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ハイスクール・DM

作者:龍牙
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10話

 さて、堕天使側への嫌がらせ感覚でカツキング達三人に向かわせたわけだが……実際戦闘になった所で勝つのはキング達である事は疑い様がない。
 四季としても……自分は兎も角、次に詩乃に手を出したのならただでは済まさない、と言う意思を伝えてもらえればそれで良いと言う感覚での行動だった。……まあ、もし堕天使の相違で詩乃に手を出そうものなら……相応の報いを与える心算だが。

 一誠の初の悪魔家業の裏での四季達アウトレイジの動きはそんな物だった。

 そして、その翌日……一誠が『アーシア・アルジェント』と言うシスターと出会い、彼女を道案内する為に天使の領域である教会に近付いた事をリアスに咎められていた頃、四季と詩乃はカツキング、クロスファイア、ブルース、ジャッキーと言った本来のクリーチャーとしての姿を見せているアウトレイジ達と共に廃墟の入口にいた。

 リアス・グレモリーの領地内に入り込んだはぐれ悪魔……四季と違い普通の少女であった詩乃の『裏社会見学』の対象に選ばれたのが、この廃墟に居るはぐれ悪魔だ。

「……なに、この匂い?」

「血の匂い……」

「血……」

 廃墟に入った瞬間に微かに漂ってくる濃厚な血の匂い。四季の言葉に詩乃は震えながら四季の後ろに隠れる。

「この辺の行方不明になった連中の数からすれば当然だな」

「チッ! 気にいらねぇな」

 今回のはぐれ悪魔の事を調べていたブルースが何時もと変わらない口調で告げられる中、ジャッキーがそんな声を上げる。

「四季、戦うのはお前だ」

「分かってるって、キング」

 カツキングの言葉に四季がそう答える。今回は四季の戦いを改めて詩乃に見せる事にある。……四季の実力ならば“雑魚”と言っても良い相手だが、彼女にとっても、四季達アウトレイジにとっても今後の行動を左右する。

 四季が守ると言った以上、彼女はアウトレイジ側の人間……『仲間』となった訳だ。故に、彼女が殺し合いの空気に耐えられるかどうかによって、今後が大きく変わる。

 ただ震えながら四季や彼と共に戦うアウトレイジ達に守られるだけか、己の中の神器ドラバハート・ウェポンを持って四季と共に戦う道か。

「ひっ……」

「詩乃!?」

 彼女の感じていた恐怖が強くなるのが分かる。立ち込めていた敵意が、殺意へと変わっていた。四季達は何事も無い様に受け流しているが、彼等の中で彼女だけが例外だ。
 だが、哀れとしか言えないだろう……


「不味そうな匂いがする。でも美味そうな匂いもしているぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」


「ケッ!」

 ケタケタと笑う異様な声がクロスファイアの一睨みだけで止まる。……僅かな一瞬でこの廃墟に潜んでいるはぐれ悪魔程度にも理解できる程の実力差を叩き付けた。

「おい、四季。どうやら、此処にいる奴はオレ等の事を舐めてる様だぜ」

「だろうな」

 隔したに舐められたと言う事に怒りを覚えながら四季へと声をかけるクロスファイア。そんなクロスファイアに同意しつつ四季は腕に赤き血(ザ・ヒート)を展開する。

 炎によって繋がられた蛇腹剣……それを、

「ハートビート、ヒート!」

 蛇腹剣から炎の鞭となって放たれる一撃が、廃屋の闇を照らしながら“ソレ”を捉える。

「グァァァァァァァァア!!!」

 炎の蛇腹剣に巻き付かれ闇の中から引きずり出されたのは上半身が裸の女性で、下半身が巨大な獣の姿をした異形……。以前遭遇した人間に黒い羽が生えた程度の異形とは比べ物にならない“化け物”。実力の違いは兎も角、見た目が与える恐怖は間違いなく今回のほうが上だろう。

「おい、はぐれ悪魔……御託は良い、さっさと始末してやるからかかって来い」

 だが、この程度の化け物など既に四季にとっては見慣れている。寧ろ今は先ほど詩乃を脅えさせた事に対する怒りが赤き血(ザ・ヒート)展開時の炎熱操作の能力と合わさって炎の勢いが増している。
 まあ、それによって周囲……特に詩乃に熱を一切感じさせない所は流石としか言い様が無い。
 既に赤き血(ザ・ヒート)の能力は完全に把握してコントロールしている。はっきり言ってどれだけ高温にしようが周囲に熱を一切感じさせずに触れた物だけを焼き尽くす事はたやすい。

「小賢しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい! 人間風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! その生意気な口を永遠に閉ざして……ガハァ!!!」

 今度は蛇腹剣を今度はハグレ悪魔の顔面へと叩きつける。

「うるせぇんだよ、雑魚が」

 そして、赤き血(ザ・ヒート)を背中へと展開、ブースターの様に展開された部分から放出された炎によって加速をつけ、はぐれ悪魔へと肉薄する。





「四季の実力も分からねぇたぁ、あいつ雑魚だな」

「まったくだ」

 先ほどのはぐれ悪魔とのやり取りを眺めながら詰まらなそうに呟くカツキングとクロスファイア。四季の方が実力は上と判断している上に、格下である筈のはぐれ悪魔が『人間如き』と格上の四季を舐めているのだから、最初から勝負は決まった様な物だ。

「はぐれ悪魔『バイザー』。典型的なはぐれ悪魔だな」

 このハグレ悪魔について調べていたブルースが何の感情も無く告げる。調べていたブルースにとっては最初から分かりきっていた結果だ。
 ブルースには彼独自の配下に『デスパペット』と呼ばれるモノ達が存在している。……命を持たない無機物でありながら、ブルースによって仮初の命を与えられた人形達。命を持たぬが故に不死。不死身の名を持つブルースの従える不死の軍勢は戦闘だけでなく調査にも活用できる。

 懐に飛び込んだ四季が蛇腹剣を伸ばしてバイザーの両腕を切り飛ばしたのを見た瞬間、完全に四季の勝ちを確信しているのかカツキングとクロスファイアは退屈で欠伸までし始める始末だ。

「はぐれ悪魔って、何?」

「ああ、それはな……」

 先ほどの言葉の中で浮かんだ疑問を詩乃はジャッキーに問いかける。

「悪魔の中には他の種族から転生した『転生悪魔』ってのが居る。そいつらを転生させる為に使う道具が『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』だ」

「イーヴィル・ピース?」

「ああ、何でもチェスの駒をベースに作られて、全部で15の駒が有るそうだ」

 そう言って兵士が8、騎士と僧侶と戦車が2、女王が1と具体的な数を教えられる。

「キングが足りない気がするけど、チェスの駒と同じって訳ね」

 既に詩乃の中に脅えは無い。……四季の戦う姿、その後姿を見ているだけで恐怖を振り払ってくれる。

「ああ、それでそれを作った奴が、四季が大嫌いな二人の魔王の一人で『アジュカ・ベルゼブブ』だ」

 四季曰く、『己の作ったものに責任を持たない下衆な科学者』と評される魔王の一角。そもそも、四季がサーゼクスとアジュカを嫌っている理由がそもそも悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に有る。

「まあ、大昔に有った戦争で天使も悪魔も堕天使も数を減らして、悪魔は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を使って、人間や妖怪、ドラゴンって言った他の種族を悪魔に転生させて数を増やしたって訳だ」

 其処で話を切ると、

「で、だ。その悪魔の駒を貰った上級悪魔に悪魔にされた転生悪魔が、主を裏切ったり、主を殺したりして逃げたのが《はぐれ悪魔》って訳だ」

 そんな事を話している間に四季を押し潰さんと巨体を持って踏み潰そうとする。

(それにしても、やっぱり似てるよな……“あいつ”に)

 四季には悪いと思いながらも、クロスファイアは今この場に居ない自分の弟分の姿と四季をダブらせてしまう。あいつが此処に居れば、兄弟のように仲良くなれただろうに、そう思わずには居られない。





「この小虫がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うるせぇんだよ、獣が!」

 バイザーが雄叫びを上げて巨大な足で四季を潰そうとするが、巻きついた蛇腹剣が一瞬で切断と焼却を行い足の一つを焼失させられる。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 続け様に残った三本の足も同様に切断・焼失を行い、四本の足全てを失ったバイザーの体が崩れ落ちる。

 真上に振り上げた四季の腕から伸びる炎の蛇腹剣を竜巻状に高速回転させ、擬似的な火炎竜巻を作り出す。同時に圧縮させ火炎竜巻の熱量を高めていく。

「あっ……あっ……」

「消えろ……」


灼熱の竜巻(ヒート・テンペスト)!―


 目の前に現れた太陽と見紛うばかりの火炎竜巻を前にバイザーは理解してしまった。……目の前に居る相手は人間であっても……はぐれ悪魔である自分よりも恐ろしい化物(英雄)であると。


「はぐれ悪魔バイザー、貴女を滅しに……「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!!!」……来た、わ……」


 突然響く第三者の声を遮る様に響き渡るバイザーの悲鳴。炎の竜巻に焼かれて焼失していくバイザーの姿とそれを成した四季。そして、三体のアウトレイジに囲まれて守られている詩乃。廃墟に入ってきたリアス達グレモリー眷属は流石に唖然としてしまう。

「終ったぞ」

 そう言って何処か不安げな響きが有る声で四季が振り返る。……改めて見せてしまった事で怖がられたかもしれない、そう思う。

「その……怖く、なかったか?」

「カッコ良かったわよ、四季」

 そう言って微笑んでくれる彼女。それだけで不安は無くなる。

「ああ、ありがとう、詩乃」

 誰に認められなくても良い。ただ詩乃にそう言って受容れて貰える、それだけで十分だ。

 戦闘と詩乃の裏社会見学も無事終わり、帰ろうと思った時……

「待ちなさい!」

「チッ、居たのかよ無能の妹とその他」

 思わず舌打しながらリアスの姿を視界に捕らえてそう呟く。


 
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