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黄龍の転生者と四神の乙女達

作者:龍牙
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二話

「ねえ、四季。今から出かけない?」

「ああ、転校は少し先の予定だけど、今から麻帆良を見に行くのも悪くないか」

 落ち着いた様子の詩乃が四季へとそう話しかける。昨日まで脅えていたのが嘘のように見えるほど、今の彼女は何時もの……四季の知っている彼女の姿だ。

(やっぱり、オレは……)

 『詩乃の事が好きだ』と改めてそう思う。四季にとって彼女は宿星で導かれた仲間、力を使うための一部ではなく、大切な人。恥ずかしくて口には出していないが……

 そうしてどちらかとも無く手を伸ばして互いの手を取ると、ステーションに備え付けられていた他の次元世界へと向かう為のゲートを潜る。

(良し、丁度良い機会だ。此処で告白する)

 まあ、其処で振られたら二人っきりのステーションでそんな関係の相手と一緒と言うのは気まずいが、それでも中途半端のままで新しいステージに進むのはイヤなのだ。








 念の為に麻帆良の外、一駅程度の距離の場所にある公園に出てそのまま電車を使って麻帆良へと移動する。

 事前の調査では麻帆良と言う場所がこの世界の魔法使い達の日本に於ける主要拠点である学園都市だ。
 元の世界で詩乃が平和に暮らせるためにこの世界の魔法と言う力を学ぶ。……飽く迄力を得る事が目的であって、それ以外は目的では無い。
 ……魔法に関する記憶を消された場合、ステーションの事まで忘れさせられる危険も有り、なるべく魔法使いには接触せずに影ながら行動する方が良いと言う判断の為、麻帆良学園の内側にこちら側の拠点を確保できない限り、ステーションからの麻帆良学園の敷地内への直接転移は危険だ。

 陰陽師や魔女、仙道と言った和洋中の術が使えるので、その中の一つ……陰陽師の力で異界となる結界を作り出し、その中に転送用の拠点を作ろうと考えている。上手く家を用意できれば良いのだが、流石に未成年者二人ではそれも難しいだろう。

(いや、やろうと思えばできるか)

 一つだけ方法が有るが、流石にそれが何処まで上手く行くかは未知数である以上、素直に陰陽術なり黒魔術なりで異界でも作り出したほうが確実性が高いだろう。

「大きいわね」

「そりゃ、学園都市だからね」

 あまりにも広大過ぎる敷地を持つ麻帆良学園は交通機関が発達している。四季と詩乃の二人はその一つを使って麻帆良学園まで移動した。そもそも、元の世界ではこれほど広大な敷地を持った学園など存在しておらず、存在していたとしても二人の身近には無かったので、流石に呆気に取られてしまう。

「それにあの木って」

「この学園の象徴……神の木とか言われている代物らしいよ」

 確実にテレビで取り上げられるであろう巨大な木、流石にそんな物が日本に存在しているなどと言う知識は無い。海外ならばそれなりの大木は存在しているが、目の前の木はそれらと比べても群を抜いている。少なくとも、そんな物が有れば今頃観光の名所となっているだろう。
 また、周囲の建物は日本とは思えない西洋風の物で此処が日本であると忘れさせる。

 初めて見る異世界の景色……自分達の住む世界の日本との違いは単純に見ているだけでも楽しい物がある。

 時折、電車や車よりも早く走る中学生や、人が文字通り吹飛ばされる光景などが繰り広げられているのには、四季の二度目の人生では何度か経験したが、そう言った経験が四季以外にない詩乃は唖然とする事が多い。

(可愛いな)

 初めて旅する異世界の地、楽しそうな彼女の横顔を見ながら思う。……やっぱり自分は彼女の事が好きなのだ、と。この告白で彼女との関係が壊れたとしても、その選択に悔いは無いだろう。

 そんな中、一人の教師の姿が目に写る。

(……かなりの実力者……。魔法使いの関係者って奴らしいな)

 喧嘩をしている生徒らしき男子を数人纏めて鎮圧する教師の動きを見ながら、使っているで有ろう技を分析する。

(面白そうな技だけど、パッと見だと応用性は発頸の方が上だな)

 バトルスタイルが徒手空拳技《陽》なだけに同じ拳士の技ならば、ある程度技の秘密は見ただけでも理解できる。……その上で分析するが、四季には似た様な技で応用し易く、発展系の技を会得しても使い慣れた《掌底・発頸》があるので、覚えた所で意味がある技とは思えないのが残念な所だろう。

 暫く詩乃と麻帆良を巡っていると、最後は麻帆良を一望できる場所に来ていた。

「綺麗ね」

「そうだね」

 彼女の横顔に見惚れながらも夕日に照らされた彼女の横顔が誰かと重なるのを覚える。

(この記憶は……今のじゃない……前の)

 仲間と呼んでいた者達に裏切られてステーションへの移動手段を奪われた時の記憶。その中で戦った相手の中に、

(……前の人生の詩乃がいた?)

 何故と言う疑問が沸くが、答えはすぐに辿り着く。最初に会った時の誘拐事件……《力》を狙った誘拐だったのだろうが、あの時阻止できたのは幸運としかいえなかっただろう。

(……出会えたんだな、前の人生でも……詩乃に)

 力を持つモノ同士が引き寄せあうから等と言ってしまえばそれまでだが、それでも前世でも彼女と出会えた事は嬉しく思う。例え、それが敵同士だったとしても……。

「なあ、詩乃」
「ねえ、四季」

 初めて出会ったあの時から、四季は何処か彼女に惹かれていた。

「君の事を」
「貴方の事を」

 仲間も家族も信用できない中、誰もが心から信用できない中で始めてであった心から信頼できる相手。何度も彼女と関わる中で彼女の事が好きになって行った。
 二度目の人生で氏の原因となったヤツラが詩乃を何かに利用しようとしている事はわかった。そして、その2度目の人生の中で……ヤツラのせいで四季は彼女と敵対してしまった。
 どんな形であったとしてもこの思いは伝えたい。

「「愛してる(愛しています)」」

 同時に紡がれた告白の言葉、思わず互いの告白に顔が真っ赤になる。

「し、四季」

「し、詩乃」

「わ、私からも言っておいてなんだけど……私で良いの」

「そっちこそ。オレの力の事は話しただろ? 深く関わる相手が最低でもあと三人いる。その中に女の子がいるかもしれない」

「私トラウマ持ちで、それで……」

「関係ない。そのトラウマだって元はと言えばオレが守りきれなかったからだ」

 詩乃が狙われていると分かっていて隙を作ってしまったのは四季のミスだ。その為にトラウマを追ってしまったというのなら、それは己の罪だと四季は考えている。

 今度こそ、今は彼女を……

「オレは君を守りたい」

 全てから守りたい。
「力なんて関係ない、君だから一緒に居たい。どんなに辛くても君の為なら、君と一緒なら歩いていける」

 ゆっくりと差し出された手を取る。掌から感じる互いの温もりで心が温かくなる。

「これからも一緒に居よう」

「うん、宜しくお願いします」

 
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