Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]
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太陽のような氷
前書き
制作時間4時間ぐらい
三人の少女達と別れを告げ、再び当てもなく森の中を彷徨う。
射命丸文と接触するにしても、裏口合わせどころか互いに初対面な間柄である以上、すれ違っても気付かない可能性だって大いにあり得る。
神奈子曰く、天狗で領土外に踏み込むのは彼女ぐらいらしいし、程度としては低めではあるが。
私の場合は、噂や聞き込みを辿ればいずれ彼女へと辿り着けるだろう。
だが彼女の場合、白狼天狗の口頭による情報のみが頼り―――最悪それすらも知らない可能性での、裸一貫に等しい状態。
私が見落としてしまえば、それまでという何ともシビアな状況とも言えよう。
―――だが、神奈子は彼女が紅い外套を抱えて飛び回っていると言っていた。
ならば、それ以降の聞き込みにも持ち歩いている可能性は濃厚だろう。
とはいえ、幻想郷に来て外套を公の場を歩いたのはただの一度とて無いので、引っかかる確率は限りなく低い。
やはり、私から打って出るのが一番確実か。
「とはいえ、こちらとて当てがないのは同じだがな」
軽く溜息を吐き誰ともなく呟く。
毎日足繁く散歩したところで、いつ成果が出るかはわかったものではない。
彼女に会えるまで毎日ぶらつけるほど暇ではない。
その暇ではない割合の半分以上は幻想郷の散策なので、ながら作業で済むといえば済むのだが。
ふと、風に紛れて冷えた空気が吹いてくる。
寒風の根源へと導かれるがまま足を運ぶ。
季節も相まって、常人ならば身震いするだけでは済まない寒風が襲いかかってくる。
そんな中を進むに連れて、視界が霧に染まっていく。
濃霧の先に見えたのは、二十平方キロメートルは下らない大きさの湖だった。
そういえば木の上にでも昇ったときに目にしていた気がする。
湖に近付き、手で水を撫でる。
太陽光によって乱反射する水面は、天然の宝石と比喩するに相応しい美しさを発揮している。
寒さが生物を遠ざけているせいか、聞こえるのは自然の奏でる旋律のみ。
誰も近寄らないというのならばそれも幸運。
せめて心ゆくまでこの場を独占するのも悪くない。
「おい、そこのやつ!アタイの縄張りでなにしてる!」
そんな幻想を打ち砕く、幼子の尊大な言葉。
降りかかるようにして放たれたそれに視線を見やると、そこにいたのは両腕を組み空中で仁王立ちをしている少女だった。
背後に展開されている氷柱のような六枚羽のようなものが、彼女もまた先の少女達同様妖精であるということを告げている。
「縄張り?」
「そうだ、ここはアタイと大ちゃんの縄張りだ」
どうだ、と言わんばかりに鼻を鳴らす。
根拠も証拠もない、ただ事実のみが語られるばかりで、信憑性の欠片もない。
恐らく、彼女が勝手にそう言っているだけだろう。
「それはすまないことをした。なにぶん私は幻想郷に来て日が浅いものでな、君達の縄張り事情どころか、土地勘すらもないのだよ」
「ふぅん………よくわかんないけど、つまりアンタよりアタイの方が幻想郷に詳しいってことね」
「まぁ、そういうことだ」
「なら仕方ないわね。仕方ないから許してあげる!」
相変わらずの態度だが、英雄王なんかとは違い可愛げがある分、寧ろ近所のガキ大将を相手にしているようで懐かしさすら覚える。
「そうだ、せっかくだしアタイとスペルカードで勝負だ!」
そう提案しながら、少女は私と同じ高度にまで降り立つ。
「スペルカード?」
聞き慣れない単語に首をかしげる。
「知らないの?スペルカードっていうのは―――」
要約すると、こうだ。
スペルカードルールというものは数年ほど前に幻想郷にされた、所謂〝人間と妖怪が対等に戦う為の決闘ルール〟らしい。
方式としては、スペルカードと呼ばれる一定の攻撃法則を封印した術符を数枚用意しておき、それを使い勝敗を競う。
決闘と言っても、剣道の試合のように近距離でのつばぜり合いのようなものではなく、弾幕と呼ばれる被殺傷用の飛び道具?の美しさを競うものらしい。
決闘である為、実害は殆ど無し。
あくまで勝敗を決める為の手段であり、エアガンを用いたサバイバルゲームみたいなものなのだろうと納得する。
彼女かた語られた内容はそれぐらいのものだった。
しかし、これだけでは解せない要素が多い。
人間と妖怪の併存への第一歩とも言えるそれだが、人間はともかく妖怪がそれを満場一致で承諾したのだろうか。
人間側からの視点で言えば、太古より妖怪は人間を脅かす存在である。
時には悪戯の対象であったり、時には食糧として。
少なくとも人間に害をもたらさない妖怪など、ここに来るまで聞いたことがなかった。
幻想郷の住人からしても、おおむねそんな感じだろう。
そうでなければ、声を大にして併存と口にする必要はないのだから。
このスペルカードルールとやらは、強者である妖怪を敢えて弱者である人間と同じ立場に落とすという、妖怪側からすれば利益もなにもあったものではない暴挙とも言える制度だ。反発やクーデターのようなものが起きても不思議ではない。
まだまだ幻想郷の一端しか見ていないが、一体どういう理屈で丸め込んだのやら。
「成る程。しかし君の言い分からして、私がそのルールに参加するのは無理だ」
「え、なんでよ!」
明らかな不満を孕んだ疑問を口にする。
「私には、君達が言うような決闘に使える飛び道具を持ち合わせていないのだよ」
私が使える遠距離攻撃は、等しく他者を殺めるものばかり。
恐らく彼女達は何かしらの手段によって、その形式に倣う為の道具を手に入れているのかもしれないが、此方にはそれがない。
競う、という点から見ても一方的な弾幕行為は成立しない、筈。
「………………?」
あ、駄目だ。わかっていない。
それだけ彼女達にとっては当然のものなのだろうか。
「だ、だったら!アタイがスペルカードを使うから、それを避けてみせなさい!」
「………?避ける、とは――――――」
疑問を口にするよりも早く、少女の手にある符を中心に魔力が爆発する。
波紋が総てを押し退けようとする感覚は、あの符に込められた力が如何ほどのものかをよく表していた。
「氷符『アイシクルフォール』!!」
瞬間、空気中がより一層底冷えしていく。
統率されたように一定の法則で氷柱が並んでいく。
その切っ先は余すことなく此方に向けられており、少女が事前に告げた避けるという発現の意味を理解してしまった。
「おい、待て―――」
制止の声は氷柱の空を切り裂く音に遮られる。
左右から扇状に展開し迫ってくるそれは、どう見ても実害がないとは言えないほどの速度で牙を剥いてくる。
あれがただの氷柱ではないことは明白。
英霊であるこの身は、単純な物理ダメージを一切通さない。
たとえ剣で首元を切られようとも、ロケットランチャーで吹き飛ばされようとも例外ではない。
しかし、魔力が通っていればたとえ刃こぼれしたナイフであろうと傷を負う。
故に、眼前に迫る氷の槍は、余すことなく凶器足りえるということだ。
「ちぃっ――――――!」
賽は投げられた。
一先ずはこの場を乗り切らないことには、一言物申すことさえままならない。
少女の言を信用するのであれば、このアイシクルフォールとやらも一定の法則に従って動いていることになる。
となれば、一度それを理解さえしてしまえば、最小限の動きで回避することも容易になる。
鷹の目を以て、パターン網羅に全力を注ぐ。
「見えたぞ、このパターンの穴を!」
理解した瞬間、左右から迫る氷柱に目もくれず少女へと一直線に肉薄する。
目を見開き驚く少女を尻目に、ついに二人の距離は手を伸ばせば届くところまで近づいた。
それが終了の合図となり、氷柱の残骸が霧散する。
「ア、アンタ………早すぎ」
「それよりも、あれは美しさを競うものではなかったのか。危うく怪我ではすまないところだったぞ」
「そんなこと言ったって、そういうものなんだからしょうがないじゃない。アタイが作ったわけじゃないもん」
………ますます訳がわからないな。
これでは打ち上げ花火の内側から眺めているようなものではないか。
一体何に対しての競い合いなのか、これでは察しろと言う方が無茶だ。
「あと、君にあの速さで近づけたのは、先ほどの弾幕に重大な穴があったからに過ぎない」
「穴って?」
少女の質問に、そこらにあった棒切れでアイシクルフォールの展開図を地面に描き説明する。
「君のアイシクルフォールとやらは、左右から扇状にこちらを追い込むような法則で動いていた。そこだけ見れば一見強力な布陣かもしれないが、君は正面に対する牽制をおろそかにしてしまっていた。多少無茶をすれば簡単に懐に入り込めてしまうんだよ」
「そ、そんなことない!あれはちょっと手加減してただけだ!」
「ふむ、ならば本気のときはどうするのか是非ともご教授願いたいものだ」
「そ、それは―――」
バツの悪そうに口ごもる。
気のせいか、目元も多少潤んでいるように見える。
別に手口を語りたくない、と言えばそれで済む問題なのだが、どうにも彼女は素直すぎる。
少しからかっただけなのに、なんだこの申し訳なさは。
「意固地になるのもいいが、時と場合を選べる能力は身に付けておいた方がいい。意見を片っ端から否定していては、悪いところは一向に改善されないぞ」
諭すように少女に語りかける。
形容しがたい表情で固まりながらも、話を聞いてくれている辺り、ある程度の納得は得られた様子。
「悔しかっただろう?自信を持って作ったスペルカードがあっさり看破され、あまつさえ破った相手にそれを指摘されたとなれば、屈辱の極み。もう二度とこんな気持ちになりたくないのであれば、小耳に挟むだけでもするべきだ」
「――――――わかった」
長考の末の決断は、私を満足させる答えとなった。
………まったく、私と言う奴は、まったくもってお人好しだな。
「その前に確認したいのだが、君の氷を出せる範囲はどこまでかね」
「うーんと、これぐらい」
私との距離を離し、大まかに説明する。
だいたい五十メートルといったところか。距離的にはたいしたことはないが、範囲内ではいきなり死角から襲われる可能性もあると考えると決して侮れない。
もしかすると、彼女は一工夫するだけで化けるのではないか?
「了解した。では、説明するぞ」
少女と距離を詰め、今度こそ話を始める。
私が出した提案はこうだ。
先程左右から放たれた扇状の氷柱の弾幕。それは左右と表現してはいたが、真横からではなく実際は斜め前からの攻撃である。
必然的に逆Y字型に迫ってくるそれだが、受ける側の背後ががら空きだ。
そして、先程決め手となった真正面からの攻撃が無いという点。
この二点を改善するだけで、突破が困難な布陣と化すだろう。
「先程の扇状の弾幕を、私の背後に同様に展開するのだ。そうすれば私を中心に十字型の隙間しか残らなくなる。生物は視覚範囲外の対しての動きに疎い。余程研鑽を重ねた者にはその限りではないが、それでも拘束するという点では十分意味を成すであろう。そして単純に自身の正面から直線に弾幕を撃つだけでも、単純な穴はなくなるだろう」
「す、すげー!―――だけど、アタイこんなに弾幕一気に作ったことなんてないよ」
「そこは慣れだな。努力してこそ結果が実るのであって、才能があれどそれにかまけて怠惰を重ねれば凡夫に成り下がる」
「………よくわかんないけど、アタイ頑張るよ」
「うむ、素直でよろしい。君は出世するよ」
上司が部下に言いそうな殺し文句で締めくくる。
おせっかいだったかと途中で不安になりもしたが、問題なく終わって良かった。
「ねぇねぇ、もっとアタイのスペルカードを強くしたいから協力してくれない?」
「ふむ、別に構わないが。乗りかかった船だしな」
と言うよりも、言うだけ言ってそのままはいさよならとは、無責任極まりない。
引き留められた以上、私には彼女に付き合う義務がある。
「さんきゅー!と言うわけで、アタイはチルノ!」
脈絡のない名乗りに、一瞬何を言っているのかわからなかったが、一拍遅れて返す。
「私はエミヤシロウという。………あと、出来るだけその脈絡のない切り返しはやめるといい。人によっては理解してもらえないから」
「――――――?」
「いや、もういい………」
がっくりと項垂れる。
何故先程の説明が理解できて、この問題はわからないんだ。
世界の悪意が見えるようだよ、凜………。
後書き
取り敢えず、後書きの前に報告。
これから最高約一年に掛けて、執筆速度が大幅減退します。
なんで?って言う人にヒント
1.それは毎年行われている。
2.誰もがやりたくないと心の底では思っている。
3.最近は達成するのが困難。
4.でも達成しないとヤバイ。
っていう理由で。
ともかく、恒例の今回の変化ー
チルノとの出会い。そして大ちゃんははぶられ。
一応大ちゃんには出番はありますが、今回はごめんなさい。個人的にチルノ<大ちゃん派
チルノ強化フラグ。
アイシクルフォールに限らず、色々スペルカードが強化されます。アイシクルフォールは独創ですが、他のスペルはEasy→hardぐらいには強くなっていることに。
どうでもいいけど、原作の弾幕とこの小説での弾幕速度は2倍ぐらい違います。ヤベェ早いです。
デフォでAUOの弾幕より恐ろしいです、威力は個人差ありだけど。
チルノが多少丸い?
これは書いてて思ったこと。なんかもっと尖っててもよかった気がした。
んだば単語用語シリーズいくべさ。
蒙昧
暗いこと。転じて、知識が不十分で道理にくらいこと。また、そのさま。愚昧。
類語に愚昧・暗愚があり、こちらは物の道理がわからず、愚かであるさまを指す。
特に小ネタはなし。というか、ふと思いついただけなので使い方しらね。誰か教えて。
頭をもたげる
意味:押さえられていたり、隠れていたりした物事や気持ちが表に出てくる。力をつけてくる。他者を抑えて、その実力を表す。台頭する。
二つ目のは頭角を表す、と似た雰囲気を感じる。
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