ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-10 すべての終わり
Story10-3 最終ボス
第3者side
戦いはシャオンの技を最後とし終わった。
無限にも思えた激闘の果てに、ついにボスモンスターを倒し、奴がその巨体を四散させた時も、誰1人として歓声を上げる者はいなかった。
皆倒れるように黒曜石の床に座り込み、ある者は仰向けに転がって荒い息を繰り返している。
――終わった、のか?
不意に全身を重度の疲労感が襲い、膝が震えるのを必死に堪える。
取り敢えず、4人とも生き残ることが出来た。
しかし、そう思っていても手放しでは喜べない。
あまりにも犠牲者が多すぎる。
最初の1人から始まり、ゆっくりとしたペースで禍々しいオブジェクト破砕音が響き続け、大体5人〜7人くらいの犠牲者が出ていた筈だ。
「何人、やられた?」
左の方でがっくりとしゃがみこんでいたクラインが、顔を上げてかすれた声を出す。
その隣で手足を投げ出して仰臥していたエギルも、顔だけをこちらに向けてきた。
キリトが右手を振ってマップを呼び出し、表示された緑の光点を数え始めた。
数え終わったキリトが、信じられないと言うふうに口を開く。
「6人、死んだ」
「うそだろ…………」
エギルの声にも普段のような張りはまったく無い。
生存した者たちの上に暗鬱な空気が厚く垂れ込めた。
漸くこれで4分の3だ。
まだこの上に、25層もあるのだ。
――なんでヒースクリフは平気なんだよ…………あの防御力といい、速さといい…………HPといい…………
ん? 待てよ…………あのとき、俺は…………
それと……さっきのこと…………
…………おいおい、マジかよ。そんなことって
シャオンが何かに感づき、同時にキリトがヒースクリフに目を向ける。
――キリトもなにかに感づいたのか
キリトもヒースクリフの不自然さに気づいたのか、それを確かめる方法を模索していた。
そしてある一点に気がつき、己の剣を握り直すと、ダッシュの体制を取る。
しかし、シャオンは動き出すつもりはない。
「キリト君!?」
アスナが驚いたような声をあげる。
紫の閃光が炸裂し、キリトとヒースクリフの間に同じく紫のシステムメッセージが表示された。
『Immortal Object』
プレイヤーにはあり得ない属性。
「キリト君、何を…………」
キリトの突然の攻撃に、駆け寄ってきたアスナがそのメッセージを見てぴたりと動きを止めた。
シャオンたちも、ヒースクリフも、クラインや他のプレイヤーたちも動かなかった。
静寂の中、ゆっくりとシステムメッセージが消滅する。
キリトは自分の武器を引いて、軽く後ろに跳ぶとヒースクリフとの間に距離を取った。
数歩歩み出たアスナたちがキリトの隣に立つ。
アスナがゆっくりと口を開いた。
「システム的不死?って、どういうことですか、団長?」
戸惑ったようなアスナの声に、ヒースクリフは答えない。
厳しい表情でじっとキリトを見据えている。
キリトが両手に剣を下げたまま、口を開いた。
「これが伝説の正体だ。この男のHPはどうあろうとイエローまで落ちないようシステムに保護されているのさ。
不死属性を持つ可能性があるのはNPCでなけりゃシステム管理者以外有り得ない」
「このゲームに管理者はいない。
ただ1人を除いてはな」
キリトが上空をちらりと見やる。
「この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった」
「えっ?」
「それって…………」
アスナとフローラはおそるおそる尋ねた。
「茅場晶彦は今、何処から俺たちプレイヤーを観察し、世界を調整しているのかってことだ」
シャオンが後ろから言った。
「そのとおりだ。でも俺は単純な真理を忘れていたよ」
「それは、どんな子供でも知ってることさ」
キリトとシャオンはヒースクリフにまっすぐな視線を据え、同時に口を開く。
「「『他人のやってるRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない』
そうだろう、ヒースクリフ。いや、茅場晶彦」」
全てが凍りついたように静寂が周囲に満ちた。
ヒースクリフは無表情のままじっと此方に視線を向けている。
周りのプレイヤーたちは一切身動きしなかった。
アスナの唇が微かに動き、乾いた声が漏れる。
「団長、本当、なんですか…………?」
ヒースクリフはそれには答えず、小さく首を傾げるとキリトたちに向かって言った。
「なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな?」
その問いにキリトが答える。
「あんた、さっきのボス戦で1人だけHPバーがグリーンだったろ?
イエローに落ちていない。
あんたは最初1人でボスの鎌を相手にしていただろ?その時にHPが削られてるのを見た。
それから微動だに変わってないんだよ。妙だと思わないか?
回復アイテムを使っていない。それに戦闘時回復のスキルもつけていない。
なのにHPが絶対にグリーンを割らない。
だから思ったのさ」
ヒースクリフはゆっくりキリトに頷くと、唇の片端をゆがめ、仄かな苦笑の色を浮かべる。
そして、今度はシャオンを見た。
「さて、君はどうかな?シャオン君」
シャオンはゆっくりと目を閉じ、呟く。
「俺もキリトと同じ考えだよ」
「ふむ、予定では攻略が95層に達するまでは明かさないつもりだったのだがな」
ヒースクリフはゆっくりとプレイヤーたちを見回し、笑みの色合いを超然としたものに変えて堂々と宣言した。
「確かに私は茅場晶彦だ。
付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」
隣でアスナが小さくよろめいた気配がし、キリトがヒースクリフから視線を逸さずそれを左手で支えた。
「趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」
「なかなかいいシナリオだろう?
君たちはこの世界で最大の不確定因子だと思っていたが、ここまでとは」
ヒースクリフ、いや、茅場晶彦は見覚えのある薄い笑みを浮かべながら肩を竦めた。
茅場のアバターであるヒースクリフは、現実世界での姿とは明らかに違う。
だが、その無機質で金属質な気配だけは、彼が最初の正式サービスで見せた時の無謀の姿と共通していた。
茅場は笑みをにじませたまま言葉を続ける。
「最終的に私の前に立つのは君たちだと予想していた。
全15種存在するユニークスキルのうち、撃二刀流スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者、連二刀流スキルはSEEDスキルと共に全プレイヤー中最高の敏捷力を持つ者に与えられ、その者たちが魔王に対する勇者の役割を担うはずだった。勝つにせよ負けるにせよ」
そして茅場は話を続ける。
「君たち2人は私の予想を遥かに超える力を見せた。
攻撃速度といい、その洞察力といい、な。
…………まあ、この想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな」
その時だった。
凍りついたように動きを止めていたプレイヤーの1人がゆっくりと立ち上がったのだ。
そのプレイヤーはKoBの幹部を務めている男で、朴訥そうなその細い目には凄惨な苦悩の色が宿っている。
「貴様、貴様が…………
俺たちの忠誠、希望を、よくも、よくも…………」
男が巨大な斧槍を握り締めた。
「よくもーーーーーーッ!!」
「やめろ!」
シャオンはものすごいスピードで動き、男を止めた。
「邪魔をするな!」
男は我を忘れて飛びかかろうとしている。
「落ち着け!奴はこの世界の管理者だ。今お前が飛びかかったところで敵う相手じゃない!
システムの力で動きを止められるかもしれないだろ!?」
シャオンの言葉に男は悔しながらも動きを止めた。
「さて、ここで証拠隠滅の為全員殺すか?」
「まさか、そんな理不尽なことはしない。予定は早まったが最上層の紅玉宮にて君たちの訪れを待とうかと思っていたのだが…………
私の正体を看破した報奨を与えなければならないな」
茅場が右手の剣を軽く床の黒曜石に突き立てると、高く澄んだ金属音が周囲の空気を切り裂く。
「チャンスをあげよう。
無論不死属性は解除する。
私に勝てばゲームクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる」
Story10-3 END
後書き
ついに最終決戦に挑む攻略組。
次回はヒースクリフとの決戦です。
誰が挑むのか、どうなるのか……すべてが謎のStory10-4。
シャオンたちは勝てるのか……帰れるのか……お楽しみに。
じゃあ……
フローラ「次回も、私たちの冒険に!」
シャオン「ひとっ走り……付き合えよな♪」
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