魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第65話 聖王器ブランバルジェ
(………やはりそうなのか?)
桐谷との戦闘をしながらクレインは思う。
(冗談かと思っていたが自分の使っているデバイスがブランバルジェだとは本当に気が付いていないようだ………ならば相手にブランバルジェの使い方を学ばせる前に………!!)
その焦りが判断を鈍らせたのか、
(来る!!)
二刀に変え、攻撃をしてくるクレインの指の動きを桐谷は見逃さなかった。
動いた瞬間攻撃をパッと止め、バックステップする。その瞬間先程まで桐谷がいた場所に魔力の槍が現れていた。
『まるで結晶ね………』
「桐谷の言う通り、僅かな動きだけど何かを操作した後、出現した。……って事はやっぱり発動条件は何かを操作した時だな」
『けどそれだけじゃ、タイミングをずらされたりフェイントで出てこないなんて事もされそうだけど?』
「まあその可能性もある。………だが、クレインの奴何か勝負を焦っていないか?前みたいにここぞと言う場面しか使わなかった槍を絶え間なく使ってる」
『………本当だわ』
先程までの戦闘とは違い、絶え間なく魔力の槍が桐谷を襲う。
「くっ………!!」
もう既に桐谷は回避に専念しており、攻撃の手は完全に止まっていた。
「ちょこまかと逃げるね…!!」
「そう簡単にやられてたまるか!!青龍麟!!」
そんな中、左腕の拳から魔力弾を飛ばす。牽制程度の効果しかないが、相手を倒すことに集中しているクレインの虚を突いた。
「くっ!?だがそんな攻撃じゃ私を止められないよ?」
だが反撃を受けた事で攻撃に転じていたクレインの勢いが少し弱まった。
(………何故そんなに警戒している?)
セレンを使ってからクレインの戦い方は変わった。攻めに転じ、まるで早く桐谷を倒さなくていけないと言った焦りを感じる。
(先程言ったブランバルジェ、それほど奴にとって脅威なのか?)
実を言えばクレインに言われる前から桐谷には心当たりがあった。
(ジェイルに言われていた不具合、実際にセレンを使って感じていたことがある………)
それは以前以上に手に馴染むのだ。自分の思う通りに動く、体の一部のような感覚。
(確かセレンがおかしくなったのは………ヴィヴィオと初めて会った時か)
あの時からセレンが話す事は無くなった。
(もしかしてあの時から俺のデバイスは………)
クレインの様子も含めて桐谷はそう確信した。
(だが俺は使い方を全く知らない………)
問題はそこだった。クレインはブランバルジェの力を警戒しているが持っている本人は全く分からない。
(結局今出来る戦い方をするしかないか………)
そこまで考えて桐谷は考えるのを一旦止めた。再び魔力の槍を使って桐谷を襲い始めたのだ。
「何にせよ、今の状況はどうにかして打開しないとな………っ!?」
桐谷はそう呟きながらクレインの攻撃を避け続けるのだった………
「はあああ!!」
今度はラケーテンハンマーで加速力の付いた一撃を与えても相手はビクともしなかった。
「本当に硬いなコイツ………!!」
舌打ちをしながらそう呟く。
「だったらこれならどうだ!!」
そう言うと8つの鉄球を自分の目の前に設置し、ハンマーを構える。
「シュワルベフリーゲン!!」
そして相手のレーザーの迎撃を気にせず鉄球を次々に打ち出した。
敵は慌てる事無く羽で自分の身体を覆った。
「やっぱり威力が弱いか………」
鉄球は羽へ全て直撃したが、それでも厚く硬い羽を貫通することは出来なかった。
「だったら!!」
羽で体を隠している内にヴィータの威力のある攻撃をするためにグラーフアイゼンをギガントフォルムへと変えた。
「コメートフリーゲン!!」
自分の顔ほどの大きな鉄球をギガントフォルムで打った。
紅蓮の魔力を纏い、守りに入った厚い翼に直撃する。
「!?」
大きな身体が衝撃により浮かぶ。
「くそっ、浮かんだだけか………」
衝撃によって相手は少し浮いたが、翼の厚い装甲を貫くことは出来なかった。
ヴィータにとってもこの技は自身に負担がかかる。そう連発出来る技では無かった。
(くそっ、これが通らないとなると後は直接ぶっ叩くしかない………だけどあの弾幕の中を突っ切って、狭い室内で使うとなるとギガントフォルムでの攻撃じゃ………それにコメートフリーゲンであれじゃ………となるとやっぱり………)
そう思いながら再びレーザーの攻撃を回避する。
相手は翼を畳み、ミノムシの様に丸くなって発射していた。
「丸くなって完全に守りに入ってるのか………これ以上時間を掛けるわけには………」
タイムリミットも残り30分を既に切っている。脱出はもう絶望的だが、せめて、ゆりかごを止めなくてはならなかった。
そんな中、遠くからこちらに向かってくる音が聞こえてくる。
「くそっ………!!もう来たか!!」
倒してそのまま放置していたブラックサレナ達が修復し、ヴィータを追ってやって来たのだ。
最早、迷っている暇は無かった。
「邪魔される前に決めてやる!!」
大きな翼を持つ、ブラックサレナの正面の地面に立ち、グラーフアイゼンを構える。
「私のとっておきだ!!」
地面に着いたのは単純に部屋一杯までハンマーのヘッド部分を巨大化させるためだった。
「行くぞ、ツェアシュテールングスフォルム!!」
グラーフアイゼンを巨大化させ、更にドリルとブーストが付いたハンマーが現れた。
しかし………
「えっ………?」
相手はヴィータの目の前で翼を広げ、腹部に集束していたであろう魔力を既に発射できる状態でいた。
「!?ツェアシュ………!!」
ヴィータが攻撃をしようとした瞬間無情にも集束されたヴィータを飲み込むほどの巨大な砲撃が発射された………
そこは他の戦場と比べても異常な位静かであった。
「………」
「………」
斧を振り下ろした状態で固まる男と、斬られたまま固まる少女。
まるで世界の時が止まっているかと思えるほど、その場にいた誰もが動けずにいた。
(………綺麗)
その止まった時の中、なのはが、斧を振り下ろしたバルトの姿を見て、ふと思う。
無駄の無い振り下ろしだった。そして今までの技と比べてもただ振り下ろしているだけなのに、なのはにはとても異質に思えた。
「……ああっ………」
その止まった時は実に数秒。斬られたヴィヴィオに変化が見えた事で空気が変わった。
「ヴィヴィオ………ちゃん………」
「ほら、ゆっくり………」
イクトに肩を借り、ゆっくりとヴィヴィオの近くへと歩くなのは。
「ヴィヴィオちゃん………」
「あああああああ!!!」
もがき苦しみだしたヴィヴィオは胸の部分を抑えながら蹲る。
「失敗した………!?」
「いえ、さっき見えた時には傷も無かったし、恐らく、いきなりコアが無くなって急激な体の変化に自分自身に痛みが伴っているのでは………」
「そんな………」
「あああああああああ!!!」
本当に苦しそうに声を悶えさせながら蹲る。
しかし、それも徐々に収まっていき、最終的には叫ぶ事もなくなり、元の姿に戻って落ち着いた。
「………成功みたいですね」
「ヴィヴィオちゃん………」
なのはの呼び声に弱々しく顔を上げたヴィヴィオをなのはは精一杯抱きしめた。
「良かった………」
「なのはお姉ちゃん………」
嬉しそうに抱きしめるなのはに対してヴィヴィオの顔はとても悲しそうだった。
「………どうしたの?」
一旦離し、ヴィヴィオの顔を見て優しく話しかけたなのは。
「………何でそこまでして私を助けてくれたの………?私はなのはお姉ちゃんやバルトに酷い事言って………それでその後もずっと戦っちゃって………わがまま言って………私、私………」
そう呟きながら涙を流すヴィヴィオ。
そんなヴィヴィオの後ろに暗い影が現れた。
「………このアホんだら!!!!」
「痛っ!!」
「えっ………?」
なのはは一瞬今起きた事が分からなかった。
いきなりヴィヴィオの後ろに立ったバルトが泣いているヴィヴィオの頭に拳骨を落としたのである。
「ううっ………何するのバルト………」
ズキズキと痛む頭を抑えながら涙目でバルトを睨むヴィヴィオ。
「何するのって、わがまま言って親に歯向かったバカ娘にお仕置きしただけだ。………ってか睨んでるって事はまだ反省してねえみたいだな………よしもう一発………」
「ごめんなさい!!!!」
拳を構えた所でヴィヴィオはすかさず大きな声(涙声)で謝った。
「………ったく、わがまま言うのも文句があって暴れるもの構わねえが、それは身内だけにしろよな………こんな、世界まで巻き込みやがって………」
「バ、バルトさん、それは………」
「大体何が俺達に子供が出来たら要らなくなるだ………要らないんだったら俺はとっくの昔に捨ててる。………ってか最初はなのはに押し付けて消えるつもりだったしな」
「えっ!?初耳ですよ!?って痛た………」
思わず大声を出してしまい、身体が痛むなのは。それでも痛みを我慢し、こんな時にいきなりとんでもない事を口走ったバルトに喰らい付く。
「本当にそんな事思ってたん…ですか!!」
「身体が痛むんなら無理して声を出すなアホ………」
「そんな事よりも………」
「ああ、本当だ!!だけどそれはお前と初めて会ったごろの話だ!!問い詰めるのは後にしとけ!!」
しつこいなのはを無理矢理なだめつつ、再びヴィヴィオと向かい合う。
「ああとにかく、何が言いたいかってのは、さっきも言ったが例え子供が出来ようが、なのは以外に女を作ってもお前は俺の娘だ、血が通ってねえとかどうでもいい。互いに認め合っていればそれでいいだろ?だから心配するな、俺はお前とずっと一緒だ」
「バルト………」
「そうですよ、私だっています。それとバルトさん、さっき私以外に女を作ったら何とかって聞こえましたけど………?」
「例え話だから!!いちいち反応するな!!疲れて情緒不安定になってるぞ!!」
ギャーギャー騒ぐバルトとなのは。
(ありがとう、バルトパパ、なのはママ………)
そんな2人を見ながらヴィヴィオを心の中でお礼を言ったのだった………
「何!?聖王の機能が停止した!?」
桐谷への攻撃を続けていたクレインの手がいきなり止まった。驚いた顔で、展開したディスプレイを操作している。
「何を戦闘中に………」
いきなりの豹変ぶりに桐谷はその場て立ち止まり、クレインの様子を見ていた。
「どうしたんだよ2人共………?」
『どうやらクレインの予定外の出来事があったみたいね、私もあんなに慌てる彼を見た事が無いわ』
そんな2人の様子を零治達も見ていた。
「何か言ってたよな?俺はよく聞こえなかったけど………」
『私もよ………』
「零治、傷の手当て終わったぞ!!」
『こっちもある程度終わったわ』
そんな中、零治の傷の手当をしていたアギトとエリスも処置が終わった。
「エリス、アーマーの方は?」
『アーベントは使用出来るわ。………だけど防御を含めて、あのフィールドがある以上、ラグナルフォームでやるしかないわね』
「そうか………それとホムラ」
『何よ?』
「俺の身体を使っていたお前から見て、神速、後何回使えると思う?
『………使わない方が良いわ。分かっていないと思うけど、あなたの脳の負担はもう限界寸前よ。私が使ったのにこんな事言うのは申し訳ないのだけれど、ウォーレン・アレストの回復が無くなった以上、もうこれ以上の負担は考えれないわ』
「なるほどね………まあそんな感じはしてたけどね」
ホムラの言葉に苦笑いしながら返した。
「零治、無茶するつもり無いだろうな………?」
「俺だってしたくはないさ。またみんなと離ればなれなんて勘弁だしな。………だけどその皆を守るためなら躊躇するつもりはない」
「零治………」
アギトは零治の覚悟を止めようとも思ったが、零治の考えも分かっていたので止める事は出来なかった。
既に時間はもう残り僅かとなっていながら未だに侵入組から連絡が無い。取れるかも分からない状態ではあるが、状況が変わった様な変化も無い。
実を言えば既に外ではエンジェルソングが止まり、外でははやて達が戦線を立て直したのだが、アギト達が知る由も無かった。
「だからアギト、悪いが最後まで協力してもらうぞ」
「!?ああ、もちろんだとも!!!」
そんな中でも自分を頼ってくれた事がアギトの中で何よりも嬉しい言葉だった。
「よし、それじゃあ行くか。エリス」
『分かったわ』
「ラグナル、セットアップ!!」
白いロングコートに腰には刀。
「やっぱりこれかな………」
「零治!!」
「ああ、ユニゾンイン!!」
そしてアギトとのユニゾンを得て、炎を纏った赤を中心としたロングコートへと変わった。
「!?零治か!!」
「不味いね、流石に2人の相手を一気にするつもりは無いよ」
ユニゾンを終え、戦闘態勢に入った零治だったが、その零治の場所と桐谷達が戦っている場所の丁度中心辺りに透明な壁が現れた。
「これは………」
「悪いが、戦闘が終わるまでそこで見ててもらうよ、こっちも余裕が無くなったからね」
そう言ったクレインの顔には本当に余裕の色は伺えず、少々戸惑っている様にも見えた。
「エリス、転移は!?」
『………駄目!!ブラックサレナじゃないとあの壁を越えられないわ!!』
「どういう事だ?」
『微妙に空間が歪められてる。ブラックサレナのボソンジャンプなら座標をしっかり設定できるから可能だけど、瞬間的に跳ぶラグナルフォームじゃ何処に辿り着くか分からないわ!!』
「桐谷!!」
透明な壁に手をつ叫ぶ。
「ここは俺に任せろ零治。もう時間が無い、俺が奴を止める!!」
桐谷は構え、拳を握る。
「そう、私としても切り札の一つを破られてしまった。私としてもこれ以上時間を掛けるわけにはいかなくなった。だから………」
両手に魔力刃を形成し、構えるクレイン。
「さあ、順番に倒させてもらおう!!」
そう宣言し、桐谷に向かって行った………
「ねえ、星!!こっちの道で間違ってないの!?」
「分からないですよ!!だけど進むしかないでしょう!」
「エニシアルダガー!!」
言い争う2人の前に突如現れた2機のガジェットに紫のナイフが突き刺さる。
「邪魔をするな!!」
そして止めと言わんばかりに手に持った槍で2機ごと貫いた。
「あ、ありがとう夜美、優理」
「助かりました………」
「礼は良い、それよりも早く先へ進むぞ。覚えているだろ?もうタイムリミットに迫っている。エローシュが言っていた3時間………外の様子はどうなっているか分からないが、それがもう後少しすれば時間になる。………多少は事態が好転してれば良いのだが………?」
「そう言えばもうそんなに時間が経ったんだ………」
優理の呟きと共に4人は再び道を進む。
「それが外の部隊の戦闘限界だっけ?でもゆりかごはまた大気圏外まででるのには時間があるんでしょ?」
「それでも多少です。それに今度は神崎大悟の攻撃が届かなくなります」
「そう言う事だ。シールドが消えていれば最終手段としてアルカンシェルで攻撃も出来るが、その場合、地上にいる部隊皆が犠牲になる」
「やっぱり相当追い込まれてるね………せめて他の場所での戦闘がどうなったのかが分かればいいんだけど………」
未だに念話等でどうにか連絡をしようとしてみたが、一向に誰とも繋がっていない。上手くいったのか、それともピンチなのかそれすらも分からないままだった。
「取り敢えず私達はレイを探しながら出来る事を探しましょう………」
星の言葉に頷き、4人は先を急ぐのだった………
「舞朱雀!!」
「爪竜連双斬」
流れる様な拳と剣の連撃と二刀の乱撃がぶつかり合う。
今度の2人の戦いは先ほどとはうって変わったものとなった。
桐谷は相変わらずクロスレンジを保つものの、拳の連撃を止め、斬撃と組み合わせたいつもの戦い方になった。
対してクレインの方も先ほど代わり、ちゃんとした剣技を使い、桐谷と相対していた。
「これは………!!」
「私も黒の亡霊の記憶を利用させてもらった。完全には無理だが、ある程度の技はコピー出来る」
「だが、そんなまがいものでは………!!」
「使い方を分からない君に言われてもね!!」
桐谷の拳がクレインの右の一刀の腹部分を捉える。魔力で出来たクレインの刀は桐谷の拳の前に無惨にも砕け散った。
「よし、!これで!!」
「甘いよ!!」
しかし砕けた筈の刀が一瞬の内に消え、そして新たに小さな盾が形成された。
「なっ!?」
桐谷は既に追撃にと左の一刀の斬り下ろしを横に避け、右側から攻めようと剣を振っていた。
振るわれた剣はクレインの盾に防がれ、更にうまい具合に力を流され、体勢を崩してしまった。
「更に!!」
クレインは左手に持っていた刀を瞬時に短槍に変え、桐谷に突き刺した。
「うっ!?」
体勢を崩されながらも身体を捻る事で何とか逸らした桐谷。身体を地面に打ち付けるが、気にせず、地面を蹴って、クレインから距離を取った。
「逃がさないよ!!」
今度は双銃に武器を変え、魔力弾を連射する。
「くっ!!」
左手のバリアーで防ぐが、完全に足が止まってしまった。
「お前………」
「驚いたかい?これが私の作ったバリアアーマーの本当の能力、魔力を様々な武器に瞬時に変え使う事が出来る。………君に変幻自在の攻撃を捌ききれるかな?」
そう言ったと同時に双銃を桐谷に向かって投げつけるクレイン。
「何を………!!」
一瞬、バリアーを解いて確認しようとした桐谷だが、咄嗟に再びバリアーを展開し、身体全体を守る。
「爆破」
その瞬間、投げた双銃が爆発した。
「くそっ………こんなに早く、そして多彩に形成出来るとはな………」
クレインとの最初の戦闘でどう言った戦闘スタイルなのはか把握していたつもりだった。しかし桐谷の想像以上にクレインの作ったバリアアーマーは強力だった。
(剣の様な武器だけではなく、盾に槍に銃まで………これは全ての武器となる物に変化できそうだ………あの魔力の槍の秘密も分からない上に更にこんな武装まで………)
爆煙で見えないクレインを警戒しつつ、立ち上がる。
(だが、迷っている場合じゃない。先ほどの様に攻撃で破壊出来るし、バリアーであの爆発も防げる。………いくらでもやりようはある………!!)
しかしそう考えていた桐谷に爆煙から何かが飛んできた。
「クレインの攻撃………!?」
バリアーを構えながら警戒する桐谷。飛んできたのは丸い、円状のボールの様な物で、次々と桐谷に向かって飛んできた。
「まずい!!」
コロコロと転がっている様子に虚を突かれ、逃げるのが遅くなってしまった。
「耐えきれるか………!?」
逃げられないと判断した桐谷は再びバリアーを張り、守りに入る。次の瞬間ボールが次々と爆発したのだ。
「ぐうぅぅぅ………!!」
次々に爆発するボールの衝撃に身体が揺られながらも懸命に耐える。
(まずい………!!)
しかしそのバリアーにも限界が近づいてきていた。
Sランクの攻撃でも耐えられるバリアーであるが、使える時間は少ない。
当然桐谷もそれは分かっていた。
(くそっ、俺の悪い癖が出たせいか………)
悪い癖とは考え過ぎること。零治はどちらかと言えば戦闘で感じ対応するタイプだが、桐谷は分析して戦うタイプだった。どちらも長所短所はあるが、今回は完全に裏目に出てしまった。
(どうする、どうする………!?)
最早バリアーは消える寸前だった。
(俺もクレインみたいに武器を変更できれば………ん?)
その時ふと気が付いた。零治を差し置いて先に桐谷を倒しにかかったクレイン。ガラッと変わった戦闘スタイル、そしてブランバルジェ。
(まさか………!!)
そんな都合の良い話なんてあるわけがないと思った。だが思い返してみれば思い当たる節がある。それはクレインの戦闘方法の変化だ。先ほどまでの魔力の槍の多用が少なくなり、クレスレンジでの戦闘を主体とした。しかも焦ったような様子で桐谷を潰しにかかっている。
(何故俺をそんなに恐れているのか………それは………)
そう考えると可能性はある。
(頼む!!)
桐谷は藁をも縋る思いでクレインの武器変化を想像しながらセレンに命令したのだった………
「さて、そろそろ良いだろう………」
クレインは過去のバルトマン戦で零治、そして桐谷の戦闘スタイルを分析していた。そして桐谷で一番警戒していたのはアルトアイゼン………では無く、ホムラによってもたらされた情報でのブランバルジェだった。
「桐谷!!」
壁の外側で零治が叫ぶが、声は壁を越えることはなく、当然反応も無い。
「もし使いこなせていれば私は負けていただろう………」
そう思わせるのは、クレインの武器としている魔力の武器はブランバルジェを元に考案したものだからだ。
当然オリジナルのようにはいかず使い捨ての様な戦い方しかできなかった。
「さて、残りは有栖零治か………彼については弱点ははっきりしている、早く終わらせて不具合を修正しないとね………」
「何を勝ったつもりでいる!!」
クレインが背を向けた瞬間だった。爆煙の中から颯爽と桐谷が現れてクレインに襲い掛かった。
「加藤桐谷!?」
「はあああっ!!」
両手でしっかりと掴んだ槍の先をクレインに向け、そのまま突貫した。
「くっ!?」
不意を突かれたクレインだったが、槍を冷静に見極め、魔力で盾を作り出した後、防ぎながら横に流した。
「まだだ!!」
桐谷もそれだけでは無かった。槍を流された瞬間武器を変え、何時ものスタイルになった。
「!?まさか………!!」
「烈火刃!!」
魔力の苦無を手に持ち、それをクレインに向かって投げる。
「だが………!!」
展開していた盾で攻撃を防ぐクレイン。
「なっ!?」
しかし烈火刃は直撃した瞬間爆破し、クレインの盾を破壊した。
「爆破がお前だけの専売特許だと思うな!!」
その後も次々と烈火刃を投げつける。一回に投げられる烈火刃は4本までが限度で、それ以上は持てない。更に連射出来るような技でもないのでどうしても数秒の間が空いてしまう。
故に武器を瞬時に展開出来るクレインは盾も同様である為、決定打にはならなかった。
「さてどうするか……」
距離を取ったクレインの様子を見ながら思わず呟く。
窮地は脱したが、依然不利なのは変わらない。
先程槍を使って突貫したが、そもそも桐谷は槍など一度も使ったことがない。
と言うよりもアルトアイゼン、セレン以外で戦闘したことがないのだ。
(これじゃあ宝の持ち腐れだよな………)
そう思いながらも桐谷は別に打開策を考えていた。
幸い、警戒しているのか先程の様に攻めてこない。
(槍は良い方向へと効いてくれたんだな………)
桐谷の思った通りクレインは桐谷の槍を使った戦闘の影響で一旦慎重になった。
(ブランバルジェの能力を使った………?使い方が分かったのか………?)
クレインにとって最悪の展開と言っても過言じゃなかった。自身のアーマーはブランバルジェの劣化版、そして自身は戦闘の素人。データのよって優位に戦っていられるが、その優位な状況が覆されそうになっていた。
(仕方がない………最後だがこれで仕留めるか………)
そう考えながらクレインは右手でなるべく気づかれないように操作し始めた………
(ん?また操作している………)
しかし桐谷はクレインの動きを見逃さなかった。
「またあの槍だとしても、不意を突かなければ通用しない!!」
桐谷はすかさず、クレインの懐へと入り、密着するほど近い距離で戦い初めた。
「はああああ!!」
桐谷の得意な距離。その戦闘にクレインは耐えるのに精一杯だった。
連打を浴びせ、ダメージよりもクレインの動きを止める事を重視し、攻め立てる。
「白虎咬!!」
そして再び魔力を溜めた一撃で鎧を貫くような衝撃を与えた。
「うぐっ!?」
あまりの衝撃に壁に背を当て、悶えるクレイン。
「貰った!!コード麒麟!!」
フルドライブ状態となり、魔力をミズチブレードに集中する。明らかに今までとは比べ物にならない威圧感がクレインを襲った。
何時ものような他の動きも無く、一閃によって全てを終わらせるつもりだった。
クレインも先程の白虎咬で防御に移れない。完全に無防備な状態だった。
「これで終わりだ!!!!」
下から斬り上げる最後の止めと言える一撃。何時ものような繋ぎは一切無い単純な攻撃ではあるが、その威力は他の技と比べても群を抜いていた。
「!?」
クレインにも戦慄が走る。これを喰らえば終わりだとクレインにも分かった。
(だからこそ残念だよ………)
クレインに刃が届く寸前で桐谷のミズチブレードが止まった。纏っていた魔力も消え、ゆっくりと地面へと落ちる。
「がはっ!?」
桐谷が吐血した。その身体には先程まで多用していた槍が桐谷の四肢に突き刺さっており、左脇腹に関しては浅くはあるが完全に抉られていた。
「………守られたね加藤桐谷」
桐谷の左腕にあった筈の籠手が無くなり、心臓部分に盾として展開されていた。
「心臓部分に行くはずだったが………ブランバルジェが守っていなければ即死だったね」
「………油断……した………」
桐谷の誤算はただ一つ。魔力で出来た槍を地面からしか出現できないと思っていた事だった。
「壁……から…か………」
「私は一言も地面だけとは言っていないよ?」
麒麟の一撃を与える瞬間、壁から桐谷に向かって魔力の槍が伸び、動きを止めた。その攻撃はアルトアイゼンの時よりも深く、バリアジャケットのお蔭で致命傷にはならなかったものの、戦闘継続は無理なほどの重傷を負ってしまった。
「さて、それでは止めといこうか」
右手にアルトアイゼンが持つ、ステークを作り出し、構えるクレイン。
(身体に力が入らない………痛みもあちこちから………………逃げられないか………)
桐谷はステークを構えるクレインを見ながらそう結論付けた。
(もうどうする事も出来ないな………まあ俺が死んでも後は零治が何とかやってくれるだろう………悔いは無い………)
そう思いながら目を閉じる桐谷、後はその時を待つのみとなったのだが………
『『桐谷!!!』』
「!?」
名前を呼ばれた様な気がした桐谷はハッと我に返った。
「俺は………まだ死ねない………」
「ん?」
「俺にも………守りたい奴等がいる………!!」
全く力が入らない身体を無理矢理にでも動かそうとする桐谷。しかしそんな強い意志に反して身体は全く言う事をきかない。
「………無駄だよ、もう君は死ぬんだ」
「ふざけるな………死んでたまるか………ああああああああ!!」
悲痛な叫び声を上げながら突き刺さった状態のまま、今度はミズチブレードを変化させようとした。
「………危険だね、何かされる前に止めをささせてもらうよ」
桐谷の動きに危険を感じたのか、話すのを止め、そのまま桐谷を貫こうとステークを胸へと突き刺し………
「覇道……滅封!!」
「!?くっ!!」
その一突きはクレインに向かって放たれた炎の波によって止められた。
「桐谷!!」
その攻撃を放ったのは零治だった。
距離を取ったクレインを警戒しながら桐谷を突き刺した魔力の槍を破壊する。
「桐谷大丈夫か!!」
『零治、酷い傷よ!!早く処置しないと………』
「アギトユニゾンを解くぞ!!」
『分かった!!』
ユニゾンを解いた零治とアギト。アギトはその後、何も言わず、先ほどの救急キットを使い、桐谷の処置を始めた。
「れ、零……治………」
「喋るな桐谷!!」
アギトにそう言われても口は閉ざさなかった。
「気が………ついたか………?」
「ああ。だから安心して休んでろ桐谷」
「そう…か………分かった…………」
零治の答えを聞いて安心したのか、ゆっくりと目を閉じる桐谷。
『零治!?桐谷は………』
「大丈夫だ!意識を失っただけで呼吸もしてる!!こっちは私が処置するから零治は戦闘に集中しろ!!」
「ああ」
アギトにそう言われ、零治も後ろを気にせずクレインにゆっくりと近づいていく。
『零治、一応聞くけど何が分かったの?』
「何も気が付いていないさ、桐谷を安心させるためにああ言っただけだ」
『やっぱりね………』
呆れた様な口調でそう呟くホムラ。
「だけど、何となく引っかかっている事がある。まあそれも戦っていれば分かるさ」
そう話ながら桐谷は一旦刀を抜き、納刀した後、抜刀の構えをとった。
「さあ今度は俺と戦ってもらおうかクレイン」
「………」
そんな零治の言葉を聞いているのか、何も返さないクレイン。
ただ………
(勝った………)
その顔には笑みが浮かんでいた………
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