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ルドガーinD×D (改)

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二十八話:諦めたらそこで終わりだぞ?

「あれは……エクスカリバー。一体あれをどうするつもりなのかしら」

「何、少しすれば分かるさ。リアス・グレモリー」

「コカビエル! 一体何をしているの!?」


怪しげな実験をしているバルパー達の元に着いたグレモリー眷属を待ち受けていた物は魔法陣の中心に静かに浮かぶ三本のエクスカリバーだった。その異様な光景にリアスが眉を寄せている所に宙に浮く玉座のような椅子に座るコカビエルが彼女達を見下しながら話しかけて来た。

それに対して彼女は毅然とした態度でコカビエルを問いただすがコカビエルはけだるそうに頬杖をつきながら魔法陣を見つめるだけで答えを返さない。その姿は特にはその実験に興味を持っていないというのを如実に表していた。

それもそうだろう、コカビエルが興味をもつ物は戦いしかないのだから。
だからこそ彼は平穏を何よりも嫌い、乾いた己の心を癒すためにこうして戦争を起こそうとしているのだ。彼は根っからの戦闘狂なのだ。


「若者達、悪いけどバルパー・ガリレイ博士の実験はもう少しかかるんだ。それまでの間、俺の暇つぶし相手になってもらうぜ」


そんなコカビエルの様子をよそにまるで遊び相手が欲しくてたまらないといった子供様な雰囲気を出しながらグレモリー眷属の前に歩み出すリドウ。その姿につい数時間前に手痛い目にあわされた祐斗は苛立ちが隠せずに歯ぎしりをする。


「お前は……確かルドガーが言っていた、リドウ」

「俺の名前を憶えていてくれたなんて感激だよ。赤龍帝君」


イッセーから名前を呼ばれたことに対してワザとオーバーに反応するリドウ。その様子を見てグレモリー眷属の彼に対する嫌悪感はさらに高まる。それも当然だろう人を喰った態度しか出さない人間に好意を抱くことなど普通は無い。むしろ彼女達の様に嫌悪感を示すのが普通だ。そしてなにより、リドウという人間は意図的にそういった態度を取り相手の気分を害することを楽しむ性を持っているのだ。

最も、犬猿の仲のような人間が相手だと手痛いしっぺ返しを食らう事も多々あるのだが。例えば、おろしたてのオーダースーツを靴裏で蹴られたり、顔面を靴裏で踏まれてサングラスで隠さなければならない程の痕を残されたりなどの実害を被っている。まあ、それでもやめないのがもう一つの彼の特徴でもあるのだが。


「それで、何がしたいのかしら?」

「ちょっとした余興さ、リアス・グレモリー嬢。ちょっとだけ―――遊んでくれよ」


リアスにそう言い放つと同時に光がリドウの体を包み込み、その姿を変えていく。
そして光が消えた時にはリドウの姿は上半身をまがまがしい赤と黒の鎧のような物で覆い、背中からは翼を思わせる突起物を生やした姿となっていた。

その姿はクルスニク一族に与えられた力の証であると同時に呪いでもある能力―――骸殻だ。
そして、リドウの骸殻は正史世界に四人しか存在しなかったハーフ以上の骸殻能力者であることを示すハーフ骸殻だ。


「その姿! まさか骸殻!?」

「ご名答。ルドガー君から聞いているんなら話が早い。俺もルドガー君と同じクルスニク一族なのさ」


そう言った次の瞬間、リドウの姿が消える。そのことに驚くグレモリー眷属だったが、直ぐにリドウの居場所を知ることになる―――自らの仲間が蹴り飛ばされたことで。


「うおっ!?」

「イッセー君!?」


吹き飛ばされたイッセーの居た場所にいるリドウを見て祐斗は肝を冷やしながら直ぐに剣を構える。一切、目で追えなかったのだ。彼は『騎士』だ、速さに関しては自らの速さに自信があると同時に敵の速さを見切ることにも自信があった。

エクスカリバーの効果で速さを上げたフリードに対しても見失う事も無ければ、追いつけないこともなかった。さらに以前ルドガーが骸殻を使った時もかろうじてではあるが目はついていけていた。

しかし、今回は違う、まるで見えなかったのだ。まさに気づけば目の前に立っていたという状況なのだ。次元が違いすぎる、それが戦いを開始して直ぐに感じた祐斗のリドウに対する感想だ。そして同時になぜ、ルドガーが『倒せるのは現状、俺だけだ』と言ったのかも理解した。


「そんな顔するなよ。もっと楽しもうぜ」

「うるさい!」

「……食らえ!」


ニヤニヤとした表情で煽って来るリドウに祐斗が正面から頭に斬りかかり。小猫が背後から殴りかかる。しかし、リドウはそれに全く焦る様子を見せずに祐斗の剣を左手の医療ナイフで防ぎつつ、後ろの小猫を見ることもなく後ろ蹴りで蹴り飛ばす。

そして剣を防いでいた手を跳ね上げて祐斗のバランスを崩し、そこに出来た隙に蹴りを入れて祐斗を吹き飛ばす。この一連の流れの間には五秒と時間はかかっていない。しかも殺さないように器用に手加減をしてだ。


「雷よ!」

「おっと、そんな雷で痺れさせられたら好きになってしまいそうだ」


リドウの周りに味方が居なくなったことを確認して朱乃が雷撃をリドウに放つが、リドウは軽口をたたきながら楽々と宙に飛んで避ける。しかし、人間は空中では身動きが取れない。
そこが隙だと思ったリアスが素早く己の滅びの力で作った魔力弾を放ちリドウを狙う。


「当たりなさい!」

「残念だけど、当たらないんだよな、これが」

「空中で一回転して避けた!?」


しかしながら、リドウは魔力弾が当たりそうになった瞬間に大きく縦に一回転してそれを躱してみせた。その時のリドウの表情は危なかったという類の表情ではなく楽しくて仕方がないといった表情でリドウが全く本気で戦っていないことをよく表していた。
そして、攻撃を避けきったリドウが地面に着地すると同時に二つの影が突進してきた。
イッセーと祐斗である。


「おらぁっ!」

「はあああっ!」

「やれやれ、そんな見え見えの攻撃なんて食らうかよ」


リドウは軽く欠伸をしながら二人の気迫のこもった剣と拳をしゃがんで躱す。そして、その状態から腕を支えとしてカポエラの技のような回転蹴りを放ち祐斗とイッセーを吹き飛ばす。吹き飛ばされた二人が急いで治療にやってきたアーシアに起こされるのを見ながらリドウは骸殻を解く。
遊びは終了したのだ。そしてここからは新たなお遊びが始まる。
相手を精神的に揺さぶる、お遊びだ。


「さてと……こんなものか。そういえばルドガー君はどうしたんだ? 一緒に来ていないのか?
 ああ、もしかしたら君達を見捨てて逃げ出したのかもな」

「ルドガーがそんなことするわけねえだろ!」

「いいねえ、熱い友情だね、赤龍帝君。でも、お前達はルドガー君の本性を知らないだろ?」

「ルドガーの……本性?」


その言葉に動揺するグレモリー眷属達を見てリドウは心底愉快な気分になる。
ユリウスの隠していたことをルドガーにばらすのも心底面白かった。自分の嫌いな人間の苦しんでいる顔が同時に見られるのだから面白くないわけがなかった。

それに俺は真実を教えてやっているだけだ。何も嘘はついていない。
正し、どういった理由でやったのか、までは教える必要はないと思っているけどな。
そう考え、リドウはクツクツと笑う。

その笑いを聞いたグレモリー眷属が嫌悪感を隠すことなく睨みつけてくるがリドウにとってはまるで気にならない。慣れたものだとさえ思いながらたっぷりと含みをつけて口を開く。


「ルドガー君はさあ、自分の欲望の為に平気で―――罪のない人を殺してきた人間なんだよ」

「うそだっ!」


リドウの言葉を腹の底から声を出して否定するイッセー。だが、その声には僅かばかりの震えも入っていた。そしてそこを見逃すリドウではない。ニヤリと笑いこのぐらいの情報の方が想像の余地が残ると判断したリドウはここで話を切り上げて彼等の不安を煽ることにした。


「まあ、信じるも信じないもお前達次第だ。ただし、俺は“嘘”は一言もついてないぜ」

「出鱈目を言うな――「ふははははは……ついに…ついに成功だ!」――何だ!?」

「ようやく、完成か。新しい―――エクスカリバー」





Side木場祐斗


新しい……エクスカリバー? その言葉につい先ほどまで考えていたルドガー君の本当の姿については完全に頭の中から消えてしまい、ただ茫然と魔法陣の中心で輝きを放つ一本の剣を見ることしか出来なくなってしまう。

さっきまで、あそこには三本のエクスカリバーが浮いていた。それはしっかりと確認したから確実だ。そして今現在は一本の剣が浮いている……。
そうなってくるとあの剣は―――三本のエクスカリバーを合成させた物!


「ふははははは! ようやくだ…ようやく新たなエクスカリバーを創り出すという夢が叶ったのだ! ……そう言えば、君は“モルモット”の生き残りだったな? ちょうどいい感謝しよう、君達の尊い犠牲のおかげで私の夢が叶ったのだ!」


「ふざけるな! 貴様に殺された、皆の想いが分かると言うのかい!?」


バルパーの余りの言い方に腸が煮えくり返るような思いになる。
どうして、あなたは命を道具のように扱うことが出来るんだ!
どうしてゴミのように捨てることが出来るんだ!
狂ったように笑うバルパーに対してそう思うも怒りでこれ以上の言葉が出てこない。
僕はただ、血が出る程強く手を握り締めることしかできない。そのことが堪らなく悔しい。


「生き延びたご褒美だ……君には真実を教えてあげよう」

「真…実?」

「聖剣を扱うにはある特殊な因子が必要だ。まあ、簡単に言えば聖剣因子とでもいうものかね。私は『聖剣計画』において君達を集めて因子の有無を研究した……だが、誰一人として聖剣を扱えるほどの因子を持った“物”はいなかった」

「僕達に……聖剣因子が無かったからか…!」

僕のその言葉にバルパーは首を横に振る。違う…? どういうことなんだい、僕達は因子がないことを理由に殺されたんじゃないのか。持っていたのならどうして殺されなくちゃいけなかったんだ。そこまで考えて唐突に嫌な予感に襲われる。

まさか…いや、そんな…そんなことがあっていいわけが…っ!
ふと気づくと足が震えて立っているのも、やっとの状態になっていた。
まるで知ってはならないことを知ろうとするのを拒む様に体が拒絶反応を起こす。

そしてそんな僕の様子など気にも留めないバルパーが口を開く。


「君達にも少なからず因子はあった……だが、足りなかったのだ。だからこそ私は考えた、足りないのなら集めればいい、君達―――出来損ない共から因子を抜いてね」


何…だって? 茫然とする僕の目の前に青い瓶が一つ、乱雑に投げ捨てられる。
ああ…そうだ。これは……間違いない、これは僕達の……っ!
ガクリと力なく膝から崩れ落ちる。怒りも悲しみも湧いてこない……ああ、これが本当の絶望というものなのかもしれないね。何も…感じられない、ただ意味もなく存在するだけの僕。
そんな僕の耳にまたもバルパーの狂ったような声が響いてくる。


「因子を抜いて、それを集め、結晶化すれば、聖剣を第三者が扱うことが出来る!
たとえ才能が―――因子がなくともな! その瓶に詰まっている物こそが君達から抜かせてもらった因子だ。もう私には必要が無い物―――ゴミだ。ご褒美として君にあげよう」

「お前、人を何だと思っているんだ!? 第一その理論なら殺さなくてもいいはずだろ!」

「君は余ったゴミを処分しないのか? 赤龍帝」

「ふざけんなっ!!」


僕達の扱いについて怒ったイッセー君の声が聞こえてくるけど右から左に流れていってまるで頭に入ってこない……今は“みんな”と居たい。

ああ……こんなものが……こんな小さな塊が“みんな”の生きた証だって言うのかい?
ゴミとして捨てられるようなものが生きた証だったのかい。
それなら…それならどうして僕は今ここに生きているんだろう、どうして僕だけが生き残ってしまったんだろう。

こんなどうしようもない僕が生きている価値なんてないんじゃないだろうか。
僕もあの時みんなと一緒に死んでしまえばよかったんだ。そうすれば苦しむ必要なんてなかったんだ。そう思うと悲しくもないのに涙が流れてくる。僕はそれを拭く気も起こらずただ、流れるままにした。そしてその中の一滴が“みんな”に降り注いだとき―――


『君は生きていていいんだよ』


「みん…な?」


聞き覚えのある声にハッとして辺りを見回してみると光に弱い悪魔の僕ですら居心地よく感じてしまうような光に包まれた僕の周りに薄ら青い透明な光を纏ったみんなが居た。
どうして…どうして生きていていいんだなんて言うんだい?
僕は何も出来なかったっ! 僕は……皆を見捨てて…っ。
今も呑気に平和に暮らしているのに…どうして…っ!


『君は僕達を見捨ててなんかいない』

『だって、君は今も昔もずっと、僕達のことを想い続けてくれているじゃないか』

『それが例え復讐だとしても、君がずっと想い続けてくれていることが―――私達は嬉しい』


当たり前だ! 僕が君達を想わない日があるわけなんてない。
だって僕達はずっと一緒だったんだ。仲間だったんだ、友達だったんだ。
そんな君達を―――忘れられるわけがない!
僕はギュッと“みんな”の生きた証を抱きしめながらただ涙を流し続ける。


『君が僕達を想い続けてくれているように僕達も君を想い続けている』

『あなたは一人じゃない、ずっと一緒。一人の力は弱くても、みんなと一緒なら大丈夫』

『怖がらずに受け入れよう……聖剣を。大丈夫、僕達が支えてあげるから』

『さあ、歌おう……僕達がずっと一緒だという“証”の歌を―――』


歌が聞こえてくる……悪魔になってから決して歌う事も聞くこともなかった歌が。
僕達がいつも一緒に歌っていたあの歌―――聖歌。

みんなの声に合わせて僕も歌う、悪魔であれば歌うだけで頭が痛くなるものだけど今回ばかりはそんなことにはならない。だって……みんなと一緒にいるから。
歌っていると何か暖かい物が心に染みわたっていくように感じる。
これが何なのかが僕には分かる、これはみんなだ。僕の為にずっと一緒に居てくれるんだ。


『いい? 何があっても、これだけは忘れないでね』

『そんなちっぽけな塊なんてなんの意味もないし必要ないんだよ、だって―――』

『君が僕達の―――』




『――“生きた証”だから――』




「ありがとう……みんな…っ!」


歌を歌い終わると同時に全ての光が僕の体に纏われていく。
そしてすぐに光が―――みんなが僕の中に溶ける様に入っていく。
これでずっと……僕達は一緒だ。一人じゃないんだ、聖剣に負けることなんかもないんだ。

もう、怒りも憎しみも悲しみもない。ただ、やらなければならないことをするだけだ。
僕は目を閉じてスゥーと息を吸いこみ、そして息を吐き出す。
そして目を開けてバルパーを睨みつける。
今から行うのは復讐じゃない、僕の果たすべき使命だ!


「………バルパー・ガリレイ。貴方はこれからも人を傷つけ、殺すだろう。
 僕は第二、第三の悲劇を繰り返さない為に今ここで―――貴方を、滅ぼす!」

「黙れ! フリード、新しいエクスカリバーを使って奴を殺せ!」

「はいはい、ようやく僕ちんの出番ですねえ! 長ったらしい喜劇にも飽きてきたんですよねえ!」


僕は魔剣を創り出しバルパーを静かに睨みつける。
そんな僕に対してバルパーはフリードに指示を出す。フリードは待ってました、とでも言うように嬉々としてエクスカリバーを手に取る。

例え本物のエクスカリバーを合成させたものだとしてもそんな物は僕には通用しない。
剣を構え、みんなに祈る。みんな……僕に力を貸してくれ。
一緒に越えよう、あの時を……叶えることの出来なかった聖剣を―――越えよう!


魔剣(ソード)創造(バース)禁手化(・バランスブレイク)


魔剣が白と黒のオーラに覆われていき、魔剣の形状が変化していく。
そして、全ての変化が終わった後には僕の手には一本の白と黒の剣が握られていた。
分かる……これは聖と魔が融合した力、みんなで聖剣を受け入れた証。
僕は剣を―――聖魔剣をフリードに突き付け言い放つ。


「『双覇の聖魔剣(ソードオブビトレイヤー)』……聖と魔を司るこの剣を受けてみるがいい!」

「あっひゃっひゃっ! 何だか知らないけどおんもしろそー!」

「祐斗…まだ敵は居るわ。それもあいつより遥かに強いのが。
 だから―――一撃で決めてきなさい!」

「はい!」


一撃で決めてこいという部長の命令に思わず笑みが零れる。以前の…“みんな”と一緒に居ない前の僕だったら無理だと思ったと思う。でも……今は違う、むしろ出来ないわけがないと思っている。どうしてそんなことを思えるかだって?

簡単さ、だって僕はみんなの―――“生きた証”だから!
みんなの生きた人生が、想いが、聖剣如きに負けるわけがない!

一気に加速してフリードに近づく、フリードも敢えて避けずに真正面から受け止めに来る。
エクスカリバーが負けるわけがないという自信からだろう。
でも僕はその幻想を木端微塵に―――壊す!


真正面からぶつかり合う僕達、辺り一面に響き渡る激しい金属音。
次の瞬間、その音は剣士であれば聞きたくない刃の折れる音に変わる。
そして跡形もなく折れた剣は―――



「ありがとう、みんな。……みんなと一緒に生きてこられて…僕は本当によかった」



―――フリードの持つエクスカリバーだった。


「おいおい、まじっすか!? エクスカリバーが折れちゃうとかどんな冗談だよ………と言うかこの状況っておれっちやばくない? てなわけでエスケープしまあす!」


いつものように閃光弾を取り出して目くらましをするフリード。
僕はそれを止めようともしない、正直言ってフリードなんてどうでもいい。
今、僕がやらないといけないことは一つだ、バルパー・ガリレイを滅ぼす!


「ば、馬鹿な!? そんなことがあり得るわけがない! 聖と魔、二つの相反する力が混ざり合うことなどあり得な―――」

「サヨナラだよ、バルパー・ガリレイ」


何やら叫んでいるバルパーに一気に詰め寄り、聖魔剣でその喉を切り裂く。
赤い血しぶきを上げて崩れ落ちていくバルパー・ガリレイを見ても何の感慨もわかなかった。
当然だろう、僕は復讐の為に殺したんじゃないんだから。

第二、第三の悲劇を繰り返さない為に殺したんだ。
以前の僕とは違う……それに、本当の勝負はこれからだからね。
剣を振るって血を払いながら今までで最強の敵を睨みつける。

堕天使の幹部コカビエル、ルドガー君と同じ骸殻を使うリドウ。
一筋縄でいかないどころか、勝てる見込みが全くないと言っても過言じゃない相手だ。
でも…だからと言って諦めるわけにはいかない。
勝利の女神は諦めない者にしか微笑まないのだから。


「バルパーを殺したか……まあいい。どうせ消しても問題のない奴だったからな。それに……お前のやりたいと言っていた術式はエクスカリバーと同時に完成したのだろう、リドウ」

「ああ、この町全体をぱーっとブッ飛ばす予定だったけど、その十倍位の強さにしておいたぜ。
 花火はデカい方がいいだろう?」

「違いないな」


酷く愉快気に、まるで日常の雑談でもするかのように話し合うコカビエルとリドウ。
何だって? この町全体を吹き飛ばす術式だって? しかもその十倍だなんて正気で言っているのかい。そんなことをすれば一体どれだけの人が死ぬと思っているんだい!

また、目の前でたくさんの犠牲者を出すなんて僕は絶対に許さない!
みんなの想いを無駄にするようなことはさせない。僕達が命を賭けてでも止めてみせる。
そう思っている所にニヤニヤと笑ったリドウが話しかけてくる。


「どうせ全部、ぶっ壊すんだ、何しようと自由なわけだ。
 だから精々自由に足掻いてくれよ。若者達」

「ふざけたことを言うな!」

「おいおい、俺は大真面目だぜ――「祐斗の言う通りだ」――ちっ、上からか!」


突如聞こえて来た声に反応して立っていた場所から飛び去るリドウ。すると次の瞬間まるで爆撃のような音が響きリドウの立っていた場所に巨大なクレーターが出来上がる。
そしてその中心に突き刺さるのは巨大な槍。全く……彼はヒーローみたいな登場の仕方をするね。

丁度、空から飛び降りて来た彼を見てそんな感想を抱く。まるで漫画の主人公みたいな登場の仕方だよ。都合よく強敵の戦いの前に現れるしね。君の本性がどういったものかを僕は知らないし、知る必要もない。ただ、僕は目の前にいる君を信じているよ。


「遅れてすまない」

「はあ…やっと着いた」


そんな彼の到着と同時に今まで姿を見せなかった二人の聖剣使い紫藤イリナさんとゼノヴィアさんも僕達の横に現れる。二人共、彼と一緒に僕が気絶させられた後にバルパー達を追ってコカビエルと戦闘になったと聞いていたから心配していたけど、どうやら大丈夫そうだね。

二人の安否を確認して再び彼に目を戻す。以前に見た骸殻とは違いリドウのように上半身を黒い鎧によって覆われていて、髪はどういう理由か彼の自慢のメッシュが抜けており銀色一色に染まっている。彼は自分が投げつけた槍の所まで黙って歩いていき槍を地面から引き抜き、クルクルと回してから真っ直ぐにリドウに向けて突き付ける。


「お前の好きなようにはさせない! リドウ!」

「いいねえ、そういう正義面した奴をぶっ倒すのが楽しいんだよ、ルドガー君!」


二人の骸殻能力者が今ぶつかり合う。

 
 

 
後書き
ケルベロスは犠牲になったのだ…そうリドウさんの活躍の為のな。 
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