大和
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第二章
第二章
「これは果たして作戦なのか」
「それは」
「最早大和しか戦力はない」
そう言っても過言ではない状況であった。今の日本は。
「我々に残された戦力は少ない」
「その通りです」
「その戦力を沖縄に向けてか」
「そしてアメリカを叩きます」
「だが大和は」
どうなるか。小沢にはよくわかっていた。
制海権も制空権もない。そこに航空機の援護なしで向かわせるのである。如何に大和といえどそうした場所に少ない戦力で向かえばだ。
「あの船は」
「しかし最早それしか手はありません」
「それが今の日本か」
我が国だというのであった。
「そういうことか」
「では閣下」
「わかっている」
小沢はまた苦い顔で述べた。
「それではな」
「はい、それでは」
彼も頷くしかなかった。大和を沖縄に出撃させることにだ。それは即ち大和に死ねということだった。それに他ならないことだった。
大和が呉を出港する。それは多くの者が見ていた。そして言うのだった。
「帰って来ればいいがな」
「そうだな。何か今の大和は」
「ああ」
「いつもと違うな」
誰もが出港し海を進む大和の姿を見てだ。感じていた。青い海に浮かぶその巨大な雄姿がだ。普段とは違って見えたのだ。
それを見てだ。彼等は話すのだった。
「悲しいな、何か」
「さよならって言ってるみたいだな」
「そうだな。気のせいだといいけれどな」
「本当にな」
誰もが心からそう思った。今の大和の姿はそう思わせるものだった。こうして大和は出撃した。漁師の親子は今は港からその姿を見ていた。
瀬戸内海は多くの漁港がある。二人はそのうちの一つにいてだ。多くの小船が連なって停泊しているそこからだ。海を進む大和を見ていた。
海は青の中に白銀があり瞬いている。そこに大和の横顔が見える。一目見れば心を奪われるまでに美しい。しかしなのだった。
「父ちゃん」
子供がまず父に言った。
「何かさ」
「大和か?」
「うん、いつもと違うね」
こう父に言うのである。
「気のせいかな、これって」
「いや、気のせいじゃないな」
父親もだ。難しい顔で我が子に話した。
「大和を見るのはな」
「見るのは?」
「多分これで最後だ」
こう息子に話した。
「これでな」
「そうなんだ。もう大和は」
「帰って来ない」
また我が子に話した。
「ここにはな」
「そうなんだ。もう呉には」
「わし等に姿を見せるのもこれが最後だ」
彼はまた言った。
「もうな」
「最後なんだね、これで」
「覚えておくんだ」
こう我が子に告げた。
「大和の姿をな」
「うん、忘れないよ」
子供もだ。こう父に返す。
「大和を」
「そうしろ。絶対にな」
二人は話すその間もずっと大和を見ていた。大和は今はその雄姿を海の上に永遠に誇示しているかの如くだった。しかしだった。
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