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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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九校戦編
  第9話 テロ?

九校戦出場のために、バスの中で七草生徒会長を待っていて、その到着後にようやっと移動を始めたが、不機嫌だった深雪の機嫌がなおったら、彼女の周りに人が集まりだした。それがさわがしいので、渡辺風紀委員長と十文字会長でガードするような体制で座るようになって、バスの中は落ち着いた。
深雪の仮面の下に、どんな素顔が潜んでいるかは、まだわからないが、すくなくとも、かなり容赦のない性格であることはこの4カ月で学んでいる。ああ、やって集まっている男子生徒は知らないんだろうなぁ、とのんきに考えもした。

僕のバスでの隣の席には同学年の1科生だが、実力主義者で現実の実力を認められる人物だ。しかし、普段のコミュニケーションがほとんど無いだけに、バスの中で七草生徒会長を待つ間で、話題はつきてしまった。

今はバスでの移動の最中で、外の景色を眺めながら、結局スピード・シューティングの選手になった。操弾射撃の特性がスコア方式に近く、対戦相手がいないということで、8位以内は確実視できるからだという。問題は森崎が同じスピード・シューティングということで、それまで以上に敵視されているのが悩みの種だ。森崎自身への人望も高くないので、僕を敵視する1科生は少ないが、だからといってせいぜい必要最少限のコミュニケーションですまそうというのが、多数派というところだ。



そんなことをぼんやり考えていたら、「危ない!」という女性の声が聞こえた。皆が、前方だが反対側の車線の方を見ているので、そちらを見るとこのバスよりは小さいが、大型車がスピンをしていたところだった。そこから中央のガード壁にぶつかり宙返りをして、こちらの進路上をこちらにむかってくるところだ。

急ブレーキはかかったが、サイオンも感じた。この感じだと誰かが、このバスに減速魔法をかけたのか?

バスが減速している中で、活動できるようにシートベルトをはずしている間に、何人かが魔法を使ったようで、「吹っ飛べ」「消えろ」「止まって!」と聞こえた。だが「バカ、止めろ!」との声も聞こえてきた。魔法の発動をやめろということだろうし、魔法が多重にかかったのもわかった。このサイオンだとキャスト・ジャミングと同じく、まともな魔法はかけるのは難しいはずだ。

ブランシュの事件で、ループキャストの特化型CADの有効性がわかったので、シルバー・ホーンに振動系魔法のカートリッジをいれたのを購入したというのに、結局は、日常的に使用している、汎用型CADで術式解体をおこなうことにした。
CADなしで行う場合、単発ならともかく、連続して行うと、事象改変をおこして発火させてしまう危険性が、僕にはあるからだ。

「サイオン削ります!」

そう宣言をしながら、普段から左腕に装着しているCADの操作は終わっている。マルチキャストで、狙う魔法式を決めながら、迫ってくる大型車が射程内に入ってきたところで、大きな魔法式の順番に術式解体で吹き飛ばしていき、次々と起動式の再発動と術式解体のサイオンをとばしていく中で、

「十文字!」

十文字会頭の顔をみたが、あせっている感じがする。まだ、車両停止と、衝突時の爆発の危険性で魔法を発動できないのだろう。少したってから、

「わたしが火を」

その最後の女性の声、深雪の声が聞こえたところで、術式解体の発動はやめることにした。魔法式を吹き飛ばしたのは半分ぐらいだが、大型車のふきんの残りのサイオン量は最初の3分の1にも満たないだろう。彼女なら、残りの魔法式によるサイオン量でも影響を受けない。そう思ったからだが、彼女が魔法を発動する前に、一瞬だが、特徴的なパターンを持つ魔法式が大型車のところで複数発生している。その魔法式が消えた瞬間に、振動系魔法の魔法式が大型車にかかって、火を鎮火させている。その火が消えた状態の大型車を、十文字会頭が移動魔法の停止の壁で、受け止めていた。

しかし、大型車に視えた、あの独特のサイオンパターンは、起動式や魔法式を直接分解・無効化する術式解散『グラム・ディスパージョン』だ。魔法式を完全な把握や、定量的な把握はしなくてもよいが、定性的な事は100%わかっていなければ、術式解散は不可能だ。そうでなければ、術式解散そのものが失敗する。あの状況で、魔法式の解析ができるとしたら、達也か。どれだけの隠し玉を持っているのやら。

十文字会頭に声をかけていた七草生徒会長が、深雪や僕に声をかけてくれた。

「魔法式を削減してくれた陸名くん。深雪さんも素晴らしい魔法だったわ。あの短時間にあんな絶妙なバランスの魔法式を構築できるなんて、私たち3年生にも難しいわね」

「このバスに減速系魔法をかけてくれた誰かのおかげで、対象の魔法式を削る準備の時間を作ることができました」

「光栄です。会長。ですが、魔法式を選ぶ時間が出来たのは、市原先輩がバスを止めて下さったからのと、冷静さを保てたのはサイオン量を抑えてくれた陸名さんのおかげです。そうでなければとっさにどんな無茶をしてしまったのか、自分でも少し怖いです。市原先輩、陸名さん、ありがとうございました」

誰が減速魔法をかけたかまで見分けていたとは、魔法力だけじゃないなぁと、あらためて深雪も何らかの場数を踏んでいるのだろうと感じた。それでなければ、達也がブランシュのアジトに入ったあと、前に人がいた中で1人では残さないだろう。あのとき感じていたプシオンから、そういう推測にたどりついたのだが。

その後は渡辺風紀委員長が、一番最初に魔法を放った千代田先輩に説教をしたあとに、深雪と僕にいぶかしげな視線を投げかけているとともに、何かを問いかけたそうだったが、長くは続かずに視線をはずしてくれた。



バスは、事故の影響で、警察の事情聴取とか、現場を通過可能にするための手伝いで、30分程度の時間はさらに遅れたが、無事に宿泊予定のホテルについた。
ホテルに着いたところで、各自はぞろぞろとホテルの中へと移動していくが、深雪と僕は、達也の方へむかっていた。僕は、球形型の遮音と自然ノイズ音発生結界に纏衣を結界にかけて遠方で発生しているようにみせかけた。さらに各自の唇の付近に幻術をしかけて、話しかけようとすると達也が、

「これは、『拡散』ではないな」

「収束系魔法は僕の場合、ここまで起動式を小さくできないから、振動系魔法の方をつかっているんだよ。だから幻術がやりやすくてね」

「そうか」

「ところで現場では、エレメンタル・サイトを使っていたようだけど、あれは過去視(過去を観る能力)かい?」

「どうしてそう思う?」

「こちらに飛んできたのが不自然な気がしたので、中央のガードレールをよく視てみたら、魔法が間接的に使った形跡の残留プシオンが残っていた。そして達也が、あそこであれだけの長い時間、エレメンタル・サイトを使う必要は単純なことでは無いから、考えられるのは過去視と、あそこが爆発するかの未来視かなとも思ったけれど、未来視なら中間を飛ばせば良いだけのはずだから、そんなに長い時間は使わないだろうとね」

「そういえば、幹比古のSB魔法の痕跡も気がついていたな」

「ああ、達也と、美月さんに精霊魔法……今じゃSB魔法か。そのプシオンの痕跡が残っていたからね。彼がわざわざ人払いの結界魔法を組んで、実習棟で練習をしているのは知っていたからね」

その話をしたことがあるのは、九重寺での体術の訓練に入る前に聞いていたことだ。達也が先にくるので、少々内緒の話をするには、あそこでする。

「幹比古って?」

「吉田幹比古。名前は知っているだろう?」

「お兄様と同じクラスの方ですね?」

先に妹の質問に答えている。あいかわらずのシスコン兄貴だ。そのあと、同じクラスであることを認めてから、エレメンタル・サイトを使って過去視を行なったとの返答もあったが、魔法が使われた形跡は3種類で、自爆テロ行為だということだ。一高を狙ったのか、特定の個人を狙ったのかわからないから、とりあえず、気をつけるだけ気をつけろということで、達也がすすみ始めたので、僕も魔法を解いた。



夕刻の九校があつまっての懇親会では、制服は1科生と同じ校章がついているブレザーを新調して使っている。両親が喜んで作ったからだ。「今年2回着るだけだよ」と言ってはみたが、「2年生や3年生の九校戦でも使えるかもしれないでしょ」っていうことだ。たしかに可能性としてはあるかもしれない。今年スピード・シューティングで行うことが、今後のルール変更にならなければだが。それだけ、フェアプレイって何? というようなことをする予定だ。

懇親会ではあいかわらず、森崎の気にくわなさそうな視線を感じるが、無視したいところだ。しかし、下手に慣れるとなんらかの都合で、護身することがある場合、こういう視線に気がつくきっかけになるかもしれないから、下手に鳴らすわけにもいかない。まあ、森崎もずっと見続けているわけではないから、それでいいのだが。

達也は、壁際にたっている。どちらかというと、話したがっている生徒もいるのだが、達也の普段は、話をぶった切る感じのことも多いからな。深雪は生徒会役員として、他校の生徒会役員と話をしてまわっている。

僕の方はというと、それなりに、ほのか、雫とともに、同じ操弾射撃部にいる滝川和美や、ほのかと雫の友人として紹介を受けた明智英美に、今回、その4人と仲が良くなったという美少年っぽい感じの里見スバル。すべて達也が技術スタッフとしてCADの調整をしている女子競技の選手だ。達也がくれば、話すだろうに、こないんだよな。おかげで、森崎の視線が気にくわないっていうのが、あるのかもしれない。

まあ、どちらかというと平均以上のかわいらしい女子生徒と一緒にいて居心地がいいのか、それとも、それに一緒にいることからなのか、他の男子生徒からはやっかみの視線を受けているのを、居心地が悪いと言ったらいいのやら。

ちなみに、僕を担当してくれる技術スタッフは、五十里先輩だ。古式魔法に詳しいスタッフは達也と五十里先輩しかいなくて、達也を嫌う森崎のおかげで、制服をきていなければ、背の高い女子生徒ではないかに見える先輩が担当だ。その先輩は、婚約者の千代田先輩と一緒にいるし、五十里先輩がCADを調整している競技選手は、僕以外は1人を除いて上級生ばかりで、やはり、話づらいところがある。同学年の競技選手は、モノリス・コードに出るので、森崎と組む以上、そっちの顔をたてると言われては、僕としてもどうしようもない。

そんな時間も、来賓のあいさつで、まわりはあいさつを聞いているようだ。お偉いさんが話す内容なんてたいした変わり映えはしないから、適当に流してきいていたところ、檀上に突然パーティドレスを着込んだ女性が現れた。それだけなら、逆に驚いて見入っていたかもしれないが、弱いがプシオンを感じる。

「精神干渉系魔法だ! 気をつけろ!」

そう言いつつCAD無しでも容易にできる発火念力によって、この魔法を発動している壇上の女性の後ろの人物を照らしてみせた。

まずは周りに認識させる。

これで良いつもりだったのだが、あいにくと僕のところからは、檀上の女性の陰になっていて、その人物は見えない。まわりの反応では、何か驚いているようだが、その女性が檀上で横に移動し始めると、後ろにいたのは、じいさん……じゃなくて、九島烈(くどうれつ)……あるいは九島閣下と呼ばれている十師族の長老だった。画像でみたことしか無いが、多分そうだろう。しかも、こっちに視線を合わせてきているし。

げっ! まずったかな?

ぱらぱらと非難の視線がやってきた。九島閣下がおこなったことを邪魔したからだろうな。九島閣下の目的が何かわからないけれど。そこで一言、九島閣下から

「まずは、悪ふざけに突き合せたことを謝罪する」

その言葉で、こちらへの非難の視線は感じなくなった。

「今のは、ちょっとした余興のつもりだったのだが、すばやく気がつかれてしまった。しかし、この中でいまだに、この魔法を感じ取れていない者が多数のようだ」

まわりをみてみると、ばつの悪そうな顔をしているのが大部分だ。精神干渉系魔法で、しかもこれはエリア型魔法だろう。現代魔法では定式化されていない魔法のはずだから、九島閣下の属人性の高い魔法なのだろう。

「もし私が君たちの暗殺をもくろむテロリストで、来賓に紛れて毒ガスなりを仕掛けたとしても、それを阻むことができたのは、何人いたかな?」

今はプシオンがゆっくり消えていく。魔法式の影響が減っていくのを利用しているのだろう。発動は現代魔法で、消えるのは古式魔法に近い性質をもたらしているのか。

その後に続く九島閣下の言葉には

「魔法力を磨くのは確かに重要だが、工夫も大切だ、その工夫をこの九校戦で楽しむ」

とのことを言って、檀上から去って行ったが、工夫といわれても、精神干渉系魔法の使用は原則禁止だから、ぼけたのかねぇ、このじいさん。そんな失礼なことを考えていたが、今度は、表面にはだしていなかったはずだ。
 
 

 
後書き
大型車の複数の魔法式にたいして、達也が使ったのが術式解散『グラム・ディスパージョン』なのは、アニメ準拠にしています。 
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