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地連のおじさん

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第一章


第一章

                     地連のおじさん
 土井正弘二等海曹は教育隊の教官だった。陸上自衛隊にいる。
 小柄だが身体つきはがっしりとしている。かなりの筋肉質だ。
 そして愛嬌のある顔をしている。それは性格を出しているものだった。
 二曹はよく教育隊の新米隊員達を怒った。だがその怒り方はさっぱりとしたものでありそのうえ普段は極めて温厚で心優しかった。その為多くの隊員達から慕われていた。
「いい人だよな」
「そうだよな」
 この評価は殆どの者が持っている評価だった。
「ああいう人がいてくれるからな」
「気が和むよな」
「本当にな」
 自衛隊の生活は確かに辛い。訓練も厳しい。しかしこうした教官がいてくれているおかげで。誰もがその中で耐えてこられた。
 二曹はそうした人だった。そして隊員達が教育課程を終えてそのうえで旅立つその時にもだ。まず最初に笑顔で見送るのだった。
「元気でな」
 こう笑顔で告げる。隊員の中にも色々といる。その中には教育隊のこれまでのことを思い出してだ。涙する者すらいた。感慨がそうさせたのだ。
 二曹はその隊員のところに来てだ。温厚な声で告げるのだった。
「部隊でも頑張るようにな」
「はい・・・・・・」 
 その隊員は涙に濡れた顔で応える。二曹はその彼の肩を叩いて見送る。彼はそうした人間だった。
 そしてその彼がだ。ある日この辞令を受けたのだ。
「地練ですか」
「そうだ。行ってくれるか?」
 こう教育隊の総監に告げられたのである。
「四月からな」
「私が地練ですか」
 二曹はそれを聞いてかなり困惑した顔になっていた。その顔での言葉だった。
「それはまた」
「いや、向こうから是非にと言ってきたんだよ」
「私を。是非にですか」
「是非君に来て欲しいとな」
 向こうから声があったというのである。
「そうした声があってね」
「私にですか」
「どうだね?向こうは君を必要としているんだ」
 こうしたケースでの決まり文句である。しかしそれが効果があるのも事実だった。
 そして二曹もだ。それを言われると悪い気がしなかった。それで頷いたのであった。
「わかりました」
「行ってくれるか」
「どうしてそういう声が来たのかはわからないですが」
 この辺りは本当に自覚がなかった、だがそれでもであった。
「行かせてもらいます」
「よし、では決まりだな」 
 総監も彼のその言葉を受けて会心の笑みになった。
「行ってもらう、これからな」
「やらせてもらいます」
 敬礼と共に応える。こうして彼は自衛隊の地方連絡部に入ることになった。そこにスーツを着て行くとだった。いきなり教育隊で教えていた人間に会った。彼は陸自の制服を着ていて階級は三曹だった。二年で三曹になれる曹候補学生であったのだ。名前を高木杜道という。まず彼がいた。
「あれ、土井二曹ですか?」
「御前も地連にいたのか?」
「はい、実は」
「御前が俺呼んだのじゃないよな」
 二曹は彼に対して思わずこう言ってしまった。
「それは違うよな」
「えっ、私がですか?」
 言われたその若い三曹はまずはきょとんとなった。
「違いますよ」
「ああ、御前じゃないのか」
「はい、私もスカウトされまして」
 彼もだというのである。
「それで今回こっちに配属に」
「じゃあ一緒か」
「ああ、こっちの幹部がですね」
 話が本題に入った。
「呼んだらしいんですよ」
「幹部が!?」
「ええ、幹部が」
 自衛隊では将校のことを幹部と呼ぶ。軍隊ではないことになっているからである。
 
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