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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-25

 



『兄上? ラウラ・ボーデヴィッヒだ。今回の亡国機業内部分裂の件について報告するぞ』
『ああ。……どれくらい離れた?』
『八割から九割方といったところだろうか。かなり離れて行ったな。兄上のもとに残ったのは、すぐそばにいるであろう篠ノ之束とナターシャ・ファイルス。私にシュヴァルツア・ハーゼ部隊だ。ISに関して言えば、アラクネ、サイレント・ゼフィルスは向こうが。こちら側で極秘に開発していた赤椿の劣化型量産機は無傷だ。これはもう不幸中の幸いというほかないな』
『戦力としては申し分ないが、やはり人海作戦を取られると負けるな』
『今しばらくは動かない方がいいだろう。少なくともナターシャが例の作戦に乗じてこちらに来ない限りは動かない方が得策だな』
『そうか……。まあ、仕方のないことだ。いつまでも躊躇っていては進めるものも進めない。そういえば、潜入部隊は、どうなった?』
『チェルシー・ブランケット、篝火ヒカルノは、中立。どちらかと言えばこちら側であろう。御袰衣麗菜については消息がつかめない。……この件に関してはすまないな。兄上の義妹を見つけられなかった』
『いや、それに関してはラウラが謝る事じゃない。あいつもあいつなりに考えがあるんだろうし、敵対したらその時はその時だ。自分の手で殺す』
『それはそれは。そんなことが来ない様に祈るだけだな。……そして最後だが、後一人幹部クラスがいたと思うんだが……すまない、いつも会うことはほとんどないから名前も思い出せないが、彼女に関しても行方不明だ。どこかで捕まったとかという噂も聞くが……如何せん、信憑性に欠ける。スコール側についたとの情報もないから、どこかで生きてはいると思うが……』
『いや、もう大丈夫だ。消息の掴めない奴は今は放っておこう。さて、これからだが、クラリッサたちには冷静になれと言っておけ。どうせ、粛清だと息巻いているだろうからな』
『了解』
『お前も今のうちに学園生活を満喫しておけよ。どうせあと一年もしないうちにここから離れることになるからな』
『ということは、今年の末ないし年明けに作戦スタートということか?』
『そういうことになる。以上か?』
『ああ、以上だ。通信終わり』


 ◯


 夏。
 日本列島がある位置の地理的関係上、四季と呼ばれるものがある。勿論日本に限った話ではないのだが、地球温暖化の影響などにより、北海道などの亜寒帯地域、本州西日本や四国、九州が属する温帯地域。それに沖縄がぎりぎり属する亜熱帯地域の三つの気候区分が入る国なのだ。勿論、他にもこういった地域や国がないわけではないが、珍しいことは確かだった。
 そんな日本にも夏がやってきたのであった。


 IS学園では、初夏に臨海学校という行事を行うそうだ。二泊三日で一日目は自由時間。二日目はISの整備や移動の訓練。三日目は少しの自由時間の後学園に戻るという。大雑把ではあるが、纏めるとこんな感じである。なぜこんな話をしているかというと……。
 蓮も束と一緒に参加することになってしまったからだ。


「それにしても、まさか私まで参加できるとはねぇー」
「色々と建前は言われたが、どうせ織斑千冬がいないと束の監視も出来ないと踏んだのだろうな。どうもお前のことを上層部や委員会の奴らは恐れているようだな」
「別にいいよ。私にはれんくんがいれば問題なんてないからね」


 御袰衣蓮は年齢が違うが所属する学年的に束は学園の専属メカニックだから。そんな上辺だけの理由をつけられて参加する羽目となってしまったが、どちらにせよ臨海学校には乱入する手筈となっていたのだが裸、余計な手間が省けて逆に助かる。


「にしてもここは賑ってるねー。何でもそろうぐらいしか此処にないのにそれがいいのかな?」
「まあ、こんな規模の大型デパートなんてこのあたりにはここしかないからな。それにIS学園からも一番近いし、そういう発注も受けているんだろうよ」


 二人は学園の最寄デパートである『レゾナンス』に来ていた。理由は、デートもかねて久しぶりに出かけたくなったからだ。基本IS学園に閉じ込められてしまうが、必要なものを揃えなければならないため、許可を取って来てあるのだ。監視がついているが……別に問題はないだろう。目立って問題を起こす気もないし、何か密会でもする気もないから。それに織斑姉弟と山田先生、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、箒とここのデパートに来ているらしいからいろいろな面で万全なのだろう。


 蓮と束は、そんなに見てくれを気にする人ではない。自分の好きな色のものを揃えればそれでいいと済ませてしまう人たちなのだ。今回も水着などの小物を買いに来ただけなのだ。それに海には入りたくないから水着なんていらないのだが、自由時間は砂浜で過ごさなければならないということなので、仕方がなしに買うのだ。蓮は一般的な黒のトランクスタイプのものを。束も一般的な薄紫のビキニタイプのものをそれぞれ無難に買っている。


 あっという間に終わってしまった買い物。三十分もあればすべてを揃えるのは難しくないことだ。これからどうすることもなくただデパート内を歩いていると目の前にゲームセンターを見つける。蓮が束に目を向けると束も蓮の方を見て何かを訴えていた。時間もあることだ。二人はその中へと入っていった。


 ◯


「……ん? あれって束さんと御袰衣か?」
「あら、そうみたいですわね。二人で……ええっと、なんていうんでしたっけ……」
「ゲーセンにいるなんて……いつものイメージにはないな」
「そう! それですわ! そのゲームセンターとやらに私も行ってみたいですわ」
「ちょっとぉ! 私もいるってこと忘れないでよね」
「あはは……」


 一夏とセシリア、鈴、シャルロットの四人は蓮と束を見つけた。あの二人が一緒にいるのは最近よく見る光景ではあったが、ゲーセンにいるのは予想していなかった。そんな驚きと一緒に四人は二人のもとへと向かう。
 二人が話しながらやっているのは画面を流れる色に従って太鼓の面とふちを叩くリズムアクション系の所謂音ゲーだった。難易度に従って譜面も難しくなるのだが、二人がやっているのは明らかにレベルが違っていた。


「織斑か。何の用だ」
「いや、別に用ってわけでもないんだが……今二人がやっているのっておになのは分かるけど、なんかいつもと違くないか?」
「ああ、それは俺があべこべで束が三倍速で叩いているんだ」
「だってそれぐらい速くないと遅すぎて出来ないんだもん」


 呆気にとられてセシリアたち三人が画面を眺めていると曲が終わった。二人ともフルコンボして当たり前といった面持ちだった。どうやら三曲目だったらしくて最終の結果が画面に流れていた。


「この曲によってフルコン時のスコアが変わるのはやめてほしいよね」
「俺は別に気にしてないが……それに全部同じだったら全国ランキングのスコアがすべて同じになるだろ」
「そっかあ、それは考えてなかったなっ」


 ゲーム画面には全国ランキングが出ていて、結果が二位とある。


「こんなもんか。……あ」
「むう、いつの間にたっちゃんとやっていたの!? 今日は遊ぶよっ」


 一位と二位のネームがRM&TS。三位のネームがRM&KS。おそらくイニシャルを取ってつけていると思われるが、それで誰が誰とやったのかまで分かるのは束ぐらいだろう。勿論、見慣れている人はその限りではないが。


「今、何やってたか分かったか?」
「い、いえ。何もわかりませんでしたわ……」
「上には上がいるのねえ……」
「……」


 シャルロットには驚きのあまり目を見開いたまま動かなくなってしまっていた。他の人もシャルロットほどではないが驚きを隠せないでいるようだった。鈴に至ってはどこか達観しているようなものを匂わせている。そういうレベルにいたのだ。


 蓮と束の二人は動かない四人を放っておいてゲームセンターの奥へを入っていった。一夏たちは少し遅れて二人を追いかけるように同じように奥へと入っていた。
 蓮と束は二人でできるものを中心に一夏たちはクレーンゲームを中心にして遊んでいた。二人が次々と記録を塗り替えているのを知る由もない一夏は、今日の蓮の態度に疑問を持っていた。


 いつもなら話しかけても無視をするだけなのに、今日は答えてくれた。単純に休みの日ぐらいは話してくれるのか。それとも何か心情の変化でもあったのか……いや、それはないな。おそらくただ単純に休みの日ぐらいは休んでいたいのだろう。できればこれをきっかけにして仲良くなりたい。セシリアに呼ばれた一夏は返事を返しながらそう思う。


 ◯


「いやあ、遊んだねえ」
「そうだな、こうやって遊ぶのも少し久しぶりだな」


 夕方になるとゲームセンターを後にして学園へ戻る二人。二人の距離は近く、手を繋いではいないものの普通の仲ではないことを窺わせる。
 買った物はすでに寮の方に送ってあるため、ほとんど手ぶらな二人は沈みゆく夕日に照らされながら歩いていく。こうやって遊べるのはもうないかもしれない。これからはこの二人を中心として世界を巻き込んだ大きな事件が起こる。その中には平穏なんてものはないのかもしれない。最悪、世界大戦の再来になってしまうかもしれない。そうなってしまえば、もはや地球は死絶えるだろう。


 二人は自然に足を止めた。沈む夕日に目を向ける。眩しいが、心に温かさをくれるような気がする。
 あと数か月もすると世界は慌しくなる。男は叫びながら戦い、女は振るえながらも戦い、子供は泣き止まない。そんな世界が来てしまうのかもしれない。


 二人の間に言葉はなかった。夕日が海に飲み込まれていくようだ。段々、辺りが暗くなってくる。
 罪のない人を巻き込んでしまう。一般人を巻き込んでしまう。その責任はこれからことを起こそうとしている二人にすべて回ってくるのだろう。それでもやめることは選択肢にはなかった。


 二人は再び歩き始めた。夕日が完全に沈んだ。東の空から辺りに夜の帳が落ち始める。
 二人には関係ない。そんな言葉で済ませてしまえるほどこれから起こそうとしていることは簡単なことではなかった。責任をどうやって取るのか。――――死んで償う?


 二人の間に言葉は必要ない。街灯が学園までの道を寂しく照らす。あと三百メートルといったところだがその間には住宅などの建物はない。心に陰りを与える。
 死。死ぬってどういうことだろう。死ぬってなんだろう。死って一体――――。


 二人は手を繋いだ。優しい星の光が夜空を埋め尽くしている。
 気持ちは通じあっている。お互いの気持ちが手に取るようにわかる。大丈夫。怖いものはない。恨みも後悔も悔いも責任も怒りもすべて受け止める。


 もともと二人が歩こうとしているのはそんな茨の道なのだから。






 
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