ソードアート・オンライン ~白の剣士~
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鬼神
前書き
久しぶりの投稿です!
それではどうぞ!!
「ハァ、ハァ、ハァ!」
病院の廊下を走る雪宮雫と結城明日奈は受付センターで受付を済ませ、エレベータに乗り込むと乱れた息を調える。
ALOでシオンたちの勝負を観戦している中、ぼろマントの姿に異変を感じた皆は彼らに依頼をした菊岡誠二郎に話を聞いた。そこで聞いたのは今まさにシオンとキリトがGGOでとある事件について犯人を追っているというものだった。
直後彼女たちは菊岡から彼らがどこでダイブしているのかを聞き、今に至る。
「雪羅ッ!」
「キリトくんッ!」
雫が扉を開けると、そこにはアミュスフィアを装着した和人と雪羅がベッドで横になっていた。
その近くで彼らの様子を見守る看護婦の安岐の姿があった。
「雪宮さんに結城さん、話はお伺いしております」
「雪羅くんと和人くんは大丈夫なんですか?」
明日奈がそれを聞くと、安岐は二人の顔色を見ながら答えた。
「今のところバイタルは安定しています。ただ、長時間のダイブで脱水症状にならないかが心配だけどね・・・」
雫が病室に備え付けてあるテレビに目を向けると、そこには今まさにBOBで繰り広げられている戦闘の模様を中継していた。
そこに映っているのは不気味な赤眼を光らせる仮面のぼろマントのプレイヤーと、白い髪に赤と蒼の眼を持ったプレイヤーが対峙していた。
「あれが、シオン・・・」
雫は白髪のプレイヤーを見てそう呟くと彼と対峙しているぼろマントのプレイヤーのキャラネームを見た。
「スティー、ベン?」
「Stevenのスペルキス?」
「いいえ、あれはドイツ語よ」
安岐がそれを否定し、本当の意味を伝える。
「同時に、医療関係の用語でもある。読み方は・・・《ステルベン》」
「ステルベン・・・」
「意味は、《死》。病院では・・・患者さんが、亡くなった時に使う言葉・・・」
「死・・・」
雫は目の前に横たわる雪羅の姿を見ながら呟いた。
『シオン・・・』
雫は画面の先にいる雪羅もといシオンを祈るように見つめた───
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
エリーシャたちがログアウトしてから少し経ったくらいの頃。その場に残されたリーファたちは画面に映るシオンの戦闘を見ていた。皆落ち着かない様子で見ているなか、シュタイナーは後ろからそんな姿を見て声をかける。
「みんな、少しは落ち着いたら?」
「シュタイナーさんは逆に落ち着きすぎてる気もするんですけど・・・」
シリカを含め、その場にいた全員が思った。この男はなぜここまで落ち着いていられるのか?今まさに目の前でシオンがラフコフの元メンバーと戦闘を繰り広げられているなか、シュタイナーの落ち着きようは奇妙なものだった。
「ここでソワソワしたところで画面の先のシオンには何の影響にもならん」
「だからって・・・」
「それに・・・」
シュタイナーは壁に寄りかかると戦闘中のシオンを見た。
「彼はまだ本気を出していない」
「ッ!それってどういう・・・?」
「正確には出しきれていない。作ってまだ二日足らずのアバターにまだ身体が馴染んでないのさ。恐らく、まだ本調子の半分も出してない」
「そんな・・・」
「まぁ、相手も本気じゃないみたいだけど」
シュタイナーはシオンの戦闘を見ながら目を細めた。
『まだだ、こんなもんじゃないだろ?シオン・・・』
その視線はまるで彼に発破をかけるようなものだった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「チィッ!!」
「ッ!」
シオンはザザの刺剣を左肩に掠めるも、追撃を繰り出す。光剣はザザの右腕を狙うも、空を斬る。
距離をとった二人の息は上がり、既に肩で息をしていた。
「クソッ・・・、なかなか、斬らせてはくれないな・・・」
「どうした?もう、限界か?」
「ハッ!よく言うぜ。お前こそ息が上がってんじゃねーか」
とはいえ、戦況はいまザザの方が有利にとなっている。
表情には見せないもののシオンはこの状況を感じ取っていた。
『やっぱ、年期ではアイツの方が上か。悔しいがそれは認めるしかない。あと少し、あと少しでこの身体にも慣れる。それまでもたせねーと・・・』
「何を、呆けいて、いる」
「ッ!」
ザザは既にシオンの懐に入っていた。シオンはガードするも、刺剣
の高速ラッシュにダメージを受けてしまう。
HPは半分を切り、イエローゾーンに差し掛かっている。
再び距離をとるシオンに対し更に距離をつめるザザ、ぶつかり合う光剣と刺剣がオレンジ色の火花を散らす。
「さぁ、見せて、みろ。鬼神の、力を・・・!」
「悪いな、生憎見せる気は毛頭もない!」
「そうやって、また、護れずに、終わる、のか?」
「何?」
ザザは仮面から覗く赤い瞳を不気味に光らせる。
「お前は、誰も、護れない。目の前で、仲間が、無惨に、死んでいく様を、見るだけだ・・・」
その言葉に、シオンは胸が締め付けられる衝動にかられた。
「ッ!お前、その言葉・・・!」
「お前は、所詮、何も、出来ない。何も、『救えない』・・・」
ザザの言葉にシオンはあのときの記憶が甦る。その瞬間、シオンの中の何かが切れた。
「ダマレ・・・」
「ほう・・・」
俯いていた顔を上げるとその瞳は紅で染まり、髪は白から黒へと染まっていった。歯を剥き出しにし、今にも目の前の敵を喰い千切るかのような殺気を放ち、その姿はもはや獣を通り越していた。
「オマエヲ・・・」
その姿は───
鬼、そのものだった。
「・・・コロスッ!!」
次の瞬間、ザザの目の前からシオンが消え、背後に回り込まれていた。
「ッ!」
「ガァアアアアッ!!!」
シオンは素手でザザを殴り飛ばし、ザザはまるでゴムボールのように地面を跳ね、転がった。
体勢を立て直そうとするも、シオンはザザの頭を鷲掴みにすると一気に地面に叩きつけた。
「がはッ・・・!」
ザザは刺剣で振り払うと距離をとり、自分の身に今何が起きたのかを察知した。
「これが、鬼神の、力、か・・・」
ザザの目の前にいる男、シオンはもはや先程までの彼とは明らかに違っていた。怒りに支配され、力で目の前の敵を喰い千切る魔物。今のザザにはそう見えた。
「面白い・・・」
「ガァアアアッ!!!」
目の前で咆哮をあげるシオンに対してザザはそう言った。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「シオン・・・」
「シオンくん・・・」
雫と明日奈は今まさに目の前で鬼神となっているシオンを目の当たりにし、言葉を失っていた。
「あれが、鬼神・・・」
「なんて、強さなの・・・」
二人が驚愕したのは彼の姿ではなく、その異常なまでの強さにあった。素手で殴っただけで何十メートルも吹き飛ばすパワー、一瞬で背後に回り込むスピード、そのどれもが桁違いだった。
「確かに、強い。強いのに・・・」
今の彼は確かに強い、このままいけば勝つことができるかもしれない。
しかし・・・。
「どうしてあんなに悲しそうなの?」
雫はシオンの顔を見て思った。怒りに支配され、苦痛に顔を歪め、力で目の前の敵を倒す。
それは以前の彼ならあり得ないことだった。
「エリーシャちゃん・・・」
明日奈は雫の肩に触れると、明日奈の携帯からユイの声がした。
『ねぇね、にぃにの手を、握ってあげて下さい。アミュスフィアの体感覚インタラプトは、ナーヴギアほど完全ではありません。ねぇねの手の温かさならきっとにぃににも届きます。ねぇねの声もきっと・・・』
「ユイちゃん・・・」
雫はベッドで横になっている雪羅の右手を優しく両手で包み込んだ。ありったけの心の声を伝えるために・・・
『お願いシオン、戻ってきて・・・』
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
『あれは、相当ヤバイね・・・』
シオンから借りたグラスをかけて戦況を見届けているアリアは今のシオンに僅かながら恐怖を覚えた。
『恐れてはいたことだけど、まさかここまでとはねぇ』
アリアはシオンの話を聞いたとき鬼神のことを聞いていた。
『もし俺が我を忘れるほどの衝動にかられたとき、その時はアリア、お前が俺を射て』
「と、言われてもねぇ・・・」
遥か先で素手で一つで殺り合っているシオンを容易に射てるわけがない。
「この距離でもかわしてくるだろうしね・・・」
だが、やるしかない。そう思い、アリアは渋々先程捨てたライフルとは別のライフルを取り出した。
しかしその時───
「えっ・・・」
アリアは状況の異変に気づいた。
「シオンの動きが止まった・・・?」
アリアが見たもの、それは拳を途中で止め、突如動きを停止したシオンの姿だった。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
暗い───
怖い───
ここは、何処だ───?
俺は、何を、しているんだ───?
コロセ───
『やめろ・・・』
喰イコロセ───
『やめるんだ・・・』
力デネジ伏セロ───
『俺は・・・』
目ノ前ノ敵ヲ───殲滅シロッ!
『やめろ・・・!』
コロセ、喰イコロセ!
血ヲ、肉ヲ、俺二喰ワセロ!!!
「やめろぉおおおおおッ!!!!!」
『シオン!』
「ッ!」
『お願い、戻ってきて!!』
「この声は・・・」
『君は鬼神じゃない!君は・・・』
『白の剣士、シオンなんだから!』
「ッ!」
喰エ、喰ラエ、全テヲ喰ライ尽クセ!
「・・・・・」
オマエハ鬼ダ、鬼神ダ!!
「うるせぇッ!」
何ッ!
「何が鬼だ、鬼神だ!俺はんなもんになった覚えはねえッ!俺は・・・」
シオンは拳を地面に叩きつけた。すると黒い空間は瞬く間にガラスのように砕け散った。
「俺は、雪羅だ!!」
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ザザは目の前で動きを止めたシオンに警戒を崩さなかった。
『一体、何が・・・』
ザザがそう思っていると、シオンの身体はバタリと力無く倒れた。ザザはその瞬間を見逃さず接近、トドメを刺すべく刺剣を突き立てる。
「終わりだ、シオン・・・!」
刺剣をシオンの心臓に突き刺そうとした瞬間、その剣先は突き刺さる僅か数ミリのところで弾かれた。
「何ッ!」
刺剣は何者かの手によって止められたのだ───一本の光剣によって。
刺剣を弾いた人物はゆっくりと立ち上がり、首を鳴らしてザザの仮面の先にある目を見て言った。
「よう、待たせたなぁ」
「シオンッ!」
シオンは既にもとの姿に戻っており、右手には白の光剣が握られていた。
「随分と派手にやったもんだな、俺が知らぬ間に。アンタもさぞ楽しかっただろうな、でも安心しな・・・さっきよりもっと楽しませてやるからよ」
「・・・・・」
シオンは光剣を器用に振り回し、剣先をザザに向けた。
同時に、フィールドには新たな風が吹き始める。
「さぁ、カーニバルの時間だ!」
荒れ狂う強風の中、今、最後の戦いが始まる───
後書き
中盤結構ブラックな描写が多かったなか、次回はどうなるのか?
コメント、評価の方、お待ちしております!!
ではでは~三( ゜∀゜)ノシ
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