這い上がるチャンプ
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第二章
「ロジー=スミスみたいだぜ」
「それでも俺は打たないだろ」
ミッキーは少し自嘲してジョンに返した。
「ダック程な」
「あいつ打つからな」
「グラブ捌きがまだ雑で肩も俺程じゃないけれどな」
「確かに打つな」
「勝負強いしな」
そのことが、というのだ。
「俺の守備と肩、足がそれぞれ百とするぜ、グラブ捌きもな」
「あいつはどっちも八〇位だな」
決して低くはないが、だった。
「御前の方が上だな」
「俺のミートバッティングが七十、パワーが五十でな」
「あいつは両方共百か」
「うちのチームはちょっと打線が悪いんだ」
「そこでそこまで打つショートはか」
「有り難いだろ、それに守備はやればやる程よくなるんだよ」
それが守備だとされている、無論例外の者もいるが。
「そういうものだからな」
「それでか」
「監督は打てる奴が欲しいんだよ」
「だからあいつがか」
「レギュラーになるだろうな」
「おいおい、じゃあ御前はどうなるんだよ」
「だからベンチだろ」
やはり自嘲で言う彼だった。
「俺はな」
「そうなるんだな」
「ああ、そうだよ」
「じゃあレギュラーに返り咲く様に頑張るか」
「当たり前だろ、俺だって意地があるんだよ」
ミッキーはこのことはジョンに言い切った、細面の引き締まった顔は短くスポーツ刈りにした黒髪と相まって実にいい顔になっている。
「絶対にな」
「這い上がるんだな」
「そうなってやるからな、俺がメジャー一のショートだ」
「そうか、じゃあ戻って来いよ」
「絶対にな」
こうジョンにも言う、検査の結果彼は右肩を骨折していたがそれでも後遺症はなかった。そして程なく入院してだった。
チームに戻った、だが彼の言葉通り。
レギュラーは完全にダックのものとなっていた、ダックは常にだった。90
スタメンだった、ベンチにいるミッキーの前でとにかく打った。特にチャンスの時に。
守備は確かにミッキー程ではない、しかしよく打つので。
「ダックいいよな」
「ああ、あいつがいればな」
「ミッキーもよかったけれどな」
「それでもな」
ダックがいればとだ、ファン達も言うのだった。
「ダック打ちまくるからな」
「これは頼りになるぜ」
「やっぱり打ってくれないとな」
「守備はやってればよくなるしな」
「それに足もな」
ミッキーの売りの一つだ、彼が百ならダックは八十と言っていたそれが。
「思ったよりいいな」
「流石にミッキー程じゃないけれどな」
「ミッキーが百なら九十か?」
ミッキーの予想以上に高かったのだ。
「ミッキーが凄過ぎるからな」
「ダックも相当だぜ」
「盗塁だってしてくれるし」
「それに塁に出てくれるからな」
盗塁は出塁しないと出来ない、当然のことだが。
「だからな」
「それで、だよな」
「ミッキーもよかったけれど」
「ダックの方がいいぜ」
「総合的にな」
「ほらな、言った通りだよ」
球場の声を聞きながらだ、ミッキーはベンチの中で共にいるジョンに言った。
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