続いた、織田も鉄砲を放ってだった。
　武田も攻める、そうし続けて。
　夜も戦を行う、誰もが目を死なせずにだ。
　相手を見て攻め守っていた、そこで。
　信長はだ、周りの者達に強い声で言った。
「こうなればな」
「はい、夜もですな」
「戦い続けてですな」
「どちらが立てなくなるまでな」
　まさにだ、そうなるまでというのだ。
「戦うぞ」
「はい、それでは」
「そして勝ちましょうぞ」
　周りの者達も応え戦い続ける、双方夜になっても戦ってだった。柵を川を挟んで死闘を繰り広げていた。そうして。
　羽柴もだ、明智にこう言った。
「この戦ですが」
「思ったよりもですな」
「長引いていますな」
「全くです、しかし」
「はい、それでもですな」
「この戦は負けませぬ」
　決してと言う明智だった。
「勝つのは我等です」
「夜になってもですな」
「敵を防ぎそうして」
「柵を倒させず」
「このまま凌ぎです」
「織田には勝てぬと思わせれば」
「我等の勝ちです」
　そうなるというのだ。
「この戦は」
「そうなりますな、確かに」
　羽柴も明智のその言葉に頷く、そうしてだった。
　戦いの成り行き、夜も続くそれを自身も戦いながら見る。武田の火の様な攻めは夜も続いていた。だが織田はそれでも柵を倒させることなく戦っていた。


第百九十五話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１４・８・２５