ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories
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SAO編
Chapter-9 新婚生活
Story9-7 助けに行こう
第3者side
「ミナ、パンひとつとって!」
「ほら、余所見してるとこぼすよ!」
「あーっ、先生ー!ジンが目玉焼きとったー!」
「かわりにニンジンやったろー!」
「これはまた…………」
「すげーな…………」
今、シャオンたちの目の前で繰り広げられているのは、教会に暮らしている子どもたちによる朝食の風景だ。
しかし、人数が多い為か戦場のようになっている。
そこには、巨大な長テーブルに子どもたちが20人ほどで所狭しと並べられた料理を楽しんでいた。
シャオンはそんな光景を眺めながら、口もとにコップを運んだ。
「すいません。騒がしくていつも静かにって言ってるんですけど…………」
「いいえ、そんな…………」
「気にしないでください。食事はみんなで賑やかにとった方が楽しいですしね」
シャオンの一言にサーシャも顔を頬を緩ませた。
「それにしてもサーシャさんは子どもがお好きなんですね」
アスナが言うと、照れたように言った。
「向こうでは、大学で教職課程取ってたんです。
ほら、学級崩壊とか長いこと問題になってたじゃないですか。
子供たちを私が導いてあげるんだーって、燃えてて。
でもここに来て、あの子たちと暮らし始めたら、何もかも見ると聞くとは大違いで…………
むしろ私が頼って、支えられてる部分のほうが大きいと思います。
でも、それでいいって言うか……それが自然なことに思えるんです」
「なんとなくですけど、解ります」
話を聞いていたアスナが口精一杯開けてパンを食べようとしているユイの頭を撫でてながらいった。
昨日、発作を起こした子供たちが心配になり、あまり動かしたり、転移門は使わない方がいいと話し合い、宿をとろうとしていた。
が、サーシャの好意によりこの教会に一泊させてもらったのだ。
今朝になり、二人とも元気になりどうにか2組の夫婦は安心し、現状に至るのだ。
微かに戻ったというユイたちの記憶によると……はじまりの街には来たことはなく、保護者と暮らしていた記憶もない、とのことだった。
そうなると、子供たちの記憶障害や幼児退行といった症状の原因もまるで解らなくなる。
キリトたちも、これ以上何をしていいのか解らないようだった。
「サーシャさん」
「はい?」
キリトはある疑問を問いかけた。その疑問はシャオンたち全員が思っていたことだ。
「軍のことなんですが。
俺が知ってる限りじゃ、あの連中は専横が過ぎることはあっても治安維持には熱心だった。
でも昨日見た奴等はまるで犯罪者だった。
いつから、ああなんです?」
サーシャは口許を引き締めると、ゆっくりと口を開いた。
「方針が変更された感じがしたのは、半年くらい前ですね。
徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人たちと、それを逆に取り締まる人たちもいて。
軍のメンバー同士で対立してる場面も何度も見ました」
「なるほど…………軍の中での対立があるのかー」
不意に、キリトが顔を上げて教会の入り口の方を見やる。
――あ、キリトも気付いたか
「誰か来るぞ。1人」
「え、またお客様かしら…………」
「念のため、俺たちもついて行きますよ、サーシャさん。
昨日の軍の連中かもしれないですし。
フローラたちは一応警戒だけしててくれ」
「わかった。気をつけて」
「行くぞ、キリト」
「ああ。アスナも頼むぞ」
「ええ。キリト君も気をつけて」
そこに立っていたのは長身の女性プレイヤーだった。
銀色の長い髪を高い位置で一括りにし、怜悧な顔立ちの中で空色の瞳が印象的な光を放っている。
とりあえず、食堂に案内して、シャオンたちの向かいに座ってもらった。
子供たちは、皆一様に警戒の色を浮かべている。
だが、サーシャは子供たちに向かって笑いかけると、安心させるように言葉を紡いだ。
「みんな、この方は大丈夫よ。
食事を続けなさい」
一見頼りなさそうに見えるかもしれないが、彼女は子供たちから全幅の信頼を置かれている。
その彼女の言葉に、皆一様にほっとしたようで、すぐさま食堂に喧騒が戻った。
「どうも。私はユリエールです」
「紹介どうも。俺はシャオン、こっちはフローラ、そしてこの子がレイだ」
「フローラです」
シャオンの紹介にフローラは若干の警戒の色を見せながらも挨拶を交わした。
キリトたちも同様にだ。
「ところでシャオンさんってあの『蒼藍の剣閃』の?」
「軍の内部でもその二つ名なんだ…………
そうですよ」
それを聞くとユリエールは顔色を変えてシャオンたちを見た。
「なるほど、どうりでうちの連中が軽くあしらわれるわけだ。敵うはずがない」
「あ、昨日の一件で文句を言いにきたならお門ちがいですから」
「とんでもないです。むしろ感謝しています」
それを聞いた途端、シャオンは不思議に思った。
「感謝?なんで?」
「私も以前からああいった行動を遺憾に思っており、今回の一件で考え方が変わるきっかけをいただき感謝しにきた次第です」
「やっぱり、軍内部でも派閥に考え方の違いや行動があったようですね」
「ええ、そのことで実は相談が…………」
「なんですか?」
シャオンは飲み物の入ったコップを口にあてながら尋ねた。
「はい。
最初から、説明します。
軍というのは、昔からそんな名前だったわけではありません。
軍ことALFが今の名前になったのは、かつてのサブリーダーで現在の実質的支配者、キバオウという男が実権を握ってからのことです。
ところで、軍のギルドリーダー、シンカーをご存じですか?」
「知ってますよ。人柄のいい人ですよね。リーダーにはちょっと不向きの」
「シャオン君!」
「悪い悪い」
「彼が放任主義なのをいいことにキバオウは彼に同調する幹部たちと体制強化をし、ギルドの名前を今のALFに変えました。
さらに、犯罪者狩りや効率のいいフィールドの独占を行い、数の力で権力を増大させ、ついには徴税と題した恐喝まがいのことまでやり始めました。
昨日、あなたが会ったのも、キバオウ一派の連中でした」
「でも、攻略しないんじゃ…………」
「はい。キバオウ一派は資財の蓄積だけでゲームの攻略をないがしろにしていました。
本末転倒だろう、という声が出始め、プレイヤー間で大きくなって…………
その不満を抑えるために、最近キバオウは博打に出ました。
軍の中で最もハイレベルなプレイヤーでパーティーを組ませ、最前線のボス攻略に送り出しました」
――74層のBoss戦、あれはこういうことだったのか…………
「そこまではわかった。で?」
「結果は…………パーティーは敗北、隊長は死亡という最悪の結果を招き、キバオウはその無謀さを強く糾弾されたのです。
もう少しで追放できるところまでいったのですが……
3日前、追い詰められたキバオウは、シンカーを罠に掛けるという強攻策に出ました。
出口をダンジョンの奥深くに設定してある回廊結晶を使って、逆にシンカーを放逐してしまったのです。
その時シンカーは、キバオウの『丸腰で話し合おう』という言葉を信じたせいで非武装で、とても1人でダンジョン最深部のモンスター群を突破して戻るのは不可能な状態でした。
転移結晶も持ってなかったようで…………」
アスナが思わず尋ねる。
「み、3日も前に!?
それで、シンカーさんは?」
ユリエールは小さく頷いた。
「生命の碑の彼の名前はまだ無事なので、どうやら安全地帯までは辿り着けたようです。
ただ、場所がかなりハイレベルなダンジョンの奥なので身動きが取れないようで…………
ご存知のとおりダンジョンにはメッセージを送れませんし、中からはギルドストレージにアクセスできませんから、転移結晶を届けることもできないのです」
キバオウが、回廊結晶の出口を死地の真ん中に設定したやり方はポータルPKと呼ばれるメジャーな手法だ。
当然シンカーも知っていたはずだ。
だが、反目していたとは言え、同じギルドのサブリーダーがそこまでするとは思わなかったのだろう。
あるいは、思いたくなかったのか。
「いい人過ぎたんです。
ギルドのリーダーの証である約定のスクロールを操作できるのはシンカーとキバオウだけ。
このままシンカーが戻らなければ、ギルドの人事や会計まで全てキバオウにいいようにされてしまいます。
シンカーが罠に落ちるのを防げなかったのは彼の副官である私の責任。
私は彼を救出に行かなければなりません。
でも、彼が幽閉されたダンジョンはとても私のレベルでは突破できませんし、軍のプレイヤーの助力はあてにできません」
「で、俺たちに協力してもらおうと来たわけ…………か」
「無茶なお願いなのは重々承知の上です。どうかあなた方のお力を貸してはいただけませんか?」
シャオンはすこし戸惑った。
「助けてあげたい。けど、今はこの話が本当だと言う確証が得られない。それに、俺だけの判断でみんなを危険には合わせられない」
今まで話を聞いていたフローラが口をひらいた。
「シャオン君信じてあげようよ。ユリエールさんいい人そうだし、ね?みんなもそう思うでしょ?」
「そうだね。キリト君もいい?」
「だな。シャオン、疑うくらいなら信じてやろうぜ?」
「みんな…………わかった、行こうか」
「あ、ありがとうございます!」
ユリエールの顔が明るくなり、深々と頭を下げた。
子供達にも、この人がいい人だから助けてあげて、とお願いされ気合の入ったシャオンだった。
Story9-7 END
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