FOOLのアルカニスト
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新しい力
前書き
ペルソナは本作オリジナルのものと原作準拠のものがあります。特にFOOLペルソナと今回解禁した5つのペルソナは主人公のメインであり特別なペルソナですので、スキルや特殊能力を追加していたりします。また、召喚時の科白は原作のものそのままだったり、多少改変してあったりします。
「ようこそ、ベルベットルームへ。お久しぶりですな、稀なるお客人よ」
どうにか高速召喚を成功させ、意識を失ったはずの透真を迎えたのは、聞き覚えのある声だった。周囲を見渡せば、大海を思わせる幻想的な蒼が部屋内を染め上げ、荘厳なピアノと歌声が耳を震わせる。そして、何より目の前にいる特徴的な人物がここがどこかを明瞭に理解させた。
「イゴール……ということは、ここはベルベットルームか。確かに1年ぶりになるから、久方ぶりといえばそうだが、別に来たくなかったわけじゃないぞ。来る事ができなかっただけで」
好意の申し出を受けておきながら、全然顔を見せていなかったことに気づき、透真はなんとなくばつが悪くなり、言い訳がましいことを言う。だが、まあそれはどうしようもないことではある。この1年、透真は雷鋼の課題という名の地獄にいたのだ。それをこなすのに必死で、他の事に気を回す余裕は皆無であったのだから。加えて言えば、雷鋼の目を逃れてベルベットルームへ来る事も不可能であったから、確かに仕方のないことかもしれない。
「いえいえ、別に責めているわけではありません。我等は求められれば、力をお貸ししますが、無理に使っていただく必要はないのですから」
「そうか、そう言ってもらえるなら助かる。そいや、今回はなんの用でここに?俺は来ようなんて思ってなかったんだから、呼んだのはそっちなんだろ?」
「ええ、今回お呼びだてしたのは他でもありません。貴方の新しい力についてです」
「新しい力?ペルソナの高速召喚のことか?あれは新しい力というよりは技術じゃないか?」
「ふふ、確かにペルソナの高速召喚は素晴らしい技術だと思いますが、違います。私が言っているのは、貴方に宿りし血の力についてです。ご存知ありませんかな?」
「宿りし血の力?おいおい、うちの家系は一般市民もいいところだぞ。精々、父方を遡ると寺社仏閣に連なるぐらいで、母方は農民の出らしいからな」
「いえ、元々宿っていたものではありません。後天的に得たものだと思われます」
「後天的に?血に宿るのにおかしくないか?そんなことありえるのか?」
「私も詳しくは知りません。ただ、私に分かるのは貴方に新しい力が備わったこと、そしてそれが宿りし血によるものだということぐらいしか。申し訳ありません」
「いや、分からないからって、あんたを責めるのは筋違いだ。すまない。
それで、新しい力とやらは説明してもらえるのか?」
「はい、そちらは問題ございません。簡単に言えば新しいペルソナでございます。前回の貴方様には不可能であったはずのペルソナが5つ程解禁されております。現在使用可能なのはこちらになります」
イゴールが手を差し出すとテーブルの上に一枚のカードが現れる。アルカナは『SWORD(剣)』、現在透真が持っていない小アルカナのペルソナだ。
「うん、おかしくないか?未だ『SWORD(剣)』は色を取り戻していなかったはずだ」
透真はそういって、懐から小アルカナが描かれた四枚のカードを取り出す。現実世界では、取り出すことはおろか触れることすらままならない不思議なカードだが、それが現在どのような状態にあるかぐらいは認識できる。そして、彼の記憶が確かなら、未だ『SWORD(剣)』は色を完全に取り戻していないはずだった。
実際、テーブルに広げられた4枚のカードの内、完全に色を取り戻しているのは、『聖杯(CUP)』だけだ。肝心の『SWORD(剣)』は前回よりも色を取り戻しているとはいえ、未だ半分ほどに過ぎない。
「ですから、新しい力と申しました。これは今まで貴方が持っていた力とは、根源を異にするものなのです」
「つまり、この新しいペルソナはその宿りし血によって、使用可能になったということか?」
「そのとおりでございます。お受け取り下さい、『SWORD(剣)』のペルソナ『タイラノスエタケ』にございます」
『俺は平季武』
『主より宝刀髭切の守護を任されし、百将に匹敵する弓の名手なり』
『写し身よ 俺とお前なら如何なる敵をも射殺そう』
勇猛な名乗りと共に透真の中へと消えていくペルソナ。それを見つめながら、透真は以前混乱の最中にあった。
「平?平氏?ここ最近で得たということは、卜部や雷鋼の糞爺つながりだと思ったんが、それなら源氏、ミナモトだろうし、さっぱり分からん。髭切は聞いたことあるが、なんだったか正確には覚えてなし……。ああ、こうも意味不明だとイラついてくるな」
「まあ、急いては事を仕損じると申します。別段害があるものではないと思いますし、今は新しい力が手に入ったと考えればよろしいかと」
苛々を爆発させた透真にイゴールが宥めるように言う。
「確かにそうだな。考えても分からないものを、考えてもしょうがないし、ここでぼやいていても始まらない。現実に戻ったら、改めて調べることにするわ。すまないな、イゴール」
「いえいえ、お気になさらずに。それでは本来の私の役割を果たすことに致しましょう」
「うん?まだこれ以上何かあるのか?」
「はい、どうやら少なからず成長されたご様子。新たなる『FOOL(愚者)』が貴方に力をかさんとしております」
「そっか、知らんうちに強くなったんだな俺。それで新しいペルソナをもらえるのか?」
「はい、心静かにそのままお待ち下さい」
イゴールはそう言うとどこからともなく携帯電話のようなものを取り出す。そして、おもむろにどこかへとかける。同時に透真を中心に魔法陣が描かれ、ピアノの音色と歌声が一変する。そして、何かが湧き出すような感覚と共に透真の目の前に何者かが現れる。
『オイラは戸隠で育った甲賀流の忍、猿飛佐助!』
『真田十勇士一の変幻自在の忍術で、お前の旅路を助けてやるよ。』
『全部オイラにまかしときな!!』
呼び出されたペルソナは、威勢のいい掛け声とともに透真の中へと溶けるように消える。
「今回のは両方とも威勢がいいな。まあ、ホテイもトウヤも魔法型だから、物理型はむしろありがたいんだが、なんというか脳筋臭い……」
「それらは貴方の力、どう使うかは貴方次第です。どのような力も、使う者次第でございます」
「そうだな……。これで用は終わりかい?」
「ええ、今回やるべきことはやり終えました。現世で、貴方の目覚めを待っている方もおられるようですし、そろそろお別れですな。次会うのは、貴方自らの意思でここを尋ねたときとなりましょう」
「ああ、世話になった。次は、自分の意思でここへくるさ」
「では、その時まで御機嫌よう」
遠ざかるイゴールの声と共に、透真は再び意識を失った。
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