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日向の兎

作者:アルビス
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1部
  32話

「サスケ、君にはこれを渡しておこう。どの程度効果があるかは分からんが、幾分かの気休めにはなるだろう」

私はサスケ達と別れる際、彼に錠剤の入った小瓶を渡した。

「これは?」
「精神安定剤だ。所詮は市販の物なので大きな効果は望めんだろうが、戦闘前に服用しておけなば呪印の発動を抑える気休め程度には働くだろう。
その呪印は君の強い感情を引き金に活性化するようなので、使っておいて損はないと思うぞ」

それに市販といえど、一般向けよりは格段に効果の高い忍向けの薬だ。本来は恐怖心を殺したり、仮眠をとる際に不安を抑える事を目的とし薬で、その効果は戦場でもあるらしく忍からの売れ筋は中々らしい。

「それとチャクラの使用は控えておけ。君自身のチャクラは殆ど底をついていることもあり、術やらを使う際に君の分で足らないチャクラはその呪印が勝手に引き出すだろう。
使う術は火遁数発、分身、単純な肉体強化にとどめておけ。
それと写輪眼の使用は控えた方がいい。君は既に慣れていることもあって任意で使えるようになっているが、実際のところ感情を昂らせて理性で完全に抑え込んでいるだけだ。どうあれ、強い感情が沸き立つのは避けられず、呪印の活性化を促すことになる」
「分かった」
「結構。それとサクラに礼を言っておくのを忘れるなよ。彼女がいなければ今頃ナルトと仲良く来世に乞うご期待だったのだからな」
「笑えない冗談だ……」
「では、私達は合格者を減らす作業に移らせてもらおう。急ぎたまえよ、私達が狩り尽くしてしまうまでにもう片方の巻物を揃えなければ、この試験での合格は不可能となるのだからな」

本来、ここまで手を出すつもりはなかったからな。一度は情に駆られた私の甘さとできんこともないだろうが、二度目は単なる過保護となり私の在り方に関わってくる。
リーに言われた通り、他者への甘さを捨てることは私にはできんだろうし、それを明確な欠点と断言できないだろうと思うところもある。しかし、過保護は明確な欠点と断言できる。
過ぎたる保護とは言葉を変えれば、保護者による思想を一方的に押し付ける支配とも言えるだろう。こちらは全力で捨てるべきだ。
それ故に手助け、支援は今回の試験に関してはこれで打ち止めだ。あとは彼らの健闘に期待する他あるまい。
私達は私達の当初の目的通りに合格者を減らし、次の試験の難度を下げることに勤しもう。そのために昨日は拠点を作り、リーに虎を狩らせたのだからな。




「で、戻ってきたけどさ。結局どうするの?私としてはこのまま他の班を狩らずに、ここでのんびり休みたいんだけど」

テンテンは拠点に戻って、トラップの状態を確認しつつ私に不満そうに言った。

「いや、目的は変えない。と言っても、私達の仕事は近場の班を誘き寄せて罠にかけて弱ったところを、君の忍具と私の弓で仕留めるだけだ。リーはそれを抜けてきた輩はいた場合に備え、ネジは私が狙撃に集中した時の周囲の警戒だ。
この方針に対して何か質問、意見はあるか?」
「あのさ、迎撃のところは分かったけど……どうやって誘き寄せるの?そりゃ、バレないように罠は仕掛けたけど一発で仕留められるような罠じゃないし、絶対に途中で逃げられるって」
「その為に虎を狩ったのだ。テンテン、天の巻物を」
「え?あ、はい」

私はテンテンから渡された巻物を虎の口に咥えさせれ、その背中を急かすように叩いた。すると、リーに即死させられた虎はむくりと起き上がり、そのまま何処かへ走り去って行った。

「ええっ!?巻物が!?いや、死んだ虎が!?えっ、ちょ……ええっ!?」
「落ち着けテンテン。ヒジリ様の弁財天を虎の血管に流し込み、それを動かす事で生きているように見せかけているだけだ。術としての形式は違うが、要するに砂隠れの傀儡の術の類だ」
「それと食える臓物やらは取り除いている。無駄に関しては一切出していないぞ」
「そういう問題じゃ……ってそれより巻物をどうするの?」
「あれで釣るのだ、餌としてあれ以上のものはないだろう」
「いや、そうじゃなくてさ。取られたりしないかって事」
「その辺りは私を信じろとしか言えんが、条件としてはこちらの方が数段有利だから安心したまえ。
私は君のトラップを知っているため自由に動けるが、相手はトラップの場所や種類を想像し、巻物を得られる可能性とトラップによって負うダメージを天秤に掛けながら、私の虎を追わなければならないという精神状態にならざるを得ない。そういった圧倒的な精神的優位性があるということが一つ。
もう一つ、肉体的にも私は体への負担を一切考慮しない動きが可能だ。要するに虎の全速力が延々続き、相手はそれを追わなければならない。リー程の身体能力がない限り、下忍でそれに追いつける輩はそういないだろう。
最後に戦術的にも白眼の範囲内において、相手の手の内を大凡掴む事の出来るという優位性がある。
私はこれで容易く負けるとは思えないが、君はどう思う?」

私の問いにテンテンはやれやれというように肩を竦め、降参というように両手を挙げた。
だが、彼女もこれの方針に一つだけ問題がある事は理解しているようで、彼女が迎撃の為に巻物から取り出した忍具は面制圧に適した物が多かった。
その一つの問題とは私の肩だ。ごく普通の動きなら問題は発生せず、柔拳も長時間で無ければ行使も可能なまでには処置してあるが、弓は流石に問題がある。
私の弓は矢の特性上、遮蔽物を貫通する事に関しての一切の心配がない。が、相手へのダメージと飛距離に関しては通常の弓と差はない。幾らかは最適化しているものの、そこにかなりの筋力を必要とする事に変わりはないのだ。
それ故に迎撃に使える私の射撃は凡そ二回が限界。それ以上はそれなりの休息を取らなければ放てないだろうし、例え放ったとしても大した威力にはならないだろう。

「まぁ、私を当てにしてくれるのは嬉しいけどね」
「なに、私とて誰かに頼ることくらいあるさ」
「……それ、本気でいってるの?」
「テンテン、いつもの事だ。この人はこういう人だっていい加減理解しろ」
「君達は一体私を何だと……このやり取りは一体何回目なのだ」
「これも青春ですね!!」
「絶対「断じて「どう考えても違う」」」




その後、二班ほど仕留めたのだが……私が弓を引くまでもなかった。理由としてはごく単純、その前に終わったからだ。
確かに私はテンテンからトラップの位置や内容は理解していたが……ただ一つ誤解していたことがあった。テンテンの仕掛けたトラップの発動条件はワイヤーに引っ掛かるか、特定の地面を踏むかだろうと考えていた。
だが、実際は違った。全てのトラップが彼女の指先の糸からチャクラを伝わせるだけで、彼女の任意でいつでも発動可能なのだ。
それに彼女の忍具のセンスが加わることで凄まじい効果を発揮し、私が何をするまでもなく相手はテンテンによって叩き潰された。
白眼も何も持たないにも関わらず、指先から伝わるトラップの感触から相手の状況を把握し、さいこう……いや、訂正しよう。回避不能、認識不能の最悪のタイミングで次のトラップを発動させて仕留めるのだ。
最初は左右から丸太で潰そうとするトラップを発動し、相手がそれに対応した瞬間に敵の背後から無色透明の手裏剣のトラップを放って全滅。次は地雷を発動させて、粉塵が晴れない内に即効性の毒煙を撒いて全滅。
……正直、戦場やらでは一番厄介なタイプはテンテンだろうと実感した。












 
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