戦国異伝
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第百九十四話 長篠城の奮戦その九
「軍議をするぞ」
「ですな、明日の布陣のこと等を」
「今からですな」
「朝早くに攻める」
それだからこそ、というのだ。
「それでじゃ、今のうちに話をするぞ」
「ですな、そして」
「朝より」
「戦じゃ」
こう言ってだ、そしてだった。
信玄は軍議も開いた、信長は既にそれはしていて家臣達も兵も休ませていた。夜はお互いに静かだった。
しかしだ、その夜にだった。織田軍の陣にいる松永の下にだ、後ろから影が幾つか来て彼に問うのだった。
「してじゃ、どうなのじゃ」
「織田の様子は」
「相手となる武田は」
「どうなっておるのじゃ」
「お歴々が見ての通りじゃ」
飄々と笑ってだ、松永は影達に答えた。
「織田はこの通りじゃ」
「柵を作ってか」
「そして数多くの鉄砲も持ち」
「そのうえでか」
「戦に入るか」
「左様、そして武田も」
向こう側、川の向こう側の武田の陣地も指し示して言う松永だった。武田の陣地には無数の篝火がある、
「あの通りでございまする」
「ふむ、どちらもな」
「英気に満ちておるな」
「そして明日の朝からか」
「戦になるか」
「そうなりまする、そして戦になれば」
その時はというのだ。
「激しい戦になるでしょう」
「そして勝った方がか」
「負けた方を飲み込むのか」
「これからも潰し合えばいいが」
「この戦で終わりではなく」
「お歴々はそうお考えか」
今度は松永がだ、家臣達に問うた。
「戦が長引くことが」
「無論じゃ、ここで定まってもらっては困る」
「戦の世はさらに続いてもらわねばな」
「そしてより血が流れねば」
「まだまだそうしてもらわないとな」
「それがお歴々のお考えですな」
何処か遠い目になってだ、松永は彼等のその言葉を聞いたうえで述べた。
「戦乱が続けと」
「その通りじゃ」
「もっと続いてもらわねば」
「さもなければな」
「我等は動きにくい」
「ですな、我等の考えは」
ここで自分も入れて言う松永だった。
「そうしたものでしたな」
「無論じゃ、御主もそうであろう」
「御主も我等の一族だからな」
「それは当然であろう」
「今更何を言っておるか」
「ははは、確かに」
笑って返した松永だった。
「それは」
「そういうことじゃ、それでじゃ」
「この戦、引っかき回すことが出来るか」
「織田と武田をさらに戦わせること」
「それは」
「ううむ、そのことなのですが」
考えている目だが空虚になっているそれでだ、松永は影達に今度はこう答えた。
「どうやらです」
「出来ぬと申すか」
「織田と武田の戦、続けられぬと」
「そう言うか」
「手は打っているのですが」
そういうことにしての言葉である。
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