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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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SAO編 Start my engine in Aincrad
Chapter-4 シリカとピナ
  Story4-8 理不尽な世界

第3者side



シャオンは、橋に一歩踏み出していた。






もう、連中は目の前だ。

それを見たシリカは、思わずもう一度声を上げた。




「シャオンさんっ!!!」


それは、シリカに似合わぬ大声だった。

一番後ろにいたロザリアにまで届いていた。









――その名前、どこかで聞いたことがある


この時、男達はそのことが頭を過ぎった。

時間にして数秒。

直ぐに、思い出す。



「シャオン……?」

「あの片手剣、青いコート……」

それが合図だ。

「まさか、『蒼の剣閃』の……?」

完全に思い出した1人の男が急激に顔を蒼白させ、数歩あとずさった。

「や、やばいよ、ロザリアさん。こいつ、ビーターの、攻略組だ……」

男の言葉を聞いたメンバーの顔が一様に強張った。驚愕したのは、シリカも同じだ。

「俺はさ、命を侮辱するやつには容赦しない主義でね。
仮想世界ならなんでもありとか言う言葉にイラッときてさ、今スゲー怒ってるよ。


キリト、すぐ終わらせてくる」




シャオンはゆっくりと歩み寄りながらそう言う。


「な、キリトだとッ!」

「盾なしの片手剣……『黒の剣士』……」

「なんで、ここに攻略組が!?しかも、ソロで前線はってる攻略組が2人もいるんだ!」



後ろで控えているキリトも、ソロで最前線に戦線を置いている人。

こんな層とは比べ物にならないほどの凶悪なモンスターが蔓延っている戦場を根城にしている。











シリカは、あっけにとられて、前に立っているシャオンの決して大きくない背中を見つめる。

今までの戦い方を見ても相当な高レベルプレイヤーだとは思っていた。

でも、最前線で未踏破の迷宮に挑みボスモンスターを次々と倒していく攻略組。

その真のトップ剣士だとは夢にも思わなかった。


――キリトさんもシャオンさんと同等のレベルの最前線の攻略組?


でも、彼ら攻略組の力はSAO攻略にのみ注がれ中層のフロアには下りてくること無いと聞いていたのに












この事には、ロザリアもたっぷり数秒間ぽかんと口を開けていた。

随分滑稽な姿に溜飲下がる想いだ。

だが、直ぐに我に返ったように甲高い声で喚いていた。

「馬鹿いっちゃいけないよ!こ、攻略組がこんな所をウロウロしているわけないじゃない!それに、あの『蒼の剣閃』?はっ、ありえないね!どうせ、名前をかたってびびらせようってコスプレ野郎に決まっている!
それに、万が一、本物だったとしてもこっちは24人もいる。この人数なら、蒼だろうが黒だろうが余裕だわよ!
おまけに、あんなにニコニコしてるようなやつが怒ったって全然痛くないわよ!」

流石は腐ってもギルドのボスの言葉。

その声に勢いづいたようにオレンジプレイヤーの先頭に立つ大柄な斧使いも叫んだ。

「そ、そうだ!攻略組ならすげえ金とかアイテムとか持ってる!オイシイ獲物じぇねえか!!」

口々に同意の言葉を喚きながら賊たちは一斉抜刀した。




「キリトさん、やっぱり無理ですよ!人数がっ!シャオンさんを、助けて逃げようよっ!」

シリカは、懐にあるクリスタルを握り締めながら叫ぶ。

ロザリアの言うとおり、いくら強くても、数の暴力という言葉もある。

物量で押し切られてしまえば、2人でも勝てないと思ったのだ。


だが、キリトはただ、大丈夫とだけ言う。


シャオンも脚を止めず、そのままの足取りで止まらない。

賊の連中は皆がソードスキルを発動。

猛り狂った笑みを浮かべ我先にと走り、短い橋の上で……




「オラァァァァァッ!!!!!!」

「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

「くたばれやぁぁぁぁ!!!!!!」

その怒声と共に、シャオンの体を切りつけた。

その数恐らく一回で10連撃以上。

「だめぇぇぇぇぇ!!!!!!シャオンさぁぁぁぁん!!!!!!!」

シリカは思わず両手で顔を覆いながら絶叫をした。













「あのさあ、俺を殺せると本気で思ってんの?

やめた方がいいよ、絶対無理だから」

シャオンの声が響く。

キリトがシリカの肩を叩いて目の前の光景を見せた。

「あ、あれっ?どういうこと?シャオンさんはあの人たちの攻撃を受けてたんじゃ……」

シリカはシャオンが男たちから離れたところにいることに気づいた。

それは男達も同様だった。

そしてシャオンが指を鳴らすと

ボキッ バキバキ パリーン


24人の武器、それらが全てへし折れ、硝子片となって消え去った。

「な、なにしやがった?」

一番後ろにいた男はわからない。

本当にただ、ぶれただけにしか見えなかった。

ロザリアも異常な光景にただ絶句していた。

シャオンは剣を鞘にしまいながらいう。

「武器破壊だよ。あんたらの武器をへし折ったんだ。

10秒で大体400。それがあんたらが与える俺へのダメージ。 で、武器破壊でさらに威力は落ちる。そして俺のレベルが80、HPが15990。

あと、俺には戦闘時自動回復スキルがついている。それが自動回復で10秒で450。
あんたらが与えられるダメージは300前後、武器を変えたとしてもな。
つまり、永遠に俺は殺れない。それに俺は、あんたらみたいなのをずっと相手にするつもりはない。
あと、そこにいるキリトは78だ。
勝てる確率は無いに等しいぜ」



シャオンのその宣言に、男達は戦慄を覚えた。

それは無限ループ。

そして、何より、今の見えない攻撃もそうだ。

「ばかな、どうやって武器を壊したってんだ」

男達の一人、サブリーダーらしき斧使いがかすれた声でそう呟く。

「剣でやった。俺の普段のAGIが100だから、お前らの目では認識できなかったんだろう。
多分、キリトでさえもちゃんとは見えてないだろうな」

「目にうつらねえ、攻撃?」

「そんな、そんなのアリかよ……無茶苦茶じゃねえか、反則だろ?」

「あんたら、いい加減学習したらどうなんだ?」

シャオンは、男達の顔をみる。

「ここは現実とは違う仮想世界。相手の数値が上がれば上がるほどに実力の差は縮まらない。それがレベル制のMMOなんだ。理不尽な世界だ。
その世界で、理不尽な事をしてきたお前らには似合いの結末だ。
お前らが軽く見てきたたくさんの命の重みを学んできなよ」

その声は、怒気にも似たものをふくんでいた。


後ろでプレイヤーの影に隠れ脱出しようとした男がいたが。

「逃がすと思うか?」

ヒタリ、とまるで首筋に刃を突きつけられているような感覚が襲った。

いつの間にか、キリトがいたのだ。

「化物……」





そのままキリトは、シャオンの傍にまで戻り、完全に包囲した。

最早、何処にも逃げられないと悟ったのだろう。

怒気・殺気が入り混じっていた男達が静かになっていった。



「チッ!」

戦況は絶望だと悟ったロザリアは素早くクリスタルを取り出すと

「転「無駄だ、と言ったはずなんだけどな」っ!!!!!」

ロザリアの転移結晶をシャオンが投擲アイテムで弾いた。
それと同時にロザリアのカールさせた赤髪の間を縫って背後から剣の切っ先が出てきた。

その刃はロザリアの目線上。

寒気が一気に体を支配し、動けない。

間違いなく、この男は何mも離れたところにいたのに、一瞬でその距離を縮めた。

先ほどと同じ、見えない攻撃だ。


シャオンはロザリアを掴みあげる。

「は、はなせっ!何をする気だ畜生!!」

その場にいたまま、ロザリアを男達の中心へと放った。








シャオンは、ロザリアを中心へとつれて言ったと同時に

「本題に入ろうか」

懐から回廊結晶を取り出した。

「これは、依頼人が全財産を、ギルドの全ての金をはたいて買った回廊結晶。行き先はもちろん牢獄。
全員入ってもらおうか。それが依頼の内容だからな」

「断る、といったら?」

強気な姿勢を変えない男もいたが、直ぐに後悔することになる。

この瞬間寒気が一気に体中を貫いた感覚に見舞われていた。

シャオンの表情を見て……



「言ったろ?俺はお前らみたいなやつが嫌いだって。断るんだったら、俺はお前らを容赦なく切り刻む。お前らが殺してきた人数分をな」

その言葉は刃を宿した言葉だった。

「…………」

もうさっきの様な強気な言葉が出ない。

その言葉に殺気を、冷徹な殺意を感じるからだ。

「それとも、逃げてみるか?俺たちからな」

シャオンはキリトの方をみる。

彼も剣を構えた。

その威圧感。




男達は、圧倒的な実力差の前に

「くそっ……」

「ぐっ……」

項垂れる。

皆、観念したようだ。

コリドー・オープンの言葉でゲートが開き、青い光の領域が出現する。

そして、悪態をつきながら24人が入っていった。

残ったのはロザリア1人。

だが、まだ強気な姿勢は崩していない。

弱者だと感じても、まだ抗う最後の気力は残っていたようだ。

「やれるもんならやってみなさいよ!グリーンのアタシを傷つければアンタらがオレンジに!」

シャオンはロザリアの目の前から一瞬にして消え、再び首筋に切っ先を当てた。

「なっ……どうやって……」

「だから言ったろ。俺の今のAGIは100。
それに今はパーティを組んではいるけど、俺は元々ソロ。オレンジになった所で、それを解除するクエストをこなすのは問題ないからお前が勢いづいても無駄」

ロザリアの首筋と切っ先、その間5cm。


ロザリアは、体の芯から震えていた。

今まで死の感覚なんて味わった事が無い。

味あわせた事はあっても自分自身には無かった。


そして、自分の体がどうなっているのかわからないほどに震える。

「ヒッ………」

ロザリアは突っ立っているだけになっていた。

シャオンは斬る事はせず、そのままロザリアを黒鉄宮に通ずるゲートに放り込んだ。












「あっ……」

シリカは、腰が抜けてしまったのか、立ち上がれず、ただ震えていた。

シャオンが傍に近づけば近づくほど震えているようにも見える。

「悪い、怖がらせたな」

シャオンはそう判断した。

怒っていたからという理由もあるが、普段陽気な性格のシャオンがここまでキレることは珍しい。

そんな自分を見て、シリカは『怯えてしまった、怖がらせてしまった』とシャオンは思った。

だが、違った。

「ち、違いますっ……その、あ、足が動かないんです……」


シリカは必死にシャオンの言葉を否定。

だけれども、動けないし、立てない。


キリトが軽く笑って右手を差し出してきた。

その手を握り、シリカは立ち上がることが出来た。


「なんか、ホントに悪いな、シリカ。おとりにするようになっちゃって。
本当は、直ぐに言うつもりだったんだ。でも、シリカに怖がられてしまうと思っていえなかった」

「俺も………黙っててごめん」

シャオンたちは謝罪を行っていた。

「いえ、そんな、大丈夫です。だって、だって……」

シリカは、全員を見て

「3人のおかげで私も、ピナも…」

笑顔で、必死に笑顔を作って……でも

「あっ……」

脚から崩れ落ちる。



シャオンが反対側からも支えた。

「街まで送ってあげるよ」

シャオンとキリトはシリカを連れ、この思い出の丘から出た。
















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆















第35層の風見鶏亭。



シリカは、言いたい事。

凄くあったけれど、言葉が出ない。

まるで喉に小石が詰まったかのように言葉が出ないのだ。

そこは、シャオンが借りていた部屋。

その部屋の窓からはもう夕陽が差し込んでいた。

その光の中、二人を見てシリカは漸く、震えるような声で言った。

「みなさん、やっぱりいっちゃうんですか?」

2人は暫く沈黙。

シャオンが先に動いた。

「ああ、結構前線から離れちゃったからな。直ぐに戻らないと……」

キリトも頷く。

「そうですよね……」

シリカは残念そうに呟いた。



『自分を連れて行って欲しい』と言う懇願。

口に出す事が出来なかった。




シャオンのレベルが80

キリトのレベルが78


そしてシリカのレベルが46.

その差は、低いキリトとで32。

残酷までの明確な差だ。

2人の戦場についていってもシリカなど一瞬でモンスターに殺されてしまうだろう。

それに2人に迷惑をかけてしまうのも、耐えられない。

同じゲームなのに、同じゲームにログインしているというのに、現実世界以上に高く分厚い壁があって到達できない。


「あ、あたしは……」


シリカはそこでぎゅっと唇を噛み、溢れようとする気持ちを必死に押しとどめた。

それは、2つの涙の形へと姿を変え、ぽろりとこぼれた。

その時だ。

「レベルなんて、端から見ればただの数字だって」

シャオンの声が。

続いてキリトの声。

「この世界での強さは単なるデータに過ぎない。そんなものよりもっと大事なものがたくさんある。だから、次は現実世界で会おうよ。そうしたら、きっとまた同じように友達になれるさ」

「だな」


2人はとても温かい。

――シャオンさんは頼りがいのある幼馴染みで、キリトさんはお兄さん。

幻想の世界で出会ったこんな偶然を大切にしたい

シリカは旅の間ずっとそう思っていた。

「はい。きっと、きっと……」

シリカは心から笑顔になれた。

それを確認した二人も、笑顔を。

「じゃあ、早く君の友達を呼び戻してあげなよ」

「はい!」

シリカは頷き、左手を振ってメインウインドウを呼び出した。

アイテム欄をスクロールし、ピナの心を実体化させる。

ウインドウ表面に浮かび上がった水色の羽根を備え付けのテーブル上に横たえ、プネウマの花も呼び出す。

「その花の中に溜まっている雫。それが蘇生の要。
それを心に振り掛けるんだ。それで、魂は、ピナは戻ってくるよ」

シャオンが、傍で見ながらそう言う。

「分かりました」

水色の心。ピナの羽を見つめながら、シリカは、心の中で囁きかけた。

『ピナ、いっぱい、いっぱいおはなししてあげるからね?今日の凄い冒険の話を、ピナを助けてくれて、あたしを助けてくれた……』

また、目に涙が溜まる。


そして、それが目から弾けて

『あたしのたった1日だけの、大好きなお兄ちゃんとたった1日だけの幼馴染の事を……』

シリカは、そのまま右手の花をそっと、羽根に向かって傾けた。

暖かい光で、部屋がつつまれた。















Story4-8 END 
 

 
後書き
AGI100がどのくらい高いのかは皆さんのご想像にお任せします。

まぁ、間違いなく、キリトより速いのは確かです。



さあ、Chapter-4が終わりました。シリカとオリキャラの絡み、どうでしたか?
原作ブレイクは最小限にしているつもりですが、もしかしたらかなりあるかも…………


てなわけで、次回はChapter-5に入ります。

シャオンやフローラの活躍、見逃さないでくださいね。

じゃあ……

フローラ「次回も、私たちの冒険に!」

シャオン「ひとっ走り……付き合えよな♪」
 
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