先輩の傷
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第八章
由紀は少しずつだが慎との距離が自然に縮まっていくのを感じた、そして遂にだった。
慎がだ、また彼の方から言ってきた。
まずは自分に何があったのか、そしてそれからどうなってきているのか。このことを全て話してそれからだった。
由紀に対してだ、こう言ったのだった。
「こんな俺でもいいか」
「えっ、それってつまり」
「何とかな」
前を向いているが少し俯き加減になって恥ずかしそうにだ、慎は由紀に言った。
「あれから随分経ったしあんたと一緒にいてな」
「それで、ですか」
「何か俺もな」
今度は顔を上げて言った。
「あんたとこれからも一緒にいたいって思えてきたんだよ」
「じゃあこれからもですね」
「一緒にこうして歩いてな」
それに、というのだった。慎は。
「他の場所も行こうか」
「通学路以外も」
「そうしないか?喫茶店とか行ってな」
「喜んで」
由紀は慎に笑顔で返した、それもすぐに。
「そうさせて頂きます」
「そうか、じゃあこれからもな」
「宜しくお願いします」
「待たせて悪かったな」
「いいですよ、だって先輩辛かったんですよね」
「ずっとな」
このことは否定出来なかった、それでだ。慎はこのことは苦い顔と声で言った。
「そうだったよ」
「それならです」
「仕方ないって言ってくれるのか?」
「私は先輩ご自身でないから詳しくはわからないですけれど」
それでもというのだ、由紀は慎に話した。
「先輩も辛かったですよね」
「だからか」
「はい、心が癒されるのに時間もかかりますから」
由紀は慎に言葉を選びながら話していった。
「当然のことです」
「そう言ってくれるんだな」
「そう思います、私は」
「悪いな、本当に」
慎は由紀に申し訳なさそうに言った。
「随分待たせた」
「待ってませんから、楽しんでました」
「俺と一緒にいることか」
「そうでした、ですから」
それで、というのだ。
「これからも一緒にいましょう」
「そういうことか」
「そうです、私はもうはじめていたって感じです」
「それで俺もはじめたか」
「そうなると思います」
「そうなんだな、じゃあな」
慎は由紀とここまで話してだ、そのうえで。
由紀に顔を向けてだ、微笑んで言った。
「これから宜しくな」
「はい、こちらこそ」
由紀も慎に顔を向けて微笑んで返した、慎の微笑みはこれ以上はないまでに穏やかで優しいものだと感じながら。
先輩の傷 完
2014・9・21
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