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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第151話

「あ・・ああ・・・・」

もう呻き声のような声しか漏れなかった。
それほどまでに目の前の絶望が制理の精神を蝕んでいく。
泣き叫んで大声をあげて子供のように泣き喚きたい衝動に駆られる。
ティンダロスの猟犬たちはそれが分かっているのか、一気に襲う事はなくゆっくりと歩み寄る。
まるで死が刻々と近づくように。
あっさりとは殺さない。
這い寄る絶望を堪能しながら恐怖に支配されて死んでいく。

「あははは・・・・ははは・・・」

もう笑うしかできない。
ここで泣き叫ばなかったのは未だに人間の理性が少しでも残っていたからだろう。
しかし、逃げようとしない。
そもそも逃げる意味もない。
これだけの猟犬に出くわせば死んだも同然だからだ。
およそ、二メートル。
この短い距離をゆっくりと制理に向かって歩み寄るティンダロスの猟犬たちだったが。
そこで制理の後ろから光が照らされる。
それに続いて何度もクラクションが鳴り響く。
突然やってきた車が制理とティンダロスの猟犬の間に綺麗に割り込んでいく。
その際に一番先頭にいたティンダロスの猟犬は車にぶつかり吹っ飛ぶ。
運転席の窓が開くと、そこには黒い髪の女性が乗っていた。

「早く乗るじゃん!!」

「え・・・え・・・」

あまりの急な展開に制理がついていけていない。
女性は焦るような声でもう一度言う。

「早く!!」

急かされる声を聞いて制理はようやく立ち上がり、後部ドアを開けて中に入る。
制理が後部ドアを閉める前に、女性は来た道を引き返す様に猛スピードでその場を去って行く。
後部ドアを閉めて後ろを確認しようとしたが止める。
もし追って来ている所を見たら、今度こそ発狂してしまうだろう。
助手席には白衣を着た女性が乗っていた。
友人だろうか?、と制理は適当に考える。
何より人に会えて一緒にいるという事が制理の精神を少しずつだが落ち着かせる。
そして、あの現実がとてつもない非現実である事を再認識すると呼吸が荒くなっていく。

「それでたまたま近くを通ったらあの場面に出くわしたんだけど。」

「あ、ありがとう・・ございます。」

呼吸を落ち着かせながら制理はお礼を言う。
そこでようやく運転している女性の顔をはっきりと確認する。
その顔に見覚えがあった。
何度か体育の女性教師だ。
学校で美人なのにいつも緑色のジャージを着ている残念な美人だ、という噂になっている先生だ。
その女性の方も制理に見覚えがあるのかこう言う。

「あれ、小萌先生が担当しているクラスの子じゃん。」

「は、はい。
 その、あなた達は?」

「ウチは黄泉川愛穂。
 何度か学校で会っているじゃん。」

「私は芳川桔梗。
 元研究者で愛穂の友達。」

助手席の女性もそれに便乗して自己紹介をする。

「吹寄制理です。
 助けていただいてありがとうございます。」

「子供があんな状況に陥っているのを見過ごす訳にはいかないじゃん。」

「それより聞きたいのだけれど、あの化け物は何?
 私、生物学である程度の構造とか知っているけどあんなの図鑑でも見た事ないわよ。」

「そんなにひどいの?」

「見ない方が良かったと後悔するくらいね。」

さっきのティンダロスの猟犬を思い出したのか桔梗は少しだけ口元を押える。
それを見た愛穂はあの桔梗が吐き気を催すほどのものなのか、と少しゾッとした。
制理を助けた時、愛穂はティンダロスの猟犬たちとは逆の方だったので見る事はなかった。
だが、逆に桔梗はしっかりと視界に入ってしまった。
四足獣であるということ以外は、犬には似ても似つかない身体。
口から出る「太く曲がりくねっていて鋭く伸びた注射針のような」長い舌と全身が「原形質ににいているが酵素を持たない青みがかった脳漿」のような粘液に覆われた、まるで何も食べていないような痩せこけたような身体。
あんな冒涜的な生物などこの地球上に存在する訳がない。
いや、存在してはいけない。

「さて、これからどうするじゃん。
 恭介は一向に見つからないし。」

「麻生を捜しているのですか?」

愛穂から恭介という名前を聞いて制理は反応する。

「まぁ、ちょっとした事情で今捜しててね。
 そういう吹寄も恭介を捜しているの?」

「あいつにちょっと尋ねたい事があって。」

後部ミラーで制理の表情を確かめる。
少し思いつめたような、聞く事を恐れているようなそんな感じがした。

「ともかく、あんな化け物がいる以上吹寄を一人にさせる事はできないじゃん。
 しばらくはウチ達と一緒に」

その瞬間だった。
愛穂が運転しているフロントガラスに降り注ぐ雨を取り除くワイパーの先端から強烈な存在感を感じた。
その存在感を制理は知っている。
一度知れば忘れられる訳がない。
そう、あの猟犬が出てくる前兆だ。
ワイパーの先端から黒い霧と共にティンダロスの猟犬が出現する。
その出現に桔梗は息を呑み、愛穂は視界が防がれたのと冒涜的な存在を目の前にして咄嗟にハンドルを切ってしまう。
そのまま近くの街灯に勢いよく直撃してしまう。
あまりの衝撃にエアバックが作動する。
シートベルトをしていなかった制理は前の席に身体を打ち付けてしまう、
エアバッグのおかげかさほど怪我もなく前を見る。
ティンダロスの猟犬は今はいない。
何とかエアバックをどかし、エンジンをかけるが全く反応しない。

「吹寄!
 大丈夫かじゃん?」

「だ、大丈夫です。
 頭を打ちましたけど、何とか。」

幸いにも制理も頭を手で押えている程度で済んだようだ。
隣にいる桔梗もエアバックを何とかどかしている。
ともかく車が使えなくなった。
さっき出てきたティンダロスの猟犬を見た限りまた来る可能性が高い。
愛穂は車内無線の下にある収納ケースを開ける。
そこには非常事態用のM1911のハンドガンとマガジンが一つだけは言っていた。
それらを手に取り、ドアを開けて外に出る。
後部ドアを開けて制理は外に出て、桔梗も車を出る。
ハンドガンの調子を確かめながら、二人に言う。

「さっきの化け物が来るかもしれない以上、近くの警備員の第七学区支部まで移動するじゃん。
 こんな拳銃だけじゃあ心ともないじゃん。」

「賛成ね。
 この子も安全な所に避難させないとだし。」

出発しようとその場から離れようとした時だった。
またも強烈な存在感を感じた。
その三人は既に感じた事のあるモノだったから分かった。
あいつらがくると。
それは愛穂の車から感じた。
歪んでできた鋭角や破片からなどあらゆる限りの鋭角から黒い霧が出現する。
それらはまとまって一つになると、そこから十体のティンダロスの猟犬が現れる。

「さっきより増えてる!?」

さっきよりも増えている事に制理は信じられないような顔をする。
愛穂は躊躇わず引き金を引く。
弾丸は一体のティンダロスの猟犬に命中する。
だが、少しだけ怯んだだけで傷一つつかない。
それを見て、愛穂は舌打ちをして制理の手を掴んで引っ張る。

「逃げるよ!!」

桔梗も愛穂について行く。
対するティンダロスの猟犬たちも逃げる獲物を追い駆ける。
しかし、本来ならすぐに追いつけるはずなのに一定の距離を保っている。
楽しんでいるのだ。
この一方的な狩りを。
愛穂達は路地に入って入り組んだ道を使いながら追っ手を撒こうとする。
しかし、この程度で猟犬を撒く事はできない。
何とか裏路地から出ようと出口を目指す。
愛穂は警備員(アンチスキル)の仕事上こういった路地関係の道は全て覚えている。
すると目の前に出口が見えた。
ここを出て少し走れば警備員(アンチスキル)の第七学区支部がある。
そこならもっといい装備が置いてある。
あと少しで出口に着きかけた時、その角から強烈な存在感と共に黒い霧が出現する。
そして、二体のティンダロスの猟犬が出現した。
三人は足を止め、引き返そうとするが後ろからは七体のティンダロスの猟犬がそこまで来ていた。
愛穂はハンドガンで二体のティンダロスの猟犬に向かって発砲する。
マガジンが空になるまで発砲する。
それでもティンダロスの猟犬には全く通じない。

「くそ!!」

マガジンを入れ替えるが、その一瞬の隙に出口側のティンダロスの猟犬の一体が愛穂に襲い掛かる。
青みがかった脳漿の前足が愛穂の身体を抉りにかかる。
咄嗟に制理を桔梗の方に突き飛ばす。
桔梗は慌てて制理を抱き留める。
だが、ティンダロスの猟犬が愛穂の身体を抉る事はなかった。
抉る直前、愛穂が首から下げているお守りが光り輝く。
愛穂と制理と桔梗の三人を囲むように光の輪が出現する。
その光の輪のおかげなのか。
襲い掛かってきたティンダロスの猟犬はその輪に触れた事で後ろに吹き飛ぶ。
ちょうど、出口側で待機していたもう一体のティンダロスの猟犬にぶつかる。
出口を邪魔をしているのが居なくなった。

「今の内に!!」

今度は桔梗が制理の手を引っ張って愛穂と共に裏路地を出る。
逃げながら光を失ったお守りを愛穂は強く握る。

(恭介、ありがとう。)

三人は引き続き警備員(アンチスキル)の第七学区支部まで走る。 
 

 
後書き
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