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小噺

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第三章

「アメリカ軍が」
「それじゃあこの基地も」
「覚悟しておきますか」
「そうですね。ここは」
 そんな話をしているうちに満身創痍の機体が次々と帰って来る。その整備は大変なものだった。その日から出撃が増え整備も増える。彼等の疲労も溜まっていた。
 しかしそれについて愚痴を言うことは許されなかった。戦争だからだ。
「最近休む暇もありませんね」
「ですね」
 二人は今風呂に入っていた。その湯舟の中で話をしていた。
 内山はやくざといっても刺青もなければ指もある。確かにところどころに傷はあるがその他には何もない。やくざ者には一見すると見えない姿だった。
「まあそれでもです」
「それでも?」
「私達は戦場に立ってませんからね」
 内山はこのことを言うのだった。湯舟のその温かさを楽しみながら。
「それだけ有り難いですよ」
「そうですね、確かに」
 そして円満もそのことを頷くのだった。
「それは有り難いです」
「今頃艦に乗ってる人達やパイロットは大変ですよ」
「ですね」
 彼等は海軍である。その航空隊にいるのだ。
「それを思えば」
「もっとも本当にアメリカ軍は近くにいますけれどね」
「ええ、それは確かに」
「そのうちこの基地にも空襲に来ますね」
 内山はこんなことも言った。風呂の中には他にも兵士や下士官達がいる。それぞれ手拭で垢を落としている。ここだけを見れば銭湯に見える。
「近いうちに」
「来ますか」
「来ますよ、絶対に」
 彼は断言した。
「だって向こうも戦争やってるんですから」
「だからですか」
「ええ、来ます」
「そうですか」
「ですから用心して下さい」
 その言葉は険しいものになっていた。自然にだ。
「アメリカ軍は数で来ますからね」
「そうですね。それは」
 このことは円満も知っていた。アメリカ軍はとにかく数だ、その認識は彼も強く持っていたのである。
「かなりですよね」
「ですから注意して下さい」
 また言う彼だった。
「奴等が来た時は」
「はい、わかりました」
 内山の言葉にしっかりと頷く。それでこの時の話は終わりだった。
 それから一月程した時だった。もう基地にある航空機はかなり減ってしまっていた。それには理由があった。
「また引き抜かれたんですね」
「そうですね」
 滑走路に並べられているその航空機を見て話す円満と内山だった。航空機の種類はそれなりにある。だが数はかなり減ってしまっていたのだ。
「内地にですか」
「ええ。サイパンが陥落しましたよね」
「はい」
「そのせいです」
 それが影響していると話す内山だった。青い空は澄んでいるが今の二人にとってはその澄み方が余計に寂しく感じられたのである。
「向こうの攻撃に備えて内地に集めてるんですよ」
「それで、ですか」
「あと爆撃機はもっと南に」
「フィリピンとかにですか」
「はい、そっちにです」
 回されたというのである。
「それで残ってるのは」
「これだけですか」
 そのすっかり減ってしまった航空機達を見て寂しい顔になる円満だった。
「これだけなんですね」
「わし等はずっとここみたいですけれどね」
 内山はここでこんなことも言った。 
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