僕の周りには変わり種が多い
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九校戦編
第11話 見学のはずが
達也は「用事がある」ということで、それ以外は競技関係者と、そうでないメンバーにいったんわかれての食事だ。競技関係者は、昼食は弁当を支給されるので、今回は天幕で食事をとる。
そこでの話はというと、九校戦の初日ということで今日、明日、明後日の本戦競技へと続く話になった。
「スピード・シューティングの女子は、七草生徒会長がどのように優勝するかってところだろうけど、男子は七草生徒会長と比べると見劣りがして、一高が優勝候補と言われていても、なんかピンとこないんだよな」
「比較対象が悪い。男子も一高は優勝候補」
雫の独特な言葉使いで、タンタンと意見を述べている。
「ふーん。クラウド・ボールはどうなんだい?」
「女子は七草会長。男子は桐原先輩が有力」
「桐原先輩は優勝候補とまで、いかないんだね?」
「優勝候補は三高。だけど、トーナメント形式だから不明」
「アイス・ビラーズ・ブレイクはどうなのかしら?」
僕が聞いて、雫が答えるという具合になっていたところへ、美月が入ってきたところだ。
「女子は千代田先輩。男子は十文字先輩が優勝候補」
「七草生徒会長と、十文字会頭はダントツの優勝候補ってところなのはわかるけど、千代田先輩って、そこまですごいのか?」
「パワーだけなら一高の2年生でトップ。一高の中でもベスト5に入る」
パワーだけならベスト5って、他に雫の頭に入っている情報を、もう少し聞いておきたかったが、バトル・ボードの話にかわっていた。
「女子は渡辺先輩か七高の田中。男子は服部先輩」
「やっぱり、海の七高というだけあって、どっちが優勝するかわからないとなると、その試合は混むんだろうな」
「混むと言えば、準々決勝は、早めにいかないと座れない」
そういう雫の一言で、スピード・シューティングの競技会場へ移動することにした。競技会場は、雫の言う通りかなり混んでいて、最前列はともかく、クレーが見やすい列もすでに空きがなくなりかけている。ここに9人で座れる場所はというと、2列にわかれたがそれで観ることにしたら、幹比古が
「ちょっと、気分が悪くなったから、部屋で休んでいる」
「ミキはあいかわらず、こういうところ苦手なのね」
「僕の名前は幹比古だ」
体調が悪そうなのに、そう言い返す幹比古には、笑いを誘われたが、一人で戻れるというので、そのままにしておいた。幹比古は精霊魔法を使うから、そういう意味ではプシオン感受性が高いタイプなのだろう。僕もプシオンの感受性は高いから、これほど魔法師が多くて、多種のプシオンがある中で長時間いるつもりなら、メガネを必要とする。
少したってから、エリカが
「達也くん、こっちこっち!」
って、周りを気にしていたと思っていたら、達也を探していたのか。シスコンの達也を気に入っているようだし、千葉家の娘だから、彼女にしたいとかというのはご遠慮したいが、女性の友達としては、美人だし快活だし面白いと、場違いなことを考えていた。
スピード・シューティングは七草生徒会長が入場すると、歓声が上がり、競技場のまわりにあるディスプレイに「お静かに願います」と流れると、歓声が静まるといった感じだ。
競技開始のランプをシグナルとして、紅白の2色に分かれたクレーが、空中の有効エリアに向かっていく。七草生徒会長が狙うクレーの色は赤だ。
その赤のトレーを有効エリアへと入った直後に、打ち抜き砕いている。相変わらずの精度をたもっている。
「『魔弾の射手』……去年よりさらに早くなっています」
深雪の言葉から言ってそうなのだろう。僕の場合、去年の競技は録画画像でみただけだからな。そんな中、周りの一部から声があがった。
「今……下からだ」
「下から当てたぞ! どうやって!?」
亜音速のドライアイス弾を、見れる動体視力はすごいが、集まってきているわりには、七草生徒会長の『魔弾の射手』について、勉強不足だな。ドライアイス弾を発射するポイントと方向性を自由にできるのが、特徴だ。つまり、どの方位からも自由に距離を設定して打てるということで、相手競技者との魔法の干渉をなくすことができる。直接クレーに振動魔法で破壊したり、移動魔法で破壊したりする競技者が多い中では少数派だが、相手は白のクレーで陰になっていたはずの赤いクレーが、下から射撃されたことで集中力が途切れたのか、今回は87ポイント以上はたたきだしているはずの選手なのに、50ポイントにとどかず、七草生徒会長のパーフェクトで準々決勝は終わった。
七草会長のこの『魔弾の射手』は世界を見ても、トップクラスにあるとの説明を達也からうけて、観ていたが準決勝、決勝ともに、パーフェクトで終了させていた。
大会2日目。
各競技を見るのには、基本的にオーラ・カット・コーティング・レンズ付きのメガネをかけている。
クラウド・ボール女子は七草生徒会長を中心にして見る。相手がサイオン切れで棄権するのはあったとしても、それが1回戦なんて、珍しいのも見れた。
たいして男子は、桐原先輩を中心に見るが、優勝候補である三高との接戦を落としたのがポイントの入らない2回戦目ということで痛い結果だ。これはトーナメント形式と、それに付随するポイント制の怖さだろう。
アイス・ビラーズ・ブレイクの女子は千代田先輩を中心にして見るが、1回戦で最短記録だったのはすごいと思う。今回はメガネをはずして観ている。自分の眼でサイオンやプシオンを見る試合は、プシオンが観れる分だけ、昨年の競技動画と印象が特に違う。千代田先輩の試合は『防御なにそれ? 攻撃全開』という感じだ。それでも『地雷源』と呼ばれる千代田家の魔法である、地面に振動系魔法を使うのは、勉強になる。
男子の方は十文字会頭を中心に見るが、さすがに十師族直系だけあって、来るときのバスでの事故からみて、パワーも圧倒的なんだろうなーと思っていた。そして、雫の情報通りに、十文字会頭が優勝候補だと言われる展開をみせていた。防御は鉄壁、攻撃も移動魔法のシールドで倒していくという、魔法力の高いところを見せつけるものだった。
そのあとは、明後日の新人戦に僕が出る種目のスピード・シューティングがあるので、技術スタッフである五十里先輩によるコンディションチェックを受けたあと、情報端末にレオからのメールが入っていたので見てみると「達也の部屋へ遊びにいこうぜ」となっていたので、時間を確認して、レオの部屋にいったん集合したところ、レオと幹比古は当然同じ部屋だからあたりまえとして、エリカと美月がいるのもこんなものだろう。少々予想と反していたのは、まず深雪がいたこと。さらに、ほのか、雫といったところで、夏休み前に帰っていたメンバーに幹比古が多いぐらいだ。
夕食前には、まだ早い時間に達也の部屋へ行くことにしたが、深雪が達也の部屋に行く時間がこの時間だったからだそうだ。
達也の部屋に入ってめだったのは、机の上の『剣』っぽいもの。それに気がついたのはエリカも一緒だが、いち早く質問したのは、エリカだった。
「達也くん、これ……模擬刀? 刀じゃなくて剣だけど」
「いや」
「じゃあ、鉄鞭?」
「いいや……この国じゃ鉄鞭を好んで使う武芸者なんていないと思うが」
「武芸者って、今時……じゃあ、なあに? ……あっ、もしかして、ホウキ(法機)?」
「正解。より正確には、武装一体型CAD。武装デバイスという言い方もするな。完全に単一魔法に特化したCADと、その魔法を利用した白兵戦用の武器を一つにまとめた物だよ」
その説明を聞いていた、僕は、この九校戦で使うんだろうか?
ありそうなら、モノリス・コードだけど、達也の担当は女子ばかりだから、男子競技であるモノリス・コードは無いはず。
それは、このあとの話を楽しむことにしたかったが、夕食後に達也とレオが外でテストするということで、見に行くのは遠慮した。エリカと深雪は見に行きたがっていたのを、美月とほのかがそれぞれ監視しているので、遠慮したというのが実情だ。
大会3日目。
朝一番の競技は、服部先輩が出場するバトル・ボードと、千代田先輩が出場するアイス・ビラーズ・ブレイクだが、時間が重なっている。男女の違いはあるが2人とも2年生だ。しかし、服部先輩は2種目に参加する一高の主力選手なので、皆でそちらをみることにした。ただし、達也は七草生徒会長に捕まって、後ろをついていく達也が、七草生徒会長にひきづられているように見えるって、変なイメージだよな。イメージは魔法師にとって現実なんだから、勘違いはいけないよな。
服部先輩のバトル・ボードは、僅差で準決勝を抜けて、決勝戦へコマをすすめた。渡辺風紀委員長のバトル・ボードになって、達也がやってきて、競技を一緒に見ることになった。
競技相手には『海の七高』と呼ばれている、七高の選手が入っていて、ある意味、昨年の決勝戦のカードと同じだ。
スタートとともに渡辺風紀委員長と七高の選手が、ダッシュをきめている。その両者のそばでは、水面が激しく波立っている。2人が魔法を使っている証だ。服部先輩も渡辺風紀委員長と似たスタイルだが、水面に使っている魔法の種類は違うのだろう。
先行していた渡辺風紀委員長がカーブの最中にそれは起こった。七高の選手が減速するはずのところでの加速だ。オーバースピードだなんて、信じられない思いで見ていたが、その先にいた渡辺風紀委員長が、高度なターンをみせて七高の選手を受け止めようとしている。一安心できそうだが、渡辺風紀委員長が受け止めようとした瞬間に、バランスを崩した。
バランスのよさそうな渡辺風紀委員長が、人を受け止めようとしているところで?
そう疑問に思ったが、見えていたのは受け止めそこなって、2人が飛んでいった先には渡辺風紀委員長が、七高の選手を受け止めていたために、受け身も取れずにフェンスにぶつかるシーンだ。瞬間に僕ができることはと思い、立ち上がると
「お兄様!」
「行ってくる。お前たちは待て」
「一般医療機器レベルだが、生体波動を観る眼を持っている。達也、どうだ?」
円明流合気術の4段以上で、生体波動を見るのは必須の技能だ。体術の速度が遅くても、相手の筋肉の動きを事前察知できるゆえに、達也の体術をこちらも体術だけで、ある程度まではこなせる。合気術の思想の中に入っていることだが、知らない者も多い。
達也も一瞬考えたようだが、
「翔、きてくれ」
見知った一高のメンバーではなく、大会会場で大勢の魔法師が観ている。その中でエレメンタル・サイトを使うわけにもいかないだろう。達也も以外と身近にいる相手には甘いところがあるんだよな。
そんなところも考えていたが、達也とともに、渡辺風紀委員長の方へ向かった。
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