地連のおじさん
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第七章
第七章
「それと比べれば」
「自衛隊はずっといいか」
「はい。あの彼も」
「ああ、これからの本人の努力次第だがな」
「いい自衛官になってくれますよね」
三曹は言った。
「きっと」
「なってくれるさ。そうだな」
「そうだな?」
「応援しような、ずっと彼のことを」
二曹はここでこんなことを言うのであった。
「立派な自衛官になれるようにな」
「そうですね。だったら」
「彼が入隊してからもできる限りで助けよう」
「はい、それじゃあ」
こうして入隊したその彼を本当にできる限り支えたのだった。久留米での入隊式にも無理をして同行したし見送りもした。携帯で何か必要なものがあるか、悩みがあるかを聞き親身になった。その介あってか彼は無事一年の幹部候補生としての教育課程を終えた。そして三等陸尉になれたのだ。
その卒業式にだ。二人は彼のところに来た。彼はさらに逞しくなりそこに精悍さまで備えていた。誰がどう見ても立派な自衛官であった。
二人の方が階級が下になった。それでまずは彼等の方から一礼したのであった。今はスーツなので敬礼はしない。だから一礼だったのだ。
「こんにちは」
「お疲れ様です」
「有り難うございます」
尾久三尉もまた敬礼して応えてきた。
「よく来てくれましたね」
「ええ、お祝いに来ました」
三曹が微笑んで彼に告げた。
「それでなのですが」
「ですがここまでっていうのか」
「ああ、それはもうちゃんと言ってますから」
二曹は笑顔で彼に話した。
「安心して下さい」
「そうですか。それでは」
「それよりもです」
二曹は今度は自分から言ってきた。
「これからがはじまりですから」
「そうですね。三尉になってからが本当にですね」
「大変だと思います。ですが」
そして次に言う言葉は、だった。
「この久留米でのことを思い出してそれで頑張って下さい」
「この一年有り難うございました」
尾久三尉は笑顔で言ってきた。
「おかげで無事卒業することができました」
「いえ、それは」
「私達がしたことではありません」
二曹だけでなく三曹も言うのであった。
「あくまで三尉がです」
「成し遂げられたことです」
「そう言ってくれるんですか」
三尉にとってはその言葉が滲みた。心がわかったからだ。
そうしてだ。二人はその彼にだ。今度はこう告げてきたのだ。
「ではまた何処かで御会いした時に」
「宜しく御願いします」
「はい、こちらこそ」
三尉も笑顔で応えるのであった。
「宜しく御願いします」
彼は最後にまた敬礼をした。陸上自衛隊のその幅の広い敬礼をしてそのうえで目から熱いものを流していた。そのうえでの敬礼であった。
彼を見送ってから地連の事務所に帰る。するとそこにはあの三尉がいた。彼は既に二尉になっていた。
その彼がだ。笑顔で二人に言ってきたのだ。
「お帰りなさい」
「どうもです」
「今帰りました」
こうその二尉に答える二人だった。
「久留米はどうでしたか?」
「藤井フミヤの名残はありませんでしたよ」
三曹が笑って話してきた。
「それは」
「ラーメンはどうでしたか?」
「あっ、そうでした」
「そうだよな」
二曹もここで言う。実は二人共それは忘れていたのだった。
「久留米っていったらラーメンだった」
「そうでしたよね」
「それは忘れていたのですか」
「まあ今度機会があれば」
「その時に」
「幹部候補生学校に入れば食べられますけれど」
二尉は笑いながらこんなことを述べてきた。
「どうですか、それは」
「いえ、それは」
「遠慮します」
二人の返答はここでは完全に一致した。
「幹部になれば面倒ですから」
「今のままでいいです」
「そうですか。じゃあいいですけれどね」
二尉もそれ以上は聞こうとはしなかった。そうしてであった。
話を変えてきた。久留米から今の話だ。
「それで、ですけれど」
「はい」
「今度は何ですか?」
「満足されてますね、二人共」
二人のその表情を見ての言葉だった。
「今かなり」
「ええ、それは」
「その通りです」
今のその問いにはすぐにこう返すことができた二人だった。
「合格してもらった人が無事幹部候補生学校を卒業してくれて」
「何よりです」
「そうですね、本当に」
二尉はこう言ってまた笑った。
「嬉しいやらほっとしたやらですね」
「ええ、本当に」
「かなり嬉しいです」
「どうですか?この仕事は」
そしてこうも問うてきたのであった。
「いいですか?」
「ええ、心からそう思えます」
「今は」
「御二人を呼んで正解でしたね」
二尉は二人の今の言葉を聞いてこれ以上になく明るい笑顔になって述べた。
「そう思います」
二人もこれ以上になく明るい笑顔で応えた。今二人は地連の仕事に誇りと喜びを感じていた。それは最初はとても感じるとは思えないものであった。
地連のおじさん 完
2010・3・6
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