水車の側で
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第四章
第四章
「とりあえず寝かしています」
「そうか」
「はい、今のところ命に別状はありません」
「すぐに手当てをしろ」
彼はすぐにこう命じた。
「いいな、すぐにだ」
「わかりました」
報告をする兵士もこう答えたのだった。
「それでは」
「他に負傷者はいるか」
「サウザンドリバー二等兵が戦死です」
戦死者の報告もあがった。
「頭を撃たれました」
「そうか、わかった」
ピットは苦い顔になった。そのうえで答える。
彼は水車の窓から敵兵を見ながら指揮を執っている。その窓のところにもだ。銃弾が次から次に来る。ドイツ軍の攻撃は激しい。
「他に戦死者は」
「スモールファースト一等兵が戦死です」
また報告があがった。
「今死にました」
「そうか、彼もか」
ピットの声が沈痛なものになる。しかしだった。
だがそれでもだ。敵の攻撃は続く。何時しか水車を囲もうとしていた。
ピットもそれを見た。そうしてであった。今度は部下達にこう述べた。
「いいか、今度はだ」
「今度は?」
「今度はといいますと」
「敵は今まで手榴弾を使ってきていないな」
銃撃だけである。彼が今言うのはこのことだった。
「そうだな」
「そういえばそうですね」
「確かに」
部下の兵士達も言われて気付いた。
「それはないですね」
「手榴弾を使えば」
どうなるかだった。兵達が言う。
「それこそこんな水車なんか一発ですけれどね」
「一撃で吹き飛びますけれど」
「それはしてきませんね」
「ないな」
そこからだ。ピットはこの結論を出した。
「連中手榴弾は持っていないな」
「切れたんですかね、手榴弾」
「向こうは」
「連中はもう弾薬も残り少ない」
装備自体がだ。困窮してきていたのだ。さしものドイツ軍も西部と東部、それにイタリアで敗北が続いてだ。備蓄がなくなってきていたのだ。
「だからだな」
「手榴弾がない」
「そういうことですね」
「あればすぐに使っている」
こうも述べるピットだった。その間にも銃撃は来る。丁度今一発の銃弾が彼の目の前をかすめた。迂闊に窓から顔を出すこともできない。
だがそれに怯まずだ。彼は言うのだった。
「それならな」
「はい、それなら」
「こっちがですね」
「そうだ。散開しているがな」
敵がというのだ。
「それでもだ。手榴弾があればな」
「使う」
「それですね」
「あるものは何でも使う」
これが軍の鉄則だった。
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