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ボスとジョルノの幻想訪問記

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主人公の資格 その③

ボスとジョルノの幻想訪問記20

 あらすじ

 博麗霊夢の弾幕とスタンド攻撃を交い潜り、ラッシュを叩き込んだジョルノ。だが、有効打には一歩及ばずすぐに体勢を立て直した霊夢に人質を取られてしまう。
 だがその人質は運の悪いことに、髪型と服装を変えた藤原妹紅。
 人質作戦の死亡フラグを伝説的な早さで達成した霊夢だったが・・・・・・?

*   *   *

 ボスとジョルノの幻想訪問記 第20話

 主人公の資格③

 『スパイスガール』の全力のラッシュを目一杯喰らった霊夢はそのまま吹っ飛ばされ背後にあった果物店に突っ込んでいく。

 ガッシャアアアン!!

 大きな音を立ててゴロゴロとリンゴやミカンが転がり、様々な果物が店の中に散乱した。また、霊夢が突っ込んだ所は西瓜が置いてあったようで、霊夢は衝撃で砕けた西瓜の汁にまみれていた。

「・・・・・・ぐ、・・・・・・なんつー・・・・・・パワーよ・・・・・・」

 起きあがろうとするが腕に力が入らないのだ。意識も朦朧としていた。

「あんた、博麗霊夢じゃあねぇでか! なぁーに人ん店突っ込んでだか!? あんたこの果物どうすっとね!?」

 果物店の奥から店主のおっさんが現れる。大激怒だ。まぁ当然だろう。

「・・・・・・金なら払うわ・・・・・・。だから少し黙ってなさい」

 霊夢は全く動じず懐から数枚の金貨を取り出して地面に捨てた。店主はその態度にますます憤るが彼女は無視。そんな一般人の相手をする暇など今の彼女には皆無なのだ。

「『レッド・ホット・チリ・ペッパー』・・・・・・」

 と、霊夢は別の金貨を取り出し――――。

 がりんッ!

「な、何食ってんだァァーーーーっ?!?」

 何と金貨を口の中に入れて咀嚼し始めたのだ! もちろん、人間の顎で金を砕けるわけがない。霊夢は『スタンド』を発動させ砕かせていた!

「う、ぐ、おぇええええッ!!」

 当然、金属を噛むと人間には異常な不快感が襲ってくる。霊夢は嗚咽を漏らしながら次々と金、銀、銅と手持ちの小銭を咀嚼していった。

「・・・・・・何をしている」

 と、霊夢の目の前に立っていたのはジョルノ・ジョバァーナと藤原妹紅だった。

「それ以上・・・・・・変な動きをするんじゃあない。今すぐそれを吐き出すんだ」

 二人ともスタンドを出して彼女を睨みつける。全身から血を流し、汚い果物の汁まみれになり、その上嗚咽を漏らしながら金属を喰い続ける霊夢に不快感を露わにしていた。

「・・・・・・ふ、ふふ、おぇ・・・・・・ぐぎ、がり、・・・・・・う」

 だが霊夢はその手を止めることはない。不気味な音を漏らしながら涙を流してお金を食べていた。

 ジョルノは霊夢の『スタンド』の性質上、この行為を続けさせるのはまずいと思い、霊夢の右手を掴んだ。それに習って妹紅も逆の手を掴む。

 霊夢の攻撃手段は一度『お金』を経由しなければ意味がない。ならば、スタンドを出すのに必要な手を封じてしまえば彼女は攻撃ができないのだ。

「妙な動きをするな、ってのが聞こえないのか?」

「・・・・・・」

 妹紅が話しかけるも霊夢は答えない。ただ薄ら笑いを浮かべるだけだ。

 ――――気味が悪い。

「ふふ、ふふふ・・・・・・もう一度、もう一度言うわ」

「・・・・・・?」

 両腕を掴まれて身動きが取れないにも関わらず、せせら笑う。

「私は『反省』すると強いのよ・・・・・・?」

 次の瞬間――――。

 バリィィッ!!!!

「ぐ、がっ、ああああッ!?」

「ぎゃッ!?」

 霊夢を掴んでいた二人は全身に走る痛みに動きが止まった。

 電気のような力が彼らを通り抜けたのだ。

「『反省』した・・・・・・。やはり、あんたたちは『全力』で屈服させてやるわ」

 ――――痛みに気を取られ霊夢を離した二人が目にしたのは、動けないはずの霊夢が立ち上がる姿である。

 その姿は若干光っており、彼女の周囲にはパチ、パチと電気が発生していた。

「『お金の力を電気の力に変える』。これが『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の第二の能力・・・・・・」

 その言葉が終わる前に――――。

 ジョルノと妹紅のそれぞれに、凄まじい威力の蹴りがほぼ同時に入った。

「「――――!!?」」

 二人の目に霊夢の攻撃は見えなかった。お金を飛ばしてきた素振りも無いどころか、自分に衝撃が入るまで霊夢は動いていないように見えたのだ。

 しかし霊夢は右足を高く上げていた。蹴り終えた後のポーズだった。

 先ほどのお返し、と言わんばかりの速度で通りの反対側の店にたたきつけられた二人。そこは小物雑貨店のようだった。

 二人は意識を軽く失いかけながらも立ち上がろうとする。

「・・・・・・??」

 けれども体がうまく動かないのだ。それに蹴られた箇所が以上に熱い。ジョルノが震える手で蹴られた箇所――――おそらくは胸の部分を触ると・・・・・・。

 ぬるぉ・・・・・・、とした感触。血? と一瞬錯覚したが違う。

 胸のあたりの皮膚がどろどろに焼け溶けていた。

「ぐぅぅぁああああああッッ!!??」

 ようやく自分の身に何が起こっているか理解したジョルノは全身を激しい痛みに襲われた。それは妹紅も同じで――――彼女は顔面を押さえていた。

 これは橙が霊夢にやられたときに似ている。あのとき、橙は全身を火傷していたが今度は違う。火傷の範囲はかなり狭くなっているが深度がその比ではない。

 パワーが一点集中している。

「――――これが私の『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の真の能力。言ったでしょう? 『反省』すると私は強いって・・・・・・」

 霊夢の声はすぐそばまで来ていた。

*   *   *

 私は1ヶ月前くらいに、とある物体を拾った。神社の裏に落ちていた金色の円盤だった。いつも通り、謎物体は捨てるに限ると言うことでゴミ箱にそれを捨てたのだがふと気が付くと居間、廊下、賽銭箱、しまいにはトイレと、私がどこに行ってもその円盤は私についてまわった。

 異変ではないのか? もしかすると私以外にもこのような現象にあっている者がいるかもしれない。それならまず紫に話を聞こうと思った。

「・・・・・・何なのこれ?」

 紫の返答はこうだった。付属神の類いかと聞いたが紫の答えは分からないの一点張りだった。

「ちなみに、外の世界の物体じゃあないわ。だって私がそんな物体の幻想入りを察知していないんだから」

「・・・・・・あんたが仕事サボってただけじゃあないの?」

 失礼しちゃうわね、と大妖怪は言う。

「気になるんなら処分すればいいじゃあないの」

「何度もしたわ。でもいつの間にか手元にあるのよ」

「ふぅん」

 紫は興味なさげに呟いた。未知なるものだというのに、この紫の関心無しはどういうことだろうか。いつもなら喜々として調べたりするのに。

「そうねぇ・・・・・・地縛霊か何かかしら? 付きまとうって所が」

「地縛霊? でもこれは実体があるわ」

「妖夢だって実体があるじゃない」

「あいつは半分実体があるのよ。幽々子は無いわ」

「じゃあそれも半人半霊かもよ?」

 笑えない冗談だ。半人半霊とかいう面白種族は魂魄妖夢だけで事足りている。

「とにもかくにも、私じゃあ何も分からないわ。そもそも興味がないし」

 紫は欠伸をして言った。

「そう、それよ。今一番奇妙なのはあんたが円盤に対してちっとも興味を抱いてないことよ」

 紫が欠伸をしたタイミングで霊夢は畳のやさぐれをその中に投げ込む。

(あ、入った)

「そんなの私の自由じゃない。それより眠くなってきちゃった。おやすみ~」

「あ、待てコラッ! ・・・・・・ってもういないし」

 紫はスキマの中に落ちていった。

 やさぐれは食べたのだろうか。それとも口の中にスキマを作ってどこかに飛ばしたのだろうか。いずれにせよ紫は今回の件に関与しないと言う。

「処分・・・・・・封印するか?」

 誰もいない居間にごろりと横になって円盤を眺める。害は無いにしても奇妙なのは確かだ。

 ――――だが紫からすれば一番奇妙なのは奇怪な物体を霊夢が特に何の対処も警戒もなく傍に置いていることだった。それを言っていれば霊夢の運命は変わっていたのかもしれない。


 そのままなし崩し的に円盤は保留という形で適当に家の中に置いておいた。気が付くと霊夢の視界に入るのだが特に気にせずいつも通りの生活を送っていた。

 三日ほど経過して、なんだか急に円盤がチラチラと視界にはいるのに腹が立ってきた。いや、もう何なんだこいつは。

 私は円盤を掴み上げて苛立ちを込めて地面に投げつける。すると円盤は「ぼよよぉ~ん」とバウンドしてこちらに跳ね返ってきた。

「うわッ!?」

 まさかの返り討ちである。とっさに目を瞑り衝撃に堪えようとするが衝撃は来ない。無機物のくせに私を驚かせるとは、と謎の感心をしつつ目を開けると――

 ずぶ、ずぶぶ・・・・・・

「は・・・・・・?」

 頭に違和感がある。何かが、何かが頭の中に入ってくるのである!

「何これェェーーーーッ!!?」

 ぬぷん、何かが完全に頭に埋め込まれた。周りを見回すと円盤がどこにもない。もしや、と思い頭に触れるがそこには何もなかった。

 困惑する私にさらなる奇妙が襲いかかる。

「・・・・・・ッ!?」

 全身を異常な疲労感が襲った。足が震え、視界がぼやける。すぐに私は立っていることも出来なくなりその場に倒れ込んだ。

「・・・・・・??」

 声がでない、力が入らない、体が異常に重い。何だ、私に一体何が起こっているんだ??

「だれか・・・・・・」

 必死で手を伸ばした先にあったのは小さな『硬貨』だった。何で家の中にお金が落ちているのか? いや、そんなことはこの時の私の考えには全く思い浮かばなかった。

 衝動的な『食欲』だけが私に動きを駆り立てた。

*   *   *

「霊夢~、私も円盤見つけたんだけど~」

 博麗神社の居間に紫は喜々として現れた。だが、そこに霊夢の姿は無い。

「? この時間は居間でお茶飲んでるはずなのに」

 彼女も円盤を持っていた。ただ偶然落ちていたのをスキマで回収したらしいのだが。

「霊夢~?」

 紫はスキマを縫って移動する。居間、台所、納屋、トイレ・・・・・・だが、神社の中に霊夢の姿はなかった。

「・・・・・・出かけてるのかしら?」

 この時間に霊夢が外にでるのは珍しい。紫は外に出て境内を見回す。石段の下を見るが掃除している人の姿も見当たらない。やっぱり出かけているのか、と紫が博麗神社の正面を振り返ると――――賽銭箱の蓋が開いていた。

「泥棒にでも入られたの~? まさか」

 蓋の開いた賽銭箱に近づきつつ天文学的な数値の上でしか発生し得ない事象を思い浮かべ笑わずに入られない紫。

 試しに賽銭箱をのぞき込んだ紫は言葉を失った。


「・・・・・・え」


 そこにいたのは探していた人物。だが、普段の姿からは想像も付かないほどやつれ、衰弱していた。

「霊夢ッ!!」

 紫はスキマから降りて賽銭箱の中で泥のように眠る霊夢を抱え上げた。

「・・・・・・ゆ・・・か・・・り?」

 声が殆ど掠れ目を開く力も残っていない。飢えによる衰弱ではない。少なくとも博麗神社には最低限の食料は残っていた。また、他人と争ったような形跡が神社にも霊夢にも見られない。どうして彼女がこんなところで死にかけているかが分からなかった。

「あなた・・・・・・何をしていたの・・・・・・?」

「・・・・・・『お金』・・・・・・」

「お、金・・・・・・??」

 紫は心配そうに首を傾げる。

 霊夢はただ一言そう呟くと「ごほっ、げほっ!」と大きく咳込んだ。すると彼女の口からあり得ない物が吐き出される。

 大量の金属片。

「――――ま、まさか・・・・・・!」

 と、紫は霊夢の腹に手を当ててスキマを作り出す。その中に手を突っ込み、手に掴んだ物を全て引っ張りだした。

 じゃららららららッ!! じゃらん!

 彼女が掴み取り出した物は大量の金属片。だが、いくつか形がそのまま残っているのがあった。それは紫もよく目にしたことのある物体。

「霊夢あなた・・・・・・、『お金』を食べたの!?」

「・・・・・・」

 霊夢はわずかに首を縦に振った。

 どうしてこんなことをしたのか、いや、今はそれを聞いても仕方がない。早急に霊夢を助けなければ死さえあり得た。

 と、霊夢は紫の腕を掴んだ。

「・・・・・・ひ、と・・・・・・ざと・・・・・・に」

「『人里』? 人里に行きたいの? でも今のあなたじゃあ・・・・・・」

 と、断ろうとしたとき。霊夢の手の力だけが跳ね上がり紫の腕を締め付ける。

(ちょっ、な、に!? この力ッ!? この死にかけのこの子のどこにそんな力が――――!?)

「――――いいから連れて行け」

 霊夢の声には怒りが混じっているような気さえした。紫は直感的に霊夢を救うには彼女の言葉に従うのがいいと思い、スキマの中へ霊夢を落とした。そして次の瞬間には霊夢は人里に投げ出されていたのだ。

 続けて紫も同じように人里に入ると――――。

「・・・・・・あれ?」

 なんと、霊夢は普通に立ち上がっていたのだ。

「え・・・・・・っと、あれ? 大丈夫なの霊夢?」

「・・・・・・不思議とね。でも分かりかけてきたわ・・・・・・この『力』が」

 霊夢はそう言うと紫に人里の管理を任せてほしい、と持ちかけた。紫は人里の賢者たちを集めて霊夢とともに会議を開き、現在の人里の運営システムに落ち着いたという。

 わずか3週間前の話である。

*   *   *

 博麗霊夢のスタンド、『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は『お金』を食べた霊夢に寄生する形を取っている。そのため彼女は電気を身に纏い、様々な行動を光速で行えるようになっていた。

 こいつに関わるのはやばい。回復しつつあった妹紅は霊夢がこちらに来る前にジョルノを崩れた棚の山から引っ張り出し、その場から逃げようとするが――――。

「金を払わずして私から逃げるとはいい度胸ね」

「・・・・・・くっ!!」

 店から出ると妹紅の逃げようとした方向に霊夢は先回りしていた。

「今、払えるような金は持っていない!」

「そんな理由が通用するほどこの経済社会は甘くないわよ」

 妹紅は何とかこの場を突破する方法を考えていた。やはり博麗霊夢は桁違いに強い。逃げる以外の方法が見つからないが、相手は光速で動けるのだ。

(・・・・・・詰んでないか? 私たち)

 おそらくこの様子から察するに霊夢は自分たちから搾り取れるだけ搾り取るだろうと予想できる。私の全財産ならまだしも、ジョルノ――――つまりは永遠亭まで散財するのは駄目だ。

 捕まるわけにはいかないが、にっちもさっちも行かなくなってきた。

「とりあえず、大人しく捕まりなさい・・・・・・。あんたたちは人里にとって害悪でしか無いわ」

 電気を迸らせながらジョルノを背負う妹紅に近付いていく。彼女からすれば今の妹紅は取るに足らない敵だ。全ての能力が倍以上の性能を誇る彼女の『スタンド』に為す術はない――――。

「・・・・・・い」

「・・・・・・!? じょ、ジョルノ? お前、今・・・・・・」

 妹紅の耳元でジョルノがかすかに声を出した。霊夢には聞こえない大きさだが、ジョルノを背負っている妹紅には普通に聞こえていた。

 だが、彼の言葉はこの状況に全くそぐわない、意味不明な『提案』だった。

「お願い・・・・・・します・・・・・・。たぶん、・・・・・・アイツの弱点が分かったん・・・・・・だ」

 ジョルノの胸部分の皮膚は大きく爛れていて『そんなこと』をすれば万が一の可能性さえもある。しかも妹紅はいまいちその意図が分かっていない。

「お前、そんなボロボロで・・・・・・しかも可能性の低い作戦を実行する気か!?」

 妹紅の額から汗が噴き出す。

「はい」

「死ぬかもしれないんだぞ・・・・・・!?」

 彼女の声は震えていた。

「百も・・・・・・承知です」

「『生きる』か『死ぬ』かの賭けをッ!! 言うに及んでこの『私』に任せるってことなのよォォーーーーーーッッ!?」

「そうです」



「だから気に入った」



 霊夢が近付き、ジョルノが筋の通らない提案をするという精神がネジ切れそうなピンチの中。妹紅の精神は動揺していく声とは逆に酷く冷静さを生み出していた。

「『生きる』こと『死ぬ』こと。私はそういうことに非常に非常に敏感なんだ。分かるか、ジョルノ。お前は私に『頼んではいけない頼みごと』をしてしまったんだ」

 妹紅にとってそれは単なる独り言だ。もちろん霊夢の耳に突く大きさの声。

「何をぺちゃくちゃと話してるのかしら・・・・・・」

 不審に思った霊夢がさっさと再起不能にしてしまおうと更に二人との距離を詰める。

「――――『スパイスガール』」

 と、見計らって妹紅がスタンドを出す。抵抗する気か、と霊夢が身構えたその一瞬の内。

 妹紅は背負って守らなくてはならないはずのジョルノを大きく上に投げた。

「だが、それを全て見越した上での提案なら・・・・・・ジョルノ。あんたにはきっと『成功』のヴィジョンが見えてるんだろうね・・・・・・。だったら私はあんたが『命』を賭けるように、『あんた』に賭けてみるだけさ・・・・・・」

 何かを悟ったように妹紅は言葉を続けた。真上に投げ飛ばされたジョルノの目には妹紅の後ろ姿、怪しい動きを止めようと霊夢が走ってくる姿。そして・・・・・・。

「・・・・・・思いっきり、お願いしますよ・・・・・・」

 彼に向かって拳を向ける『スパイスガール』だ。


「ダレニムカッテ『メイレイ』シテンダァァーーーーーーーー!? テメェェーーーーーー!!!」


 『スパイスガール』の拳は霊夢が攻撃するよりも先に、ジョルノの全身に叩き込まれたッ!!

「WAAAAAAAAANNABEEEEEEEEEEE!!!」

*   *   *

 ジョルノの体は『スパイスガール』の全力ラッシュを食らい、凄まじいスピードで人里の大通り上を人間をうまく避けながら水平にぶっ飛ばされる。(ディオのウゲェー!! をイメージして下さい)

「・・・・・・『ゴールド・・・・・・エ、クス・・・・・・ペリエンス・・・・・・』」

 意識が飛び飛びになりながらもジョルノは『スタンド』を出した。『GE』はジョルノと重なるように出現し、地面を掴む。

 当然、そんなことでは殴られた勢いが死ぬはずもなく、ガリガリガリガリッ!! とジョルノは自分の指先が削れていった。だが、その行為を止めることはない。

「ウォオオオオオオオオオーーーーーーーッ!!」

 指がまるでヤスリで削られていくかのように先っぽから血を吹き出しながら無くなっていく。もはや指先の感覚は無い。

「無駄無駄無駄無駄無駄ァァァーーーーーーー!!!!」

 必死の叫びを上げ地面を掴むことで勢いを殺していく。

 ガリガリガリガリガリッ! と痛々しい音を上げてついにジョルノは――――。

「・・・・・・ぐ、ぅ・・・・・・!?」

 人里と外との境界を作る高い柵の少し手前で止まった。指先の激痛を感じて両手を見ると

「・・・・・・ッ」

 どの指も第一関節から上側が擦り切れていた。だが、なぜパワーAとはいえ『スパイスガール』のラッシュで彼の体は人里の中心から端っこまでぶっ飛ばされたのか?

 答えは、ジョルノはただ『スパイスガール』に殴られたのではなく、能力によって体をかなり柔らかく――――弾力があるようにして貰っていたからだ。

 『スパイスガール』はゴムボールを打つようにジョルノをぶっ飛ばしたのだ。もちろん、ジョルノ自身は柔らかくなっているためダメージも大幅に減らすことができた。

 では一体何のためにこんなことをしたのか?

 それは出来るだけ広範囲を一度に『GE』で触れるためである――――。

「妹紅・・・・・・あとは、・・・・・・任せましたよ・・・・・・」

 止血する必要はなさそうだった。擦り切れることによって酷い火傷を負った指先からは血が滲むことはあっても大量出血は無さそうだ。

 あとは妹紅が生きて帰ってきてくれるのを待つだけだ。彼はそう考えるとそのまま俯せに倒れ込んだ。

*   *   *

 ジョルノが『スパイスガール』によって弾き飛ばされた直後。

「余計な真似を・・・・・・!! 面倒かけさせんじゃあ無いわよ!!」

 霊夢は舌打ちをしつつ、電気の速さで妹紅をしとめにかかった。

「くッ、『スパイスガール』!!」

「ふん、遅い遅い・・・・・・」

 妹紅はビシィと構えてスタンドを前に出し、霊夢の攻撃を止めようとするが、光速にはかなわない。

 バヂィィッ!!

 再び妹紅の全身を凄まじい衝撃が襲った。霊夢が高電圧の電気を大量に流したからだ。

「・・・・・・ッ!?!? グ、カ・・・・・・??」

 ご丁寧に『スパイスガール』も巻き込む放電。たまらず妹紅は膝を付く。

「何がしたいのか全く分からないけど、逃がすためとしたら実に滑稽な動きだったわよ」

 霊夢はほくそ笑みながら妹紅を踏みつけた。もちろん、彼女の足の裏は帯電しているため再三妹紅に電流が流れる。

「あっ、ぐ!?」

「さぁ~て、払えないんなら『搾り取る』までよ。・・・・・・私の『店』で不休不眠で働きなさい」

「・・・・・・お前、良い趣味してんな・・・・・・」

 重ねて言うが霊夢は風俗店を営んでいる。・・・・・・つまりはそういうことだ。

「知ったこっちゃ無いわ。あんたよく見れば可愛いんだし(私よりブサイクだけど)きっと稼げるわよ」

「今本心が聞こえた気がするが・・・・・・くっ、・・・・・・自ら進んで汚物をくわえたくはないな」

「汚物じゃあ無いわ。金の成る木よ」

「つくづく悪趣味だ」

「ふふん、まぁせいぜいそこで這い蹲ってなさい。まぁ電流を流してるから動けはしないだろうけどね」

 と、ここで妹紅が口を開く。

「――――なぁ、あんたの弱点を教えてやろうか?」

「・・・・・・は? 何が言いたいのよゴミ。便所になりたいの?」

「いや、結構だ。だけど・・・・・・まぁ、『忠告』だね」

 霊夢は怪訝そうに妹紅を見下した。心底腹が立つ物言いだが、聞いてやろうと思った。その後で好きにしよう。

「言ってみなさい」

「ん? あー、いや。やっぱりいいや。忘れてくれ。なーんか気分じゃあねぇし」

 だが、妹紅は首を振って目を閉じた。踏みつけている方の霊夢はそんな妹紅の思わせぶりな態度にカチン、と来て。

「言え、って言ってるのよ」

「いやいや、いいよ。天下の主人公、博麗霊夢様にこき使わされるなんて光栄だ。いいよ、好きにやんな」

「いいから言えって言ってんでしょ!?」

 と、妹紅は霊夢の方をちらりと見た。

「・・・・・・どーしても聞きたい?」

「ええ」

「そんなに?」

「そうよ」

「どーしても?」

「ぬぐぐ・・・・・・!」

 霊夢が沸々と怒りをたぎらせ始めたので妹紅は「あ、ちょ。待って、話すって」と慌てて。

 ふぅー、とため息をついた。

「あんたの『能力』は『経済力』や『お金』に依存する、だったわね?」

 霊夢はきょとん、として首を縦に振った。

「そうよ。私の『レッド・ホット・チリ・ペッパー』は『経済力』に依存するスタンド。場所を人里に限定してしまえば誰にも負けない無敵のスタンドよ」

「そうそう、そこだよ。それそれ」

 妹紅はパン、と手を叩いて指摘し始める。

「?」

「いや、人里に『限定』するってところよ。あんたの弱点はねぇぇ~~~~」

「・・・・・・そりゃ人里から離れれば・・・・・・、動けなくなっちゃうけど。ここは人里よ。関係ないわ」

「いいえ、『関係有り』。よ」

 そう言い切って妹紅が立ち上がった。

(って、え? 『立ち上がった』・・・・・・?)

 おかしい、確かに妹紅をふみつけて電気を流していたはずなのに・・・・・・。こいつはいつの間にか私の拘束をすり抜けた??

「・・・・・・そういえば霊夢。この人里はスゴいわねぇぇ~~~。ほら、あんたの後ろ」

 と、妹紅の視線誘導に従って霊夢は背後――――ジョルノの飛んでいった方向を見ると――――!

「なッ・・・・・・!? え、こ・・・・・・これは・・・・・・ッ!?」

 霊夢は驚愕の光景に目を見開く。そこに映っていたのは――。


「まさか、道ばたでこんなに大量の『米』が穫れるなんてねェ~~~~」


 人里に住む人々が長く続く道にたわわに実った大量の『稲』に対して大狂乱の大騒ぎを起こしていたのだ!!

「うぉぉッ!? すげぇ! なんじゃこりゃ!?」

「取り放題かよ!? これも博麗の奇跡って奴か!?」

「ちげぇーよ、こりゃきっと外から引っ越してきたあの3人の奇跡に違いねぇべ!!」

「おいおい、いくらとっても全然無くならねぇじゃん! おうい、みんなも来てみろよ!」

 人里に見渡す限りの稲稲稲。おおよそ普通じゃあり得ない現象だったが幻想郷の人々は全てを受け入れる。

 凄まじいことだったが、それは霊夢にとって地獄絵図でしかない。

「ぐ、・・・・・・!? か、体が・・・・・・」

 彼女は急激に体から力が抜けていく感覚に襲われた。

「あんたの弱点。それはあんたの『スタンド』自体じゃあなくて、『経済力』という基盤の脆さにあるのさ!」

 妹紅は膝をつく霊夢を見下ろして言った。今度は形成が逆になった。

「・・・・・・ッ!! 供給過多による物価の暴落かッ・・・・・・!!」

「そう、ジョルノがぶっ飛ばされた軌跡上に『ゴールドエクスペリエンス』の能力で大量の稲を生み出すことによって人里に物を溢れさせた。物が溢れれば当然、その地域の物価――――つまり『お金』の『価値』が下がるッ!!」

 つまり、経済力を基盤にする霊夢にとってそれは『スタンドパワー』の著しい低下を指していた。人々は喜んでいるが、経済的に見れば現在の人里は破綻状態。霊夢の能力はもはや彼女の肉体を蝕む枷でしかない。

「・・・・・・わ、私の夢の『マネーライフ』を・・・・・・よくもッ・・・・・・!」

 霊夢は妹紅を睨みつけるがもはや全身に力が入らないのだろう。上体を起こすことも難しそうだった。

(『マネーライフ』って・・・・・・本当にお金のことしか頭にないのかな・・・・・・)

 地べたに這い蹲り苦虫を噛み潰すような表情を見て心底蔑んでしまう。どうやら『経済力』が無くなると『スタンド』も『スタンド使い』も死にかけてしまうようだが・・・・・・。

 『スタンド』のせいで霊夢がこうなったのか、それとも彼女の性根のせいなのか。

「・・・・・・」

 妹紅は若干の後味の悪さを覚えつつ動けない霊夢の前から姿を消した。彼女は自分がぶっ飛ばしたジョルノを追いかけた。

(・・・・・・ジョルノ、死んでなきゃいいんだけど)

 半狂乱で舞い踊る人々の間をすり抜け、走る、走る。しばらく走ったところで人里の端っこまでやってきた。そこにはぐったりと柵に寄りかかっているジョルノがいた。

「おい、大丈夫・・・・・・じゃあないな。お前指が無いじゃあないか!」

 その驚愕の声にジョルノは少しだけ体を揺らす。

「・・・・・・『GE』・・・・・・で、治せ・・・・・・ま」

「もういいもういい。あんまり喋るな。・・・・・・不本意だが今日は人里のどこかで宿を取ろう。――――ってそういや金がないんだよな」

 妹紅はしまった、という風に頭をかいた。そして周りを見回すと――――。

 『花魁 巫女の里 場所は中央エリア・・・・・・』という掠れたポスターが・・・・・・。



「・・・・・・いや、何でだよ!!!」

 現在時刻は午後7時。

 既に妹紅とジョルノは狭い個室にいた。橙が探索していた部屋である。幸い管理人(博麗霊夢)は再起不能のためここは今日休みらしい。あんだけ迷惑をこちらは被ったのだから一晩部屋を借りるくらいいいだろう、と思ったが。

(これ、ただの宿じゃあないよね・・・・・・! どう見ても・・・・・・)

 お察しください。

 とはいえ、ジョルノは指と胸の火傷の治療に専念しなければならないためナニしてる暇はない。

「・・・・・・にしてもなんで布団が一つしかないんだよ・・・・・・」

 ジョルノは疲れからか、治療をした後泥のようにすぐ眠りに落ちたが妹紅の目はギンギンである。無駄に意識してしまっているせいだ。

「・・・・・・」

 どうにでもなれ。妹紅はついにふっきれて布団を被った。明日は出来るだけ早朝に出発するつもりだ。時間はかなり早いがさっさと寝てしまおう。

 だが隣に人肌を感じながら寝るのは彼女にとって随分久しぶりのように感じられた。

 そして若干の悲しさを覚えながら――――。

 こうして夜は更けていった。

*   *   *

 妹紅がジョルノの元に向かった直後。

 その場に残された霊夢は――――呼吸が段々浅くなっていた。

「・・・・・・」

 ざっ。

「・・・・・・?」

 耳元に誰かが立っているようだが、そちらを見上げる気力もない。すると突っ伏す霊夢の体をその人物は持ち上げた。

「・・・・・・橙?」

「勘違いするなよ・・・・・・。私はお前から『スタンド』を回収するだけで、見殺しにしても良い、とは言われてないからな」

 そこにいたのは橙だった。妖怪とは言え霊夢の攻撃を貰って彼女もボロボロのはずだ。証拠に右足を引きずっている。

「・・・・・・どこに・・・・・・行く気・・・・・・?」

「紫様と藍様の家だ。・・・・・・そこで『スタンド』は回収するが、一応の救済措置はとらせてくれるはずだ。博麗の巫女に死なれちゃあ困るからな」

「・・・・・・そう」

 霊夢はため息をついた。

「・・・・・・ごめんなさいね」

「・・・・・・」

 少女たちの会話はそれっきりだった。

*   *   *

 少し時間が経過して、橙と霊夢は無事に八雲邸宅に戻ってこれた。霊夢は橙の背中の(ちっちゃい)で気を失っていたためどこを通ってきたかは覚えていない。

「ただいま帰りました」

 橙は疲れを帯びた声でドアを叩く。すると中から出てきたのは彼女の主人の八雲藍だった。

「おかえり! って・・・・・・ちぇ、橙・・・・・・! それは・・・・・・そいつは霊夢か!?」

「はい。えっと・・・・・・成り行きで連れてきました」

 かなり衰弱していますが、と付け加える。藍は人里でのことを全く知らないので橙が霊夢をどうやって倒したのか、と困惑するばかりだった。

 霊夢のスタンドが戦闘向きではないという説も考えられるが・・・・・・。

「~~~~!!! よ、よくやったなぁああ~~!! ちぇぇえええええええええん!! よし、今日は奮発するぞ! 紫様が大事に取ってるお酒を開けよう、な!」

「え? そ、それって大丈夫にゃぁ・・・・・・っ!?」

 突然の藍の喜びに動揺しつつ、橙は続ける言葉を藍の愛撫に遮られる。

「よしよし、偉いぞ橙! やっぱりお前は私の自慢の式だ!」

 だが、素直にうれしそうな主人を見ると満更ではない。むしろかなり嬉しかった。

「・・・・・・えへへ」

 一匹の妖怪の顔から笑みがこぼれる。

 彼女はもう子猫ではないのだ。


「うるさいわよ藍。――――それと、おめでとう橙」

 玄関先で大声を上げる藍を注意しつつ、奥から紫が現れた。若干眠そうではあるが、彼女はしっかりとした主らしく振る舞い、橙の前に立つ。

「・・・・・・えっと」

「そんなに堅くならなくていいのよ? まずはもう一度言わせて頂戴。――――『成功報告』をありがとう」
 優しく微笑む紫の顔を見て橙も思わず破顔する。

「はいっ!!」

 藍も紫も、霊夢やスタンドなどの様々な問題が山積みではあったけれど、今はただ自分たちの娘のような式の成長を喜んでいた。

*   *   *

 その後、藍と橙は夕食の支度に。紫は霊夢を連れて自室へと引き払った。

「・・・・・・さて、霊夢」

「・・・・・・」

 霊夢は深い眠りについていた。だが、紫は構わず眠り続ける彼女に話し始める。

「・・・・・・まさか、あのときは何も知らなかったとはいえこんなことになるなんてねぇ・・・・・・」

 紫は3週間前の出来事を思い出していた。まだスタンド使いが幻想郷に現れてから殆ど月日が経っていない頃。霊夢に発現した謎の現象に四苦八苦していた自分を思い出していたのだ。

「でも、この能力はあなたには必要ないわ。・・・・・・自分の首を絞めてるって、薄々気が付いていたでしょうに」

 そう言って紫は霊夢の頭に手をかざす。すると彼女の額にスキマが開き、そこからスタンドDISCを取り出す。

「・・・・・・『レッド・ホット・チリ・ペッパー』か・・・・・・」

 名前を確認して紫は数枚のDISCが納められているDISCケースにそれを仕舞い込んだ。

「・・・・・・」

 スタンドを失ったおかげで霊夢の顔色が若干良くなったように感じられる。このまま、霊夢は体調が戻るまでここで療養して貰わなくてはならない。スタンド使いでなくとも彼女は博麗の巫女なのだ。やるべき仕事は沢山ある。

「紫様ー! 夕食の準備ができましたー!」

 居間の方から声が聞こえる。

「はいはーい、今行くわ!」

 紫は眠っている霊夢に布団を被せて部屋を後にした。家族の団らん・・・・・・『八雲家』のひとときはそこにある。

*   *   *

 博麗霊夢 スタンド名『レッド・ホット・チリ・ペッパー』
 再起不能

*   *   *

 後書き

 もこたんインしたお!

 これで霊夢編は終わりです。ジョルモコの二人は一体いつになったら紅魔館に着くんでしょうか。

 でも、おかげでジョルノサイドとボスサイドの時間が合います。ジョルノはこれから紅魔館へ。ボスはこれからどこかに復活へ。そろそろ一つ目の山場を迎えそうですね。

 ちなみに霊夢さんのスタンド『レッド・ホット・チリ・ペッパー』の補足説明をすると、


 『レッド・ホット・チリ・ペッパー Act.2』

 博麗霊夢が『お金』を体内に取り込んで、『レッチリ』自体が霊夢に取り憑くことで発動。霊夢自体が電気を帯び、高速で動けるようになる。
 パワー:A スピード:A 精密動作性:A 射程距離:0(霊夢本体のみ) 持続時間:D 成長性:A
 お金を体内に取り込み続けなければパワーが落ちていく。なお、霊夢の身体が大幅に強化されるため、殴り合いではほぼ負けない。


 パワーとスピードの表記はAですが比較するとスタープラチナより上だと考えて貰って結構です(霊夢時止め可能説浮上)。ジョルノと妹紅を蹴ったときは軽めに蹴ってました。本気で蹴ったらお金が請求できなくなりますからね。

 今回もジョルノ君ともこたんは良いペアしてますね。書いてて楽しいです。若干消化不良なところもあるけど。

 次回はボスメインになります。それではまた21話で。

















*   *   *

「姫様、20話になったんですけど起きないウサか?」

「・・・・・・zzz」

「はぁ・・・・・・」

 てゐのため息だけが永遠亭に残された。 
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