戦国異伝
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第百九十一話 水攻めその九
「数があればな」
「それだけで」
「そうじゃ、勝てるのじゃ」
「鉄砲も弓矢も使えずとも」
「そうなる、そして晴れたからには」
その使えなかった鉄砲や弓矢がというのだ。
「来るぞ」
「わかりました、さすれば」
「皆退くぞ」
元就は苦りきった顔で言った。
「よいな」
「無念ではありますが」
「致し方ありませぬな」
「戦で駄目ならな」
それならばとも言う元就だった。
「他の手を使うしかない、しかしな」
「今の戦は」
「これ以上は」
「出来ぬ、下がるのじゃ」
こう命じてだ、そうしてだった。
毛利の軍勢は下がった、織田軍はまた毛利との戦に勝った。しかし信長は戦に勝ってもそれでもだった。
兵達にだ、厳しい顔でこう言った。
「陣から出てはならぬ」
「敵を追うこともですな」
「それもですな」
「してはならぬ」
やはり厳命であった。
「このまま守れ」
「はっ、それでは」
「このまま」
「堤を守れ、してじゃ」
傍に控えている黒田も見てだ、信長は問うた。
「堤はどうなっておる」
「崩れておりませぬ」
「左様か。して水は」
「充分です」
黒田はここで笑みを浮かべて信長に答えた。
「雨で」
「そうか、ではな」
「城の方を御覧下さい」
是非にというのだ。
「さすればおわかりになります」
「ふむ。では本陣に戻るぞ」
信長はこう言ってだ、そしてだった。
本陣に戻り城を見た、見れば攻めるに難いその城がだった。
周りを完全に水に満たされていた、その中に満ちていた。信長はその高松城を見て確かな顔で言った。
「よし、よい状況じゃ」
「このままでは三日ですな」
三日でだ、城は完全に水の中に沈むというのだ。
「雨の水が山から落ちますし」
「そうじゃな、川からも水が来る」
「だからじゃ」
それでだというのだ。
「三日で毛利との戦が決まるな」
「ではここは」
「その後ですな」
「東国のことは何か伝わっておるか」
信長はあらためて家臣達に問うた。
「そちらは」
「確かに武田、上杉は兵をまとめていますが」
それでもとだ、滝川が言って来た。
「差し当たっては」
「まだか」
「その三日の間に東に送っていた飛騨者達が戻って来ます」
彼等が、というのだ。
「そして東国の状況を伝えてきます」
「左様か、まさに三日じゃな」
「それで全てが決しますな」
「そうじゃな、東国の次第によるが」
腕を組みだ、信長は言った。
「すぐに安土に戻りたいな」
「ですな」
「だからじゃ」
それでだというのだ。
「いざという時はすぐに戻るぞ」
この美中から、というのだ。
「よいぞ」
「殿、その時ですが」
ここで言って来たのは石田だった。彼は信長に対して険しい顔になってだ、そのうえで言って来た。
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