戦国異伝
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第百九十二話 大返しその十一
「急がねばな」
「岐阜に入り、ですな」
「そこから尾張に進みな」
そうして、というのだ。
「三河に入るぞ」
「畏まりました」
「そで岐阜じゃが」
「平手殿が守っておられます」
織田家の筆頭家老である彼が、というのだ。
「そして多くの兵糧や武具も集めておられますので」
「では何かあってもな」
「はい、戦えます」
それが出来るというのだ。
「ご安心下さい」
「わかった、ではな」
「そうしてです」
さらに言う帰蝶だった。
「上杉ですが」
「あちらはどうじゃ。
「越中に入っております」
「能登にはまだか」
「はい、来ていないとのことです」
「左様か、まあ妥当じゃな」
春日山から出たという日から数えてだ。
「その頃じゃな」
「左様ですか」
「うむ、しかし上杉は下がるな」
「下がるとは」
「我等が安土から岐阜に入るとな」
そうすれば、というのだ。
「我等と武田との戦の結果次第では我等は信濃から越後に攻め入る」
「上杉の本国であるあの国に」
「それを考えてじゃ」
上杉は、というのだ。
「そうしてくる」
「では」
「うむ、出来るだけ早く岐阜に向かう」
「ではこの安土も」
「すぐに発つ」
休む間もなく、というのだ。
「そうする」
「わかりました、それでは」
「また戻る」
戦の後で、と言う信長だった。
「安土での宴の用意をしておれ」
「そして茶会もですね」
「宴と茶会はこれまでにない大きなものになるぞ」
信長は帰蝶に不敵な笑みさえ浮かべて言った。
「その用意をしておれ」
「はい、さすれば」
帰蝶も笑顔で応える、そうしてだった。
信長は安土に着いても軍の足を遅めることなくさらにだった、岐阜に向かった。その岐阜に着いた時にだった。
ようやく兵を休ませた、そのうえで。
岐阜城においてだ、家臣達にこう言った。
「まずは武田じゃ」
「あの家をですね」
「叩くのですね」
「あの家を倒してじゃ」
そして、というのだ。
「それから上杉じゃ」
「一番の強敵をまず、ですな」
ここでこう言ったのは平手だった。
「倒すのですな」
「そうじゃ、そしてその後で上杉じゃ」
次は彼等だというのだ。
「北条はその後じゃ」
「そうされますか」
「爺、都で勘十郎が兵糧や武具を集めてじゃ」
「安土を経てですな」
「この岐阜にも来る」
それで、というのだ。
「軍への手配は頼むぞ」
「お任せ下さい」
平手も畏まって信長に応える。
「さすれば」
「そういうことでな、今は兵を集めておるが」
「二日程すれば」
「尾張に入る」
織田家の本国とも言っていいその国にというのだ。
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