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小噺

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第五章

「いいな。このままだ」
「わかりました!」
 円満と内山もすぐに機銃座から離れて全速力で最寄りの防空壕に向かう。しかしここで。
「来たぞ!」
「グラマンだ!」
 敵の数はあまりにも多かった。こちら側の機数では対処しきれなかった。それでここにも敵が来たのである。
 アメリカ海軍の戦闘機だ。空での戦いだけでなく陸上への攻撃でも有名だった。機銃掃射で一般市民も狙う悪名高い機体であった。
 それが来てさらに逃げ惑う彼等だった。早速機銃掃射が来た。
「うわっ!」
「わあっ!」
 何人かがやられた。確かに見る余裕はないからそこまではわからない。とにかく今は防空壕に逃げ込むだけだった。
「早く入れ!」
「さもないとやられるぞ!」
 周りからそんな声が飛ぶ。見れば防空壕はすぐそこだった。 
 円満はそこに飛び込もうとする。そこにはもう内山がいた。
「こっちですよ!」
「ええ!」
 彼の呼び掛けに応えてそのまま飛び込もうとする。しかしその時だった。
 彼はやってしまった。焦るあまりこけてしまったのだ。思いきり前のめりにだ。
「あっ!」
「まずい!」
 それを見て防空壕から声がした。
「円満さん!」
「はい!」
「今行きます!」
 声の主は内山だった。何と彼はここで防空壕から飛び出たのだ。
「えっ・・・・・・」
「動かないで!」
 驚く円満に駆けながら告げた。
「動くとかえって撃たれます!」
 既にグラマンは上にいる。今にも機銃掃射を仕掛けんばかりである。
 それを見ての言葉だった。しかしであった。
「けれど内山さん」
 円満はその彼を見て言うのだった。
「貴方は」
「いいですから!」
 彼にはそれ以上言わせなかった。
 そうしてだった。円満を担いで素早く防空壕の中に駆け込んだ。上からグラマンが迫る。その中を必死に駆けて防空壕に戻るのだった。
 グラマンの機銃掃射がはじまった。地面を続け様に砕く音が後ろから迫る。
 しかし彼はそれを真後ろに聞きながら何とか防空壕に駆け込んだ。そうして何とか倒れていた円満をその中に引き入れたのであった。
「よかったですね」
「は、はい・・・・・・」
 呆然としながら応える彼だった。防空壕の中は暗く外の日差しの世界からグラマンの飛ぶ音が聞こえる。その中で応えたのである。
「有り難うございます」
「それで足の方は」
「とりあえずすりむいただけです」
 見ればそれだけだった。膝は破れてしまって血が滲んでいるが本当にそれだけだった。
「何とかそれだけで」
「そうですか。それは何よりです」
「何よりではないですよ」
 少し落ち着きを取り戻した彼は顔は戸惑ったままだったがこう彼に返した。
「また何でそんな」
「いや、何か自然に身体が出たんですよ」
 笑ってこう話す内山だった。
「自然にね」
「自然にって」
「円満さんがこけたのを見てそれでだったんですよ」
「飛び出たっていうんですか」
「あれですかね。わしにも戦友意識があったんですかね」
 屈託のない笑みでそれを述べるのだった。
「それでまあ」
「私をですか」
「そうじゃないですかね。まあ助かって何よりですね」
「ええ、有り難うございます」
 また礼を述べてから彼に言うのだった。
「御礼は」
「ああ、そんなのはいいですよ」
 しかし彼はそれは笑って断ったのだった。 
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