ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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ALO編 Running through in Alfheim
Chapter-11 不可避の現実
Story11-1 帰還と現実
前書き
ALO編、スタートです!
聖音side
俺は、埼玉県所沢市郊外のとある病院に来ていた。
この病院は俺の自宅がある埼玉県川越市から片道14.7kmのところにある。
俺が何故ここにいるか。それを説明するには、1ヶ月半前の『帰還』の時の話から話さなければならない。
――俺がSAOの世界から帰還した直後、一人の男が部屋に入ってきた。
『総務省SAO事件対策本部』の人間だと名乗るその男は、何があったのかを問い詰めるために俺の病室に来たらしい。
…………SAO事件対策本部の彼らでもサーバーに手出しは出来なかったが、被害者の病院受け入れ態勢を整え、ごくわずかなプレイヤーデータをモニターしていたらしい。
彼らは俺のレベルと存在座標から、俺が攻略組であることを知っていたために俺の病室に来たようだ。
俺が彼らに出した条件は一つ。
知ってることは何でも教えるから、俺の知りたいことも教えてくれ、と。
俺がそこで知ったのは…………桜華が所沢の病院にいること、桜華を含めた全国で約300人のプレイヤーがまだ目覚めてないことだった…………
と、こういうわけだ。
とりあえず、正門を通過して自転車を駐輪場に停め、1階受付で通行パスを発行してもらった。
その通行パスをポケットに突っ込み、最上階の18階まで階段をのぼる。
リハビリ中なのにエレベーターを使うわけにはいかないので、息をきらせながら18階まで歩いていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
約1分半かけて最上階にたどり着いた。
長期入院患者の多いこの階にはほとんど人がいないため、少し寂しい雰囲気が漂う。
俺は廊下を北に向かって歩いた。
しばらくして突き当たりに薄いグリーンの塗装がされた
扉があり、その右横にネームプレートがあった。
『春宮桜華 様』
こう書かれたネームプレートの下部分の細いスリットに通行パスをスキャンして扉を開けた。
一歩踏み込んだとたん、そこが異世界のような気がした。
冬とは思えないほど色とりどりの生け花。
小さなクリスマスツリーの置き物。
俺はそれらを一瞥すると、部屋の奥のカーテンを開けた。
そこにいたのは…………未だ目の覚めない少女の姿。
正直……初めてここに来たときには、桜華の姿を見るのをためらった。桜華は、自分のこんな姿よりも元気な姿を見てほしいのではないか……そう思ったからだ。
綺麗で繊細な茶色の髪はあの世界の時よりも長く、腰のあたりまで伸びていた。
白い肌は透き通るような感じだったが、丁寧なケアのおかげなのか頬にわずかな赤みが差しているほど健康体に近かった。
体重は……もともと軽かったのか俺ほどには落ちてないようだ。
俺は体重が7kg落ちていたため戻すのが大変だった。
頭には濃紺のヘッドギアがある。
未だ彼女を仮想世界へと縛り付けたままの拘束具のインジケータLEDには青い輝きが3つ瞬いていた。
「桜華。俺、今日で君と同じ16才になったんだ。
本当は…………君に祝ってほしかったな…………」
あの声で、『おめでとう』って言ってほしい…………
俺は桜華の右手をそっと握ったあと、病室を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
来た道を戻り、階段で1階まで降りて受付で通行パスを返すと、俺は自転車置き場へと向かった。
俺の自転車の隣には、『桐ヶ谷』のシールが貼ってあるマウンテンバイクがあった。
あいつも……ここに来てるのか。
愛用の自転車に鍵を差していると、俺の聞き慣れた声が聞こえた。
「マウンテンバイク…………どこに置いたっけ?」
その声の主は…………
「ここだぞ、キリト。
お前のマウンテンバイク」
キリトだった。
「サンキュー………………ってお前シャオンか!?」
「あ、バレた。
いかにも…………俺はシャオンだ」
「お前、なんでここに?」
「桜華…………フローラのとこに行ってたんだよ」
「そうか…………フローラも…………」
そこで正午を告げる鐘が鳴った。
「…………昼飯、一緒に食うか?」
「そうだな」
俺とキリトは並走しながら帰り道途中のそば屋に寄ることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
埼玉県川越市の俺の家からわりと近いところに、俺が家族と一緒によく行ったそば屋があった。
俺がまだ幼かったころはここのそば屋に預けられていたために店長さんとは長いつきあいだ。
キリトもそこには何度か立ち寄ったことがあるらしく、俺たちは自転車を停めたあと店に入っていった。
「いらっしゃい! って聖音じゃねーか!」
「店長さんどーも」
「元気にしてたか?」
「元気も何もSAOから帰ってきてまだ1ヶ月半。
体は本調子じゃない」
「だよな……」
「一番奥、座るよ」
「あいよ」
一番奥の席に座り、メニューを手に取る。
「お前何にするー?」
「肉そばかな」
「んじゃ俺天ぷらそば。
おばちゃん! いるー?」
「いるよ。
注文は?」
「天ぷらそばと肉そば1つずつ。そんだけ」
「そうかい。少し待っとくれよ」
おばちゃん――店長さんの奥さん――を呼んで注文したあと、俺たちは話を花を咲かせた。
「顔広いな……シャオン。
そう言えば…………俺、お前のリアルネーム知らないな」
「え? 俺一度だけ言ったけどなぁ」
「ごめん、忘れた」
「ったく…………俺の名前は光崎聖音。
ニックネームはセイだ」
「改めて……俺の名前は桐ヶ谷和人。
カズって呼んでもらってかまわない」
「なら……カズ、お前どこ住んでんの?」
「ここから自転車で7分ぐらいのとこ」
「ほー……俺とあんま変わらないな」
ここにきてそばが到着。
会話もすすりながらになる。
「アスナ、どうなの?」
「まだ目覚めてないんだ」
「……そうか」
ズルズル
「何も情報がないからなぁ……どうしてなのかも分からんしな」
「さすがにアインクラッドではないと思うけど」
「茅場があそこで嘘をつくとは思えないしな」
「同感」
ズルズル ズルズル
「…………今日、クリスマスなんだよな…………」
「そうだな……病院には全く関係のないことだけど」
「クリスマスプレゼントでいいから、桜華を目覚めさせてくれないかな」
「無理だろうな」
ズルズル
「ごちそうさま。セイ、俺は先に帰るよ」
「おう。どうせ俺食い終わっても店長さんと長話だからな。
一応割り勘だからな。払ってからいけよ」
「分かってる」
和人はポケットからお金を出すとレジにおいてお釣をもらって出ていった。
それからすぐに俺も食い終わり、レジにお金を置いた。
「今日はタダにしてやるよ」
「え?」
「今日、お前の誕生日だろ?」
「そうそう。16才の誕生日」
「あら……聖音君大きくなったのね。
もう16だなんて」
「この2年苦労しましたから」
「おばちゃんケーキ作れないから……そば代で勘弁してね」
「ありがと。んじゃ、また来るよ」
「また来いよ!!」
俺は外に出た。
「お前、今日誕生日だったんだな」
和人の声。
「ああ。16才の誕生日なんだ」
「そうか…………ホントはフローラにも祝ってほしかったんじゃないのか?」
「バレてるか…………
そうだな。ホントは桜華に祝ってほしかったよ。
おめでとう、ってあの声で言ってほしかった」
「…………セイ、俺は帰るよ。じゃあな」
「またな」
俺と和人は互いに背を向けて遠ざかっていった。
Story11-1 END
後書き
ついに始まりました、ALO編。
この話ではキリトこと桐ヶ谷和人とシャオンこと光崎聖音の初めて現実で出会ったときのちょっとほのぼのエピソードを描いてみました。
次回からは……こういった要素は少なくなる、かも…………
愛した少女とは一緒に迎えられなかった誕生日、聖音にはショックでしょうね…………
それはさておき、次回から本格的に本編に入っていきます。
更新は遅くなりますが、お楽しみに!
じゃあ…………
聖音「次回もよろしくな!」
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