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先輩の傷

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第五章

 その話はだ、こうしたものだった。
「可哀想だったな」
「あんな奴好きになったばかりにな」
「あそこまでするおことなかっただろ、あいつ」
「板倉の気持ちも考えろよ」
 男子生徒の声だった、彼等は苦い声で話していた。
「板倉の告白の仕方が悪い?」
「逃げてその後皆の前で泣くとかな」
「そんなことするなよ、一人で泣けよ」
「それ位嫌でもな」
「その泣いた理由もな」
「あいつがゴリラみたいだったとかな」
 彼の外見が好みではなかったというのだ。
「外見だけで判断するなよ」
「しかもまた告白しようとしたらな」
「また逃げてな」
「板倉に恥かかせ過ぎだろ」
「おまけに女友達全員でその時言い回ってな」
「振るなら振るだけにしろ」
「それだけで終われよ」
 それ以上はするなというのだ。
「相手を傷つけるな」
「板倉が可哀想だろ」
「お陰であいつ女の子避ける様になったしな」
「酷いことしやがって」
「あいつあれで繊細なんだぞ」
「あの時滅茶苦茶傷ついたんだぜ」
「今だってな」
 今の慎の話もするのだった。
「あいつトラウマになってるからな」
「女の子に声かけられてもな」
「碌に話さないからな」
「同じ学年の女の子のかなりの数から散々言われたしな」
「下校の時に校門で待ち伏せされて聞こえる様に陰口言われたりな」
「くすくすと笑われたりな」
「そりゃ傷つくぜ、俺だったら登校拒否するぜ」
「転校するよ、俺」
 この話を聞いたのだった、そして。
 友人達もだ、暫くしてからだった。由紀に言うのだった。
「板倉先輩ね」
「あの人一年の時に物凄く酷い目に逢ったみたいよ」
「告白して振られてね」
「そのことが笑いものにされて」
「色々な人からそのこと言われて」
「一時期物凄く暗かったそうよ」
「そのお話ね」
 由紀は暗い顔でだ、友人達に言葉を返した。
「ちらっと聞いたけれど」
「そのせいでらしいのよ」
「女の子避けてるらしいのよ」
「トラウマになっていて」
「それでらしいのよ」
「そうみたいね」
「だからね、由紀もね」
「そうした人だからね」
 友人達はその由紀にこう言った。
「あまり一緒にいない方がいいんじゃない?」
「先輩女の子避けてるし」
「だからね」
「あんたもね」
「私と一緒にいたら」
 登下校の時にだ、由紀も彼女達の言葉を受けて深く考えて言った。
「その時のこと思い出して」
「余計に傷つくんじゃない?」
「先輩あの時本当に酷い目に遭ったみたいだから」
「だからね」
「先輩のことを考えてね」
「どうしようかしら」
 友人達の言葉を聞いてだ、そしてだった。
 由紀は慎のことを考えた、これまでは自分のことだけを考えていたがだ。
 彼の心、その傷のことを考えるとどうしてもだった、彼女にしても。
 彼とは一緒にいられなかった、その傷のことを常に意識してしまうことを思うと。だがそう思うと共にだった。
 自分のことも考えてだ、こう言うのだった。
「どうすればいいのかしら」
「迷うわよね、本当に」
「そのことはね」
「実際にね」
「あんた先輩好きだしね」
「一緒にいたいわよね」
「本音はね」
 そうだとだ、こう言うのだった。 
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