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戦国異伝

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第百九十三話 高天神からその一

                  第百九十三話  高天神から
 信玄自ら率いる武田の六万の軍勢はすぐに徳川の領内に侵攻して来た、そうしてその勢いはまさしく火であった。
 浜松の家康の下にだ、彼にとって思わしくない報が次々に届いていた。
「そうか、国境はか」
「はい、何処も武田の手に陥ちております」
「その勢いは止まりませぬ」
「そして、です」
「そのままです」
 報をする家臣達の言葉も辛い感じであった。
「高天神城に迫っております」
「既に牛窪、二連木は武田に取られています」
「そして吉田城にも迫り」
「長篠も目指しております」
「左様か」
 ここまで聞いてだった、家康はというと。
 難しい顔をしてだ、そうして言うのだった。
「このままでは高天神は陥ちる」
「あの城は、ですか」
「そうなりますか」
「あの城は要衝じゃ」
 それで、というのだ。
「武田に奪われるのは惜しい、しかしな」
「我等には、ですな」
「あの城を守る力は」
「残念じゃがない」
 家康もまあ苦い声で言った。
「とてもな、しかしな」
「それでも、ですな」
「ここは」
「武田を退けねばならぬ」
 このことは絶対だというのだ。
「さもなければ我等が滅ぶ」
「ですな、それは」
「どうしてもですな」
「そうじゃ、だからここはな」
 どうすべきかというのだ。
「間も無く織田家の大軍が来てくれる」
「その織田家の大軍と合流し」
「そうしてですな」
「そのうえで戦う」
 そうするというのだ。
「その為には高天神城もな」
「武田の手にですか」
「渡すこともですか」
「致し方ない、城の者には開城も許すと伝えよ」
 その高天神城を守る者達にというのだ。
「いざと言う時はな、しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
「牛窪、二連木にも武田が来ておるのじゃな」
 家康は家臣達にこのことを強く問うた。
「左様じゃな」
「はい、そうです」
「既に」
「では長篠城は危うい」
 その二つの場所に武田の兵が来ているのなら、というのだ。
「それもかなりな」
「ではどうされますか」
「ここは」
「長篠城は死守せよと伝えよ」
 この城にはだ、そうせよというのだ。
「高天神を渡してもあの城は渡せぬ」
「あそこが陥ちれば、ですか」
「危ういからこそ」
「そうじゃ、あそこから武田の六万の大軍が来る」
 そうなるからだというのだ。
「そうなればこの浜松も岡崎もな」
「まさに、ですか」
「その武田に」
「そうじゃ、一気に潰される」
 こう確信しているからこそなのだ。
「だからこそじゃ」
「長篠城だけは、ですか」
「耐えてもらいますか」
「奥平殿に」
「あの者なら踏ん張ってくれる」
 そして守り切ってくれるというのだ。 
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