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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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ALO編 Running through in Alfheim
Chapter-12 妖精の世界へ
  Story12-1 仮想世界、再び

第3者side

「フムグ!!」

途方もなく長い落下の末、情けない悲鳴を発しながら
和人/キリトはどことも知れぬ場所に墜落した。


深い草むらに顔を突っ込んだ姿勢で数秒間静止したあと、ゆっくりと仰向けに倒れる。


夜の深い森の中……キリトは、SAOと変わらないスペックの仮想世界を見上げた。

「また…………来ちゃったなぁ…………」



キリトの脳内を様々な疑問や情報が駆け巡る。

オブジェクトの異常表示、謎の空間移動、開始地点が何故森の中なのか。

この世界ではあの世界と違い、HPが0になっても死なないこと、いつでもログアウトできる保証がある……



と考えたところでキリトは不安にかられ、右手の人差し指と中指を揃えて振った。

だが、メニューは出てこない。


キリトは何回か試したところで聞き流したチュートリアルで言われたことを思いだし、左手を振る。

今度は軽快な効果音と共に半透明のメニューが出てきた。


その一番下に《Log Out》のボタン。試しに押してみると、警告メッセージと共にイエス/ノーボタンが現れる。

「あ、あった…………」

そして、安堵のため息をつく。上体を起こし、メニューを眺める。すると、ある異変に気づく。

「うあ…………!?」

ウインドウ最上部にプレイヤー名と種族名、HPとMPがある。

問題はそのあとで、習得スキル欄が8個も埋まっている。
スキルに一貫性はなく、マスターしたスキルまである。


「こ、これって…………」

いくつかの欠損が見られるものの、それらのスキルは《黒の剣士》キリトのステータスだった。

「ここはSAOの中なのか…………?」


さらに気になり、アイテムを見てみる。

「うわ…………」


そこに現れたのは、文字化けの激しいアイテムだった。

スクロールしてみると何がなんだか分からないものばかり。




しかし、キリトの指が不意に止まった。

暖かなライムグリーンに発光するその並びは《MHCP001》

キリトはそのクリスタルを取りだし、人差し指の先でそっと二回叩いた。

すると、クリスタルが光りだし、地上2mのところで静止した。

その光は影を作り、影は長い黒髪に純白のワンピースを纏った少女になった。

「俺だよ…………ユイ、分かるか……?」


「また、会えましたね、パパ!」

大粒の涙を煌めかせながら、両手を差し伸べたユイがキリトの胸に飛び込んだ。

「パパ、パパ!」

この時、キリトは強く感じていた。アスナともきっとまた会える、と。















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆













その後、キリトは近くの切り株に座り、ユイにこれまでの経緯を話した。

「ちょっと待ってくださいね。


ここは、この世界はSAOサーバーのコピーだと思われます」

「コピー…………?」

「はい。基幹プログラム群やグラフィック形式は完全に同一です。
私がこの姿を再現出来ていることからも、それは明らかです。
ただ、カーディナル・システムのバージョンが少し古いですね。その上に乗っているゲームコンポーネントは全く別個のものですが…………

パパの個人データがここにあったのも、セーブデータのフォーマットがほぼ同じなので、二つのゲームに共通するスキルの熟練度を上書きしたのでしょう。HPとMPは別形式なので引き継がれなかったようです。

所持アイテムは…………破損してしまっているようですね。このままではエラー検出プログラムに引っ掛かると思います。アイテムはすべて破棄した方がいいです」

「そうか、なるほどな」

キリトはアイテム欄の文字化けアイテムをすべて選択し、意を決して消去した。

「熟練度は……システム的には問題ありません。プレイ時間と比較すれば不自然ですが、人間のGMが直接確認しない限り大丈夫でしょう」

「そ、そうか。

こりゃ本物のチーターだな…………」

――でも、アスナを助け出すのに、キャラクターが強力であるに越したことはないな


「そういえば、ユイはこの世界でどういう扱いになっているんだ?」

「えーと…………このALOにもプレイヤーサポート用の疑似人格プログラムが用意されているようですね。
《ナビゲーション・ピクシー》という名称ですが……私はそこに分類されています」

言うなり、ユイは一瞬難しい顔をした。直後、その体がぱっと発光し、次いで消滅してしまった。

「お、おい!?」

キリトは慌てて声を上げる。跳ね起きようとしてから、ようやく膝の上にちょこんと乗っているモノに気づいた。

身長は10cmほど。ライトマゼンタの、花びらをかたどったミニのワンピースから細い手足が伸びている。背中には半透明の翅が二枚。まさに妖精と言うべき姿だ。
愛くるしい顔と長い黒髪は、サイズこそ違うがユイのままである。

「これがピクシーとしての姿です」

「おお……」

キリトはやや感動しながら指先でユイのほっぺたをつついた。

「くすぐったいですー」

笑いながらユイはキリトの指を逃れ、しゃらんという効果音と共に空中に浮き上がり、キリトの肩に座る。

「じゃあ、前と同じように管理者権限もあるのか?」

「いえ…………出来るのは、リファレンスと広域マップデータへのアクセスぐらいです。接触したプレイヤーのステータスなら確認できますが、主データベースには入れないようです…………」

「そうか…………実はな……ここに、アスナが…………ママがいるらしいんだ」

「えっ…………ママが!? どういうことですか……!?」

「…………アスナは、SAOサーバーが消滅しても現実に復帰してないんだ。俺はこの世界でアスナに似た人を見たという情報を得てここにやって来た。
もちろん他人の空似かもしれないんだけど…………」

「そんなことが…………ごめんなさいパパ、私に権限があればプレイヤーデータを走査してすぐに見つけられるのに…………」

「いや、大体の場所は見当が付いているんだ。世界樹…………とか言ってたな。場所、判る?」

「あ、はい。ここからは大体北東の方向ですね。
でも相当に遠いです。リアル距離置換で50kmはあります」

「うわ、それは凄いな。アインクラッド基部の直径の5倍か。


…………そういえば、俺は何でこんなところにログインしたんだ?」

「さぁ…………位置情報も破損したのか、あるいは近傍の経路からダイブしているプレイヤーと混信したのか……何とも言えません」

「どうせなら、世界樹の近くに落ちてくれればよかったのにな。

そういえば、ここでは飛べるって聞いたなぁ…………」

キリトが首をひねって肩越しに覗き込むと、クリアグレーの翅が伸びていた。

「おお、羽根がある。どうやって飛ぶんだろ?」

「補助コントローラがあるみたいです。左手を立てて、握るような形を作ってください」

キリトがユイに言われた通りにすると、簡単なジョイスティック状のオブジェクトが現れた。

「えと、手前に引くと上昇、押し倒すと下降、左右で旋回、押し込みで加速、離すと減速となっていますね」







その後、キリトは練習をして操作を飲み込んだ。

「成る程、大体分かった。

とりあえず、基本的な情報が欲しいよな…………
一番近くの街ってどこかな?」

「西の方にスイルベーンという街がありますね。
そこが一番…………あっ…………」

「どうした?」

「プレイヤーが近づいてきます。三人が一人を追っているようですが…………」

「戦闘中かな? 見に行こうぜ」

「相変わらずパパはのんきですねぇ」

キリトは初期アイテムの片手剣を取り出して数回振った。

「うわあ、なんかちっちゃい剣だな。軽いし…………まぁ、いっか…………

ユイ、先導頼む」

「了解です」

ユイとキリトは移動を開始した。















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
















リーファは三人のサラマンダーと対峙していた。


滞空制限のせいでもう飛べず、向こうは戦闘態勢をとっていた。

その時だった。

後ろの灌木がガサガサ揺れ、黒い人影が飛び出てきた。
それはサラマンダーのすぐ横をすり抜け、空中でぐるぐると錐揉みしたあと、派手な音を立てて草の中に墜落した。
予想外のことに、リーファとサラマンダーたちが呆気に取られて1人の乱入者を凝視する。

「うう、いてて……着陸がミソだなこれは…………」

緊張感のない声とともに立ち上がったのは…………キリトだった。

「何してるの!早く逃げて!!」


だがキリトは動じない。右手をポケットに突っ込むと、リーファと上空のサラマンダーたちをぐるりと見渡し、声を発した。

「重戦士三人で女の子一人を襲うのはちょっとカッコよくないなぁ」

「なんだとテメェ!! たった一人でノコノコ出てきやがって馬鹿じゃねぇのか。望みどおりついでに狩ってやるよ!」

キリトの前方に陣取ったサラマンダーが、音高くバイザーを降ろし、突進を開始した。

しかし…………



ランスが体を貫こうとした瞬間、キリトは右手をポケットに突っ込んだまま、無造作に左手を伸ばし威力を孕んだランスの先端をがっしと掴んだ。


キリトはサラマンダーの勢いを利用して腕をぶん回し、掴んだランスごと背後の空間に放り投げた。

「わあああああ…………」

情けない悲鳴を上げながら飛んでいったサラマンダーが、待機していた仲間に衝突し、両者は絡まったまま地面に落下する。大きな金属音が重なって響いた。

一方、キリトはくるりと振り返ると、背中の剣に手をかけ、そのままピタリと動きを止める。

「あの人たち、斬ってもいいのかな?」

「少なくとも先方はそのつもりだと思うけど…………」

「じゃあ遠慮なく…………」

キリトは右手で背から初期武器の剣を抜くと、だらりと地面に垂らした。


すっと重心を前に移しながら左足を一歩前にした瞬間、衝撃音と共にその姿が掻き消えた。






数秒後、剣を真正面に振り切ったキリトが、遥か離れた場所に低い姿勢で停止した。



すると、2人のサラマンダーの内、立ち上がりかけていた方の体が赤いエンドフレイムに包まれ、その直後に四散する。小さな残り火が漂っていた。







リーファと空中のサラマンダーが唖然と身守る中、キリトはのそっと立ち上がり、再び剣を構えつつ振り向いた。


突進をいなされたもう1人のサラマンダーは、まだ何が起こったのか理解していないようで、見当違いな方向をきょろきょろ見渡している。
そのサラマンダーに向かって、キリトは容赦なく再びアタックする素振りを見せた。


初動は気負いのないゆらりとした動き。しかし、一歩踏み出した瞬間には、再び大気を揺るがす音と共にキリトの姿が霞んだ。


剣が下段から跳ね上がり、サラマンダーの胴を分断した。
エフェクトフラッシュが一瞬遅れる。キリトはそのまま数m移動し、剣を高く振り切った姿勢で停まった。
再び死を告げる炎が噴き上がる。そして2人目のサラマンダーも消滅した。






キリトはのんびりとした動作で体を起こし、上空でホバリングしたままのサラマンダーのリーダーを見上げた。

「どうする?あんたも戦う?」

その緊張感のまったくないその言葉に、我に返ったサラマンダーは苦笑した。

「いや、勝てないな、やめておくよ。アイテムを置いていけというなら従う。もうちょっとで魔法スキルが900なんだ、デスペナが惜しい」

「そちらのお姉さん的にはどう? 彼と戦いたいなら邪魔はしないけど」

「あたしもいいわ。今度はきっちり勝つわよ、サラマンダーさん」

「正直、君ともタイマンで勝てる気がしないけどな」

サラマンダーは翅を広げ、去っていった。
















Story12-1 END 
 

 
後書き
Chapter-12からはキリトとシャオンの話が交互に出てきます。

理由は、シャオンの話だけ書いても面白くないからです。
他にも、話が短くなるというのもありますが。


あと、10000PV突破記念の話は……都合上まだ投稿出来ません。
投稿はいずれしますが、まだ出来ないので気長に待っていてください。

じゃあ……

シャオン「次回も、俺たちの冒険に!ひとっ走り……付き合えよな♪」
 
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