戦国異伝
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第百九十五話 長篠の合戦その七
「出来ぬわ」
「防がれていますな」
「憎らしいことに」
「全くじゃ」
実にという口調で言う幸村だった。
「これはな」
「それではですな」
「ここは」
「うむ、何とか進むにしてもな」
それでもというのだ。
「今は無理じゃ」
「ではここは」
「何とかですか」
「隙を探してじゃ」
そうして、とだ。幸村は言うのだった。
「攻め続けるしかない」
「何とか、ですな」
「このまま」
「そうするしかないわ」
これが幸村の言葉だった。
「攻めきれぬがな」
「攻め続けるしかない」
「今は、ですか」
「そうするしか」
「退けば勝てぬ」
攻めを止めてそうすれば、というのだ。
「だからじゃ」
「ここは、ですな」
「このまま攻めて」
「そうして織田の柵を倒し」
「隙があれば」
「そうするしかない」
信長の馬印が見える、それをしかと見て言うのだった。
武田の攻めは続く、だが。
織田は鉄砲隊を軸として武田の突進を阻む、やはり柵と川が大きく武田はどうしても攻めきれないでいた。
信玄はその鉄砲隊を見てだ、山本に言った。
「二段ではないな」
「はい、それにしては撃つ間が短うございます」
「三段じゃな」
「一段目が撃ち、ですな」
「二段目が撃ちじゃ」
「そして二段目が撃ち」
「三段目が撃つ」
そうしているというのだ。
「一つの段が撃っているうちの残り二段が弾を込めているのじゃ」
「そうしてかわりばんこに撃たせていますな」
「そうしておる、三河口では二段じゃったが」
「それを三段にして」
信玄は戦を見つつ言っていく。
「尚且つ柵も設けてじゃ」
「川の向こうに布陣して」
「守りを固めてじゃ」
「戦に挑んできましたな」
「三川口では引き分けじゃった」
これは兵の数に劣る武田が織田の守りに五分に戦った戦だった、そしてその戦からだったというのだ。
「織田信長は学んでじゃ」
「それで、ですな」
「あの様にしてきた」
「兵は三河口より多く鉄砲の数も多く」
「そしてじゃ」
そのうえでだったのだ。
「鉄砲は二段から三段にしてな」
「柵を川の向こうに設け」
「敵を阻みじゃ」
そして、というのだ。
「そのうえで我等に対しておる」
「そういうことですな」
「考えに考えた陣じゃ」
「我等に勝つ為に」
「これは容易には勝てぬ」
信玄は本陣に置いて言った。
「このままではな」
「さすればどうされますか」
「このままではと言ったな」
「はい」
山本は信玄のその言葉に頷いた。
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