戦国異伝
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第百九十五話 長篠の合戦その四
「斬り込み倒すぞ」
「わかりました、それでは」
「確かに織田の兵は多い」
信玄はこのことをとかく念頭に置いていた。
「我等の三倍以上おる、しかしじゃ」
「柵を倒し斬り込めば」
「そして本陣まで届けばな」
そうすれば、というのだ。
「我等の勝ちじゃ」
「まさに突っ込むことですね」
「火となるぞ」
こうも言った信玄だった。
「我等そのものにな」
「武田の赤は火の赤ですな」
「そうじゃ」
まさにその通りだというのだ。
「それに対して織田は青じゃな」
「はい」
「木の青じゃ」
まさに五行思想においての言葉だ。
「木は火に弱いな」
「勝てるものではありませぬ」
高坂も五行のことはよく知っている、それでこう信玄に答えたのだ。
「木は火に負けるものです」
「そういうことじゃ、ここはそれを見せるのじゃ」
「さすれば」
「鉄砲は一撃目は撃たれようとも構わぬ」
この考え自体は三河口の時と同じだ、しかし今回は柵がある。だが信玄はあくまで強く言うのであった。
「その間にな、騎馬隊が使えずともじゃ」
「他の兵で、ですな」
「攻めますな」
「騎馬隊を使わねばならぬということもない」
この辺り実に柔軟であるのだ、信玄は。
「使うべき時に使うということじゃ」
「兵も」
「そうあるべきですな」
「そうすれば勝てる」
幾ら敵が多くいてもというのだ、ここまで話してだった。
信玄は席を立った、そのうえで家臣達に告げた。
「行くぞ」
「では今より」
「勝ちましょうぞ」
家臣達も続いて立つ、そうしてだった。
武田六万の兵が動いた、それを見てだった。
織田の兵達は一斉にざわめき立った、彼等を率いる将達もだ。
山内がだ、そのざわめき立つ家臣達に言った。
「騒ぐでない、怯えれば負ける」
「そ、そうですな」
「怯えれば」
「落ち着くことじゃ」
それが大事だというのだ。
「よいな、落ち着いてな」
「そうして、ですな」
「殿の仰る通りに」
「うむ、柵で敵を防ぎじゃ」
その突進を阻み、というのだ。
「川もある、それに長槍の者達もな」
「ですな、ここは」
「落ち着いて構え」
「そうしてですな」
「敵を迎え撃つのですな」
「そうじゃ、撃て」
その鉄砲をというのだ。
「そして御主達は下がりじゃ」
「そうしてですな」
「その後は」
「後ろに並べ、よいな」
「畏まりました、さすれば」
「手筈通り」
兵達も山内の言葉に頷く、そうして落ち着きを取り戻してだった。
柵を前にして鉄砲を構える、柵とその前にある川の向こうにだった。武田の騎馬隊が凄まじい勢いで駆けて来ていた。
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