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義侠

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第三章


第三章

 彼等も帰還に入った。陣を整えてそのうえでだった。
 その中でだ。ハイデッケンはホルバインに尋ねた。
「なあ、どうだ?」
「どうだって?」
「何人落ちたんだ?」
 ハイデッケンが問うのはこのことだった。
「今日は」
「五機だな」
 これがホルバインの返答だった。
「それだけだな」
「五機か」
「ああ、今日は少ないか?」
「数は少ないか」
 ハイデッケンも割り切った様な声だった。
「それはな」
「それは、か」
「問題は何人生きてるかだな」
「とりあえずパラシュートは全部開いてたけれどな」
 ホルバインはそれはいいとした。
「ただな」
「ただ?」
「あいつの姿が見えないな」
 ここでだ。ホルバインの声に苦いものが入った。
「あいつがな」
「まさかハインリヒか?」
 ハイデッケンの声は危惧するものだった。
「あいつか?」
「ああ、連絡しても出ない」
 ホルバインも言う。
「ってことはだ」
「おい、あいつもか」
「とりあえずパラシュートは五つあった」
 それは確かだというのだ。
「後は、無事にな」
「着地できていればいいけれどな」
「ああ、そうだな」
 その彼から連絡がないというのだった。そしてだ。
 基地に帰るとだ。実際にであった。
「ハインリヒ=アルヒマン少尉は消息不明になった」
「やっぱりですか」
「そうなんですね」
「一応スターリングラードにはいる」
 その市内にだというのだ。
「しかし。市内の何処にいるかはだ」
「わかりませんか」
「そうなんですか」
 ハイデッケンとホルバインは司令から話を聞いていた。簡素かつ剛健な、軍らしくドイツらしいその部屋の中でだ。二人は司令の席の前に立っていた。そのうえで話をするのだった。
「しかし生きていますか」
「そうなんですか」
「そうだ。それでだ」
 ここでだ。あらためてだった。 
 司令は二人に対してだ。こう言うのであった。
「救出作戦が決まった」
「スターリングラードのですか」
「友軍の」
「包囲されている軍の中にだ」
 その彼等の中にだというのだ。
「何とか敵の包囲から突破して脱出できそうな軍が出て来た」
「第六軍にですか」
「彼等の中に」
「いや、第六軍を救援に行って逆に包囲された軍だ」
 いささか間抜けな話だが戦争ではよくあることだった。
「その軍がだ。何とか脱出できそうだ」
「そうですか」
「その軍の救出作戦ですか」
「その軍からの連絡だとだ」
 司令の話は続く。さらにであった。
「スターリングラードで撃墜されたパイロット達が多くいるらしい」
「ではそこに」
「もしかすると」
「いるかもな、彼が」
 司令もその可能性を否定しなかった。
「アルヒマン少尉も。他のパイロット達もな」
「では司令、その作戦は」
「我々としても」
「今は一人でも多くパイロットが欲しい」
 司令はここではあえて軍人としての言葉に徹した。
 
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